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【なぜ、「向日葵の丘」を2度3度と観るリピーターが多いのか?】② [今年アクセス数500超えの記事紹介]

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【なぜ、「向日葵の丘」を2度3度と観るリピーターが多いのか?】

「向日葵の丘」もそうだが、僕の映画はリピーターが多い。通常、映画は1度見れば十分なのに、2度見た!3度見たという人が毎回いる。最初は僕自身、そのことを知らなかった。公開中の映画館に行くと、見たことのある人ががいて、「あれ? 初日も並んでいたよなあ」と声をかけ「2度目ですよね?」と訊くと「3度目です...」と言われたこともある。


「青い青い空」に至っては30回以上見た人がいるし、「朝日のあたる家」は2度3度は当たり前!という人たちがかなりいる。そして「向日葵の丘」も3回目、4回目と何人からもいわれた。声の出演をしてくれたタレントのまねだ聖子さんも関係者として、初号試写会に来て頂いたのに、映画館でさらに2度見てくれたという。そんな方、結構いるのだ。

これは何なのか? 例えば、人気アイドルが出ていて、その子を見ているだけでハッピーというファンが何度も見るなら分かるが、そんなアイドルが出ている映画ではない。また、難解なので繰り返し見ないと分からない物語でもない。そして、感動作とはいえ、繰り返し見ると、感動は冷めて泣けなくなっていくのが映画である。

にも関わらず、「何度も見ても泣ける」「見るたびに泣き所かが変わる」といってくれる人たちがいる。僕自身。何度も見れるような作りをしている訳でなく。その辺が以前から疑問だった。ただ、2回、3回見ることであることに気づく作りにはしている。

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例えばタイトルあとの多香子(常盤貴子)の部屋がそれだ。最初、見たときは気づかないが、部屋には1983年パートで活躍する8ミリカメラが置かれている。1度目の人は、「シナリオライターだから8ミリカメラ持ってんのかなあ?」「インテリアなのかな?」

と思うくらいで、深く考えない。が、2度目だと、「あーーー高校時代に映画を撮った8ミリカメラが置かれてるーーー!」と分かり、一連の悲しい物語をこの時点で思い出し、あの悲劇に向かって進んで行く物語をドキドキしながら観ることになる。

1回目は「どうなるんだろう?」「何があったんだろう?」という先が分からないドキドキで物語を追って行くが、2度目は「あんなに楽しそうな高校生生活が、あんなことになるのに....」という先が分かっていることで不安になるハラハラで観ることになる。同じ物語なのに、違った関心事で観ることになり、別の楽しみ方が出来る訳だ。

そして、多香子の部屋にはヒッチコックの本「映画術」も本棚にある。これは「83年編」でエリカ(百川晴香)と最初に出会うときに、彼女が読んでいた本なのだ。そのヒッチコックの映画を3人で初めて見る。そして、みどり(田中美里)の子供たちがヒッチコック映画が好きになり、繰り返し見ていたように、脚本家になった多香子(常盤貴子)もヒッチコックを勉強して、自作のシナリオに生かしているであろうことも想像できる。

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また、8ミリカメラは後半戦の現代編でも、多香子はまず、病室のみどり(田中美里)に見せ、次に、映画館でエリカ(藤田朋子)に見せる。カメラが親友たちとの絆と思い出を取り戻す役割を果たしている。そのカメラが多香子の部屋に置かれているだけで、2度目の観客はこれから展開する感動物語をその時点で思い出し、「あーこのカメラが3人を引き戻すんだ...」と胸熱くなる。

また、1度目は分からないけど、2度目だと、多香子は30年近くも故郷には帰っていないが、8ミリカメラやヒッチコック本の存在で、あの時代の影響や経験を今も持ち続けていること。エリカやみどりたちのと絆を感じていることが分かる。そんな仕掛けが映画の全編に渡って配置しており、2度観れば、それに気づき、別の意味で「あーそういうことか!」とか「ああ、そうだったよなあ」と感銘を受けたり、感動したりできるようになっている。

3度観れば、さらなる発見があるし、1、2度では分からなかった部分の意味が分かって来て感動できたりする。もちろん、1度でも十分感動できるのだが、2度目、3度目でないと分からない感動も隠してある。それが太田映画の特徴なのだが、そんなことが、リピーターの多い理由のひとつか?と考える。といって10回20回観てくれるのはまた別の理由かとも思うのだが、ありがたいことである。

そんな「向日葵の丘」本日が大阪公開の最終日。埼玉は5日の土曜日まで。広島の公開がまだ未定だが、この半年、日本のどこかで上映されていた「向日葵の丘」が終了となる。1度しか見てない方はぜひ、リピーターが多い秘密を確かめに行ってほしい。







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その昔、僕がトラブルメーカーと呼ばれた理由? [今年アクセス数500超えの記事紹介]

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その昔、僕がトラブルメーカーと呼ばれた理由?

昔、先輩から「太田はトラブルメーカーだからなぁ〜!」とよく言われた。といっても僕は仕事先で暴れたり、怒鳴ったりしたことはない。飲んで取り乱したこともない。にも関わらず、なぜ、トラブルメーカーと呼ばれるようになったのか?

映像の仕事はいろんなことがある。ま、通常の会社でもそうだが、理不尽なことや筋の通らないことがときどきある。上司が無茶なことを言い出したり、これまでの努力が水の泡になることもある。

あるとき、製作会社の社長から直接、任せられていた仕事があり、それが始まるのを待機。他の仕事を入れないでいた。ら、その仕事がすでに違うスタッフがやっているという話を聞いた。どうーなっているのか? 担当者に連絡すると、「別の人間に任せましたよぉ」という。だったら、まずこちらに連絡をして、依頼をキャンセルして謝罪するのが筋というものだ。

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そのためにスケジュールを空けて待っていたのだ。仕事がなくなったからと、すぐに別の仕事がある訳ではない。その月の収入がゼロになる。「来月どーやって生活すればいい?」ということになる。が、担当者は悪びれず「誰に任せるかは、こちらが決めることだよ」と開き直る。が、すでに僕は社長から依頼を受けているのだ。それを部下が何も僕には連絡せず、別の人に仕事をまわしたのだ。 

そんな理不尽なことが映像の世界ではよくある。が、ほとんどは仕事をもらうフリーのスタッフが泣き寝入りして終わる。文句をいって印象を悪くしたら、次から仕事がもらえなくなるからだ。だが、僕は黙っていない。そのときも許せなくて、殴り込みに行こうかと考えた。が、結局、徹底して抗議。何週間も揉めて、結局、事情を理解した社長が謝罪。仕事は戻らなかったが、キャンセル料が出た。

だが、その会社からは二度と仕事依頼は来なかった。社長もその社員に非があったと認めたのに、理由はともあれ会社に抗議してくるフリーのスタッフは許されないということなのだろう。おとなしく、理不尽に耐えれば、悔しくても、我慢すればまた仕事をもらえるかもしれない。それがこの業界。

なのに抗議するから事件になる。で、「トラブルメーカー」と言われるようになった。つまり、僕自身は事件を起こさないのだが、理不尽な奴がいると、黙ってられなくなり、抗議する。それを「またトラブルを起こした」と思われるのだ。

そのために、いくつもの製作会社から出入り禁止にされ、二度と仕事をくれないプロデュサーも多い。大手の会社から嫌われたことがある。「太田は世渡りが下手。単なるバカ!」と皆に言われた。けど「トラブルメーカー」と名付けた先輩は意外に僕を理解。原因は他にあること把握していた。ただ、こうもいう。

「普通、許せないことでも、相手が会社の人間とか、社長だと、仕方ないなと諦めるのに、お前は平気で抗議する。相手が強気に出たら、余計に対抗して行く。不思議な奴だよな?」

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それから10年以上が経ち、今は仕事を依頼されるより、自身で企画し、僕が中心となってプロジェクトを進めることが多くなった。上からものいう奴がいなくなり、その種のもめ事はなくなる。が、こちらが仕事を頼んだ会社や取引しているタレント事務所が理不尽なことを始めたら許さない。バカなことをするプロデュサーは追放、いい加減な俳優は出入り禁止だ。

けど、それを「また、太田がトラブルを起こしているよ」とはもう言われない。ようやく、トラブルを起こしたのだが誰か? 理解される環境になったということか? ま、僕は言い出したら聞かないので、まわりが何とかしようとしてくれたりはする。ただ「***さんの顔を立てて我慢」とか、「***社とは今後も取引があるので穏便に」はしない。映画を歪めたり、足を引っ張る奴はそこで終わりと思っている。

「監督。もう少し大人になりましょうよ?」

と若いスタッフにも言われたこともあったが、それは譲れない。まわりにいい顔をしたり、無難に仕事ができることではなく、大事なのは素晴らしい映画を作ること。誰かの機嫌を取ることではない。それも次第に理解されて、今では大きな事件になることは少ない。が、「トラブルメーカー」で居続けることは大切だと思う。

おとなしく、我慢して、理不尽に耐えていても、次のステップには上がれない。大事なのは耐えることではなく、どうすれば問題を解決できるか? を考えること。喧嘩すればいいというものでないことも分かっている。が、耐えていても問題は解決しない。どんなときでも足掻き、声を上げ、戦うことは大事。そんなふうに考える。

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今年500アクセスを超えた人気記事13本を再掲載だ! [今年アクセス数500超えの記事紹介]

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 年末スペシャル?!

 今年、8月に公開された「向日葵の丘」

 このブログは

 その映画館公開情報や製作秘話。

 或いは、映画界の話。監督業の話。
 
 さらには僕が感じたこと。考えていることなどなど
 
 このブログにはいろんな記事を掲載してきた。

 その中で、9月ー12月で

 500アクセスを超えた記事を再掲載する。

 映画館情報や舞台挨拶の日時告知などは、簡単に1000アクセスを超えるので除外。

 記事で高アクセス数のものを紹介する。

 中には600超え、1000超えも含まれている。

 そしてなんと、1万アクセス超えもある。

 「あーーこの記事読んだ読んだ!」

 と思ってもらったり

 「へー何で、この記事が人気だったんだろう?」

 とか、思って読んでもらえると、また違った楽しみ方ができると思う。

 年末、年賀状も書いた。大掃除もした。テレビも詰まらないし

 という方。1時間ごとに12本ほどアップして行くので、ぜひ。

 続けて読むと、僕と「向日葵」のこの数ヶ月が見えて来るかも?

 よろしく!

 

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【向日葵の丘」藤田朋子さんが演じたエリカ役はいかにして誕生したか?】 [インサイド・ストーリー]

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【向日葵の丘」藤田朋子さんが演じたエリカ役はいかにして誕生したか?】

常盤貴子さん演じる多香子。田中美里さん演じるみどり。この2人の役がいかにして誕生したか?2回に渡ってご紹介した。ここまで来たらやはり、藤田朋子さん演じるエリカも書かねばなるまい。

前者2人は以前に書いたようにモデルがいる。多香子は衛星放送の女性ディレクター。みどりは僕の高校時代の友人。さあ、エリカはどうか? 実はエリカは全然違う発想で作られた。

今回、映画研究部の3人と、その後として物語を作った。その際に主人公は3人にした。多香子はご存知の通り、30年近い歳月を悲しみを抱えて生きて来た。みどりは余命幾ばくもない悲しい境遇。そうなると3人目も悲しいと、とても暗い物語になる。「魔法使いサリー」で言えば、サリーは真面目で一途、すみれちゃんは優等生。だから、ヨッちゃんは3枚目でコミカルなのだ。物語は3人とも真面目でシリアスではいけない。

で、考えた。3人目は普通ではいけない。といって3枚目も当たり前。それぞれに個性がほしい。よく女の子が複数登場する物語は、皆似たようなタイプになることが多い。多くが元気で可愛いタイプ。主人公以外は同じに見える。そこで3人目は笑いが取れるけど、3枚目ではなく、どちらかというとクールなタイプがいいかな?と考えた。

それと同時に、前々から「いつか藤田朋子さんに僕の監督作に出てほしい!」という思いがあった。彼女とは1995年の日米合作ドラマ「GAIJINー開国」という作品でご一緒して、その凄さを痛感。日本の女優を超えるもの凄い存在だと感じた。それ以来、いつか僕の映画に!と考えていた。が、僕は監督デビューすらしておらず。それから15年後。2010年の「青い青い空」で先に藤田さんから「出たい!」とアプローチをしてくれて、特別出演とあいなった。感謝。

その辺は「青い青い空ー監督日記」のこの章で=> http://takafumiota08.blog.so-net.ne.jp/2012-07-11   

(以下の写真。藤田さんと僕 6年前の2009年)
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しかし、彼女は国民的女優。誰もが知る存在。その後も、彼女の人気を利用するような出演をしてもらうのは気が引けた。また「渡る世間」等のおしゃまな朋子ちゃんキャラをお願いするのも嫌だった。これまで彼女が演じたことのない「おーこれは面白そう!」と思ってくれる役でないとお願いしないと決める。本当に彼女に相応しい役を思いついてこそ、依頼すべき。それが仁義だ。20年考えて、ついに思いついたのが帰国子女の役。英語が得意で、ちょっとぶっ飛んでいる。クールにものごとを見ているけど、本当は寂しがり屋の役。

それを藤田さんが演じてくれれば、かなりいいかも? と思えた。そこまで考えて、その役を「向日葵の丘」3人組の1人にもって来れるなあ!と気づいた。それがエリカとなる。そこから、あれこれ考えて、映画が好き=>学校でいじめられる=>登校拒否=>映画館に入り浸る=>アメリカの大学=>日本が嫌い=>アメリカ人と結婚=>でも、高校時代の思いを抱えている。というエリカを思いついた。

細かな部分はいろんな友達の話を繋ぎ合わせたが、基本、「藤田さんがこんな役を演じるといいなあ〜」と考えて作った。そして、リアリティより少しデフォルメして、アニメティックなキャラに仕上げた。だから、台詞のいい回しが、宝塚歌劇風。台詞も「私」とはいわず「僕」という。別のいい方をすると、シャーロックホームズ風の話し方なのだ。「ワトスン君。いいところに気づいたね!」とかいう感じ。エリカはそこに個性を持たせた。

さらに、他の2人はジーンケリーやオードリーヘップバーンが好きなのに対して、エリカはヒッチコックが好きというのも個性となる。多香子、みどりとは明らかに違うキャラ。だからこそ、他の2人の個性も生きて来て、物語もおもしろくなる。これは藤田朋子という名女優がいてこそ、作ることができたキャラクターである。

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だが、藤田さんが気に入らなかったら大変。彼女のために作った役だから、他の人には演じられない。さあ、どーなる?と依頼したら「ぜひ!」という返事が来てほっと一息。長年、出演してほしかった藤田さんにメインキャストの1人を演じてもらうことができた訳だ。そして、多くの観客から「エリカがよかった!」「藤田朋子の存在を忘れて、エリカそのものだと思い映画を見てしまった!」と数々の賞賛を頂いた。

こんなふうに同じメインの3人も、それぞれに違った背景で役が作られている。なのに、画面の中では全然違和感なく、成立している。面白いものでしょう?


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「向日葵の丘」田中美里さんが演じたみどり役はいかにして誕生したか? ー死んだ高校時代の友人への思いを物語に託す [インサイド・ストーリー]

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【「向日葵の丘」の物語はいかにして誕生したか?!⑥】

ー死んだ高校時代の友人への思いを物語に託す

事実をベースにした物語は観客を打ちのめし、感動させるーこれは、いろんな映画や小説を読むたびに感じることであり、自作の「朝日のあたる家」でも痛感したこと。だから、「向日葵の丘」でもそれを実践した。

まず、高校時代編の映画研究部。僕は高校時代映画研究部ではなかったが、大阪の学校に通い、帰宅時には頻繁に映画館に立ち寄る。学校帰りによく行ったのは東大阪市の布施にある映画館。「来週は何の映画が上映されるんだろう?」と映画館を覗きに行く。「近日上映」のポスターを見て「おーあれが上映されるんだ」と喜んだりした。

そして同じ布施の本屋で、映画雑誌「スクリーン」や「ロードショー」を立ち読みする。クラスには映画好きがおらず、他のクラスにいる映画ファンの生徒とよく映画談義で盛り上がったりした。その友人とドキュメンタリー映画を作り、文化祭で上映したこともある。そんな経験を若き日の多香子やみどりに投影した。支配人と仲良くなり、映画の話を聞かせてもらったり、映写室を見せてもらうのも実話である。カメラはもらわなかったけど。

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多香子たちが8ミリ映画を製作するのは、僕が20歳前後に横浜で学生映画をやっていたときの経験を生かした。8ミリ映画を作るには、カメラを用意し、フィルムを買い、現像、編集となかなか面倒。それぞれの勉強をせねばならない。その辺をリアルに再現した。なので、劇中に登場する情報。特に8ミリ映画に関する部分は全部事実。83年当時には白黒フィルムはすでになかったが、海外では存在。85年に留学したときには、白黒でフィルムをまわした。

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町の人たちも、それぞれにモデルがいる。子供の頃に通ったたこ焼き屋のおばちゃん。映画では鯛焼き屋になっている。本屋、カメラ屋、こんな人いたよねーと思えるタイプを実際にいた人からキャラを頂いた。そして、みどり。若き日を藤井武美さんが、大人になってからを田中美里さんが演じてくれた、みどり。彼女もまたモデルがいる。

実際は男性だが、本当に僕の同級生で、映画が好きで、会うと映画の話ばかりしていた。先に紹介したドキュメンタリー映画を一緒に撮り、文化祭で上映したときの友人だ。大学卒業後も、東京には出ず地元で就職。結婚した。ただ、映画のように喧嘩別れせず、その後30年近く、付き合いは続いた。

映画の舞台となった1983年に僕が作った自主映画の撮影も手伝ってくれた。が、そんな彼はみどりと同じように病気になり、亡くなる。そのあとに奥さんから「家では太田が、太田が、って、太田さんの話をよくしていたんですよ」と聞いた。そして、奥さんにこんなこともいっていたそうだ。

「太田は昔から映画監督になるっていってて、ホンマに監督になった。でも、1作目は泣けへんかった。お前はボロボロに泣いていたけど、あれではアカン。今度会ったら、しっかり言うたるんや。今、新作作ってるらしいし、公開されたらまた家族3人で見にいこか?」



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しかし、彼はその映画を見ることなく、亡くなった。その直前、医者から「あと1ヶ月」と言われたとき、奥さんは僕に電話をくれた。なのに、当時、仕事をしていた製作会社がギャラの不払い、立て替えていた膨大な経費も払おうとしなかったため、携帯代も払えなくなり、解約されて、電話がない時期だった。そのため、奥さんが連絡をくれたにも関わらず、僕は友人が死んだことも知らなかった。数ヶ月後、共通の友人から知らせを受けて、奥さんに連絡した。

「太田さんとはお会いしたことはないけど、主人からいつも話を聞いていたので、昔からの友達から電話もらったような気がしてます」

そして、友人の最後の様子を聞かせてくれた。奥さんはいう。

「あの人に・・・・・・最後、一度でええから、太田さんと会わせて上げたかった・・・・・映画の話・・・・いっぱいさせて上げたかった・・・」

涙が止まらず、言葉にならなかった。その後、僕の新作映画は公開されたが、友人はそれを見ていない。その友人をみどり役のモデルにした。そして、僕が見舞いに行けなかった代わりに、多香子に見舞いに行ってもらった。病室で映画の話をいっぱいして、最後は一緒に懐かしの映画館で8ミリ映画を見てもらった。僕ができなかった思いを多香子に託した。

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シナリオを書きながら、涙が止まらなかった.....。友人は妻と子を残し、40代で逝ってしまった。僕はその死に目に会うこともできず、死んだことも知らなかった。あのとき、製作会社がちゃんとギャラを払っていてくれれば......こんなことにはならなかったのに.....と恨んだりした。が、一番考えたのは「幸せって何だろう?」ということだった......。

友人は理解ある女性と結婚。子供もいて幸せに生活していた。不況で会社が大変だとボヤイていた。sそんな彼は高校時代からある夢があった。僕が映画監督を目指したように、彼もある職業を夢見た。でも、それを諦めて就職。それからは僕を応援してくれていた。会うたびに飯をおごってもらった。「早く監督デビューしてくれよ!」と毎回言われた。僕は留学から帰って10年以上かかり監督になった....。

監督業は貧しく、大変。結婚もできない。それに対して夢は諦めたが、安定した生活をして、愛する妻がいて、幸せに暮らす友人。世の中、そんなもんだよなあ〜と、ある意味羨ましく思っていていたのに、その友人が40代で逝ってしまった。神様。それはないだろう? 彼が何をしたというの? 何も悪いことしてないでしょう? 何でそんな仕打ちをするの?

でも、それが現実。だから、考える。「幸せって何だろう?」そう考えて「向日葵の丘」の根幹のストーリーは、友人の死をメインにした。彼の人生って何だったんだろう? そして自分の人生って何だろう? そんな思いを込めて、シナリオを書いた......。(つづく)



【「向日葵の丘」常盤貴子さんが演じた多香子はいかにして誕生したか?】 [インサイド・ストーリー]

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【「向日葵の丘」常盤貴子さんが演じた多香子はいかにして誕生したか?】

前回は田中美里さん扮するみどりのモデルについて書いた。今回は常盤貴子さん演じる多香子について説明する。多香子の仕事はシナリオ・ライターだが、なぜ、その職業にしたか? から始めよう。

仕事は脚本家だが、物語にそれはあまり関わって来ない。冒頭のテレビ局で書いた原稿をボツにされるだけだ。新人賞を狙う努力や主演俳優との恋が描かれた物語ではない。では、なぜ、シナリオライターという設定にしたのか? OLとか、看護師さんではなぜ、いけないのか? 「女性のシナリオライターってカッコイイじゃん?」ではいけない。物語というのは、全てに意味があり、それが生きて来なければ設定してはいけない。

「向日葵の丘」のテーマは「幸せって何だろう?」というものだ。例えば多香子がOLだとすると、なぜ、そんな女性が映画館であんな感動的なスピーチをするのか?と違和感を持つ人がでるかもしれない。「いやいや、OLだって幸せに関して考える人がいるはずだ!」と言う人もいるだろう。が、映画を見る多くの人が、ああ、この人ならあんなことを言ってもおかしくないな...と思う設定が必要なのだ。

その点でシナリオライターというのは、物語を書く仕事。幸せや不幸に対峙するストーリーを作る。日頃からそんなことを考えている。そうすると映画館でのスピーチの背景が見えて来る。また、高校時代の部活が映画研究部。その部分を生かし、関連づける意味でも映画関係の仕事というのも分かりやすい。そんなことから多香子をシナリオライターと設定した。

では、シナリオライターという職業に見える女優は誰か? 考えた。これがなかなか難しい。フォトグラファーなら、カメラを持たせればそれなりに見える。ファッション・モデルも奇麗な人ならOK。OLもさほどむずかしくない。だが、脚本家は少々違う。クリエイティブな仕事であり、あれこれ物語を考える。そんなことをやっていそうな女優さんって誰だろう? 

その昔、人気女優のOさんがカメラマンの役を演じたが、戦場で悲惨な光景を撮る人には見えなかった。そんなふうにしたくない。いろいろ考えた。Aさんは年齢的にOKだが、クリエーターに見えない。Bさんも、Cさんも奇麗だが違う。奇麗なOLとか、ファッションモデルなら行けるが脚本家ぽくない。Dさん。Eさん。こちらも知的だが、雑誌編集者とか、新聞記者ならできるが、脚本家という感じではない。

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あれこれ考えて、常盤さんを思い出した。90年代。「愛しているといってくれ」から、彼女のドラマはかなり見ていた。一生懸命さがあり、まっすぐな感じ。無邪気さと健気さがある。そして、多くの女優と違うのは、クリエイティブな感じがある。詩を書いたりしていそうな気がする。好きな映画も「タイタニック」のようないかにも女性が好きな映画ではなく、マイナーなヨーロッパ映画が好きだったりしそうな感じ。

「うん! いいな〜」でも、彼女は第一線で活躍するトップ女優。僕なんかの映画に出てくれるか? 限りなく無理っぽいが、とにかく常盤さんのイメージでシナリオを書くことにした。役名は「貴子」からもらい「多香子」とした。通常、シナリオを書くときは、ここまで明確に俳優をイメージして書くことは少ないが、僕の場合は身近な友人とか、特定の俳優さんをイメージしてキャラクターを作る。

次のステップ。取材。男性の脚本家が女性を主人公を書くと、往々にして女性から見て違和感があるキャラになりがち。男性は憧れで女性キャラを書いてしまうからだ。それが男性主人公の恋人役ならいいが、主人公だと厳しい。1人称なので、憧れだけではいけない。そこで、事前に取材をする。そうして女性のいいところだけではなく、ズルいとこ。姑息なところ。ひがみぽいとこ。いろんなマイナス部分も描くことで、人間的なキャラとなる。

衛星放送でディレクターをしている女性Mさん。30代。いろんなことに興味を持ち、1人でビデオカメラを持ち取材。インタビューから原稿作り。放送まで全てを担当。忙しく飛び回っている。僕が監督した前作「朝日のあたる家」の密着取材をしてくれた方。なかなかの情熱系で、ちょっと抜けているところもあるが、一生懸命。現場を見ていると心配になるが、放送された番組を見ると凄くよく出来ていた。技術とかより「思い」が素晴らしい番組になっていた。


Mさんは脚本家ではなく、テレビディレクターだが、彼女をモデルにして多香子を書こうと考え、取材をお願いした。1日の仕事から、プライベート。実家の話。大学の話。以前は僕が密着取材をされたが、このときは僕が徹底取材。いろいろと聞かせてもらった。どーしても、僕は男性の映画監督なので、女性を主人公にシナリオを書くときには注意が必要。男性の価値観や目線で台詞や行動を書くと、違和感が出る。男性客が見ても気づかなくても、女性が見たら「??」ということになる。だから、徹底してMさんからいろんなことを聞いた。

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次に本物の女性シナリオライターに取材。僕自身がもともとシナリオライターなので、仕事内容はよく分かっているが、女性のライターはどうなのか?を調べなければと考えた。そこで友人で、僕の映画を1作面から応援してくれている脚本家のSさんを取材させてもらった。40代。彼女は何本も映像化されたシナリオを書いているし、シナリオ学校で先生もしている。そして美人! 常盤さんイメージなら、やはりその種の女性をモデルにせねば。Sさんから、女性ならでは苦労等も聞かせてもらい。部屋ではどんな服で仕事をしているか? プロデュサーと会うときはどんな格好か? 日頃は何をしているか?等も聞かせてもらい参考にした。

こうして主人公の多香子は常盤さんのイメージで、2人の女性をモデルにしてキャラクターを作り上げた。ロケハンに行ったときは「ああ、この田舎駅のプラットホームを常盤さんが歩くと素敵だろうなあ」と思いながら、その風景を撮影。その後、シナリオが完成。イメージした常盤さんに出演依頼した。通常は第1候補。第2候補と、3−4人の候補者を決めて、順にアプローチするのだが、執筆中もいろいろ考えたが、常盤さん以上に多香子ができる人は思いつかなかった。物語を書き進めるにつれてその実感が強くなり、結局、他の候補者なしに、常盤さんの事務所のみに依頼した。

人気、実力共にトップの女優。おいそれとは出てもらえないだろう。と思っていたのに、何と!OK。依頼しておいて、驚いた。もし、ダメでも他の候補はいない。それが天下の大女優が出演してくれることになったのである。映画をご覧になった方は、すでにご存知の通り。見事な演技。いや、演技を超えた演技を見せてくれ、多くの観客を号泣させることになる。

さて、モデルとなった女性ディレクターのMさんはというと、マスコミ試写会で「向日葵」見てくれた。自分がモデルというのは不思議な感覚だったらしいが、こう話してくれた。

「私は脚本家ではないし、実家には毎年帰っている。高校時代も映画研究部ではないので、明らかに多香子とは違うのだけど、映画を見ていると、どこかに自分がいて、私自身が忘れていた感情や思いが蘇って来た。監督に話した自分自身がどの箇所とはいえないけど、常盤さんから感じてくるんです」

こんな感じで「向日葵の丘」の主人公・多香子は誕生し、映画の中で故郷に帰り、感動の物語を繰り広げたのである。映画作りって面白いでしょう?


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「向日葵の丘」予告編ロングバージョンを配信中。(再掲載) [予告編]



「向日葵の丘」予告編ロングバージョンを配信。

公開前は「ここぞ!」という場面は予告編にはいれない。80年代の角川映画のように、泣ける感動場面だけを抜き出して予告編にすると、本編を見たときに感動できないからだ。

しかし、「向日葵」公開からすでに3ヶ月目に入った。観たい人はもうかなり観てくれている。そこで名場面を多めに入れたロングバージョンの予告編を作ってみた。ハリウッド映画でも、この時期になると、その種のものを公開する。

それによって、先の予告を観ただけは「観たい!」と思わなかった人も興味を持ってくれる。それとすでに観た人も感動場面を再見して「もう一度、観たい!」と思ってもらうのが目的。

それでもまだ予告編で未公開の感動シーンはあるし。紹介する涙の場面も一部に過ぎない。映画館で観てもらえれば、感動してもらえる。その予告編。昨夜、テスト的に配信したら大好評。
完全版を配信。よろしくお願いします。

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【体が疲れ果てると、心も疲れ果てる。未来が見えなくなる?】 [公開終了後]

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【体が疲れ果てると、心も疲れ果てる。未来が見えなくなる?】

ここ数日、寝込んでいた。僕は意思が強く、前向きな方だと思っているが、やはり過労でダウンし、寝込むと、考え方が暗くなり、後ろ向きになってしまう。病気の人がネガティブになることよく分かる。4年前。あのときもベッドの上で、あれこれ絶望的な思いをしたことも思い出す。

映画というのは本当に厳しい世界。他の仕事もしなければ生活ができない。やはり仕事というより人生を賭けた戦いなのだと思う。もちろん、適当なものを作り、予定調和で「こんなもんでしょう〜?」といっていればお仕事で済む。それをギャラを超えて行動し、プライベートも、睡眠時間も削って作品作りに賭けないと、本当にいいものはできない。

午後5時だから仕事終わりとか。日曜だから休みーではダメ。6人7人分の仕事をして、寝る時間を削り、製作費以上の努力をしなければ、素晴らしい作品にはならない。そして宣伝も人任せではダメ。監督が率先してやらないとヒットしない。日本中を飛び回り、映画の感動を伝えなければならない。

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だが、やり終わったときに残るのは、ボロボロになった体と、疲れ果てた心。待っているのは長期に渡る自宅入院生活。それならまだいい。本当に入院。過労死ということもありえる。黒澤明監督も、映画が完成すると倒れて入院する。そのときに病院の窓から地上を見下ろすと飛び降りてしまいたくなるという。あれほどの巨匠でも心も体も疲れ果ててしまうのだ。

そんなことをベッドの上で考える。体が限界を超えた状態はまるでフォースの暗黒面に囚われて行くような苦しさがある。何度も怖い夢を見て、はっと目が覚めると、あー夢か〜と思うのだけど、具体的には思い出せない。深夜に1人起きたまま、ヨロヨロとたち上がり、水を飲む。いつになったら、外出できるのか? 元気になれるのか? もう、何年もこのままではないか? そのうち貯金も尽きて、路頭に迷う? アパートを追い出されて、新宿駅で段ボール生活?

そんなことばかり考えてしまう。映画スタッフならいろいろ仕事があるが、監督業の需要は少ない。待っていて依頼が来るのは本当にまれ。自分で企画して、自分で動かなければならない。でも、そのためには何年もかかる。どーすればいい? 4年前にベッドの上で、天井を見ながら考えたことを思い出す。どー考えても明るい未来は想像できず。さらに迷路から出る事ができない。

健康を損なうと、そんなふうに希望や未来さえも見えなくなる。結局、4年前は半年ほど寝込んで、その後、思いもかけなかった作品、「朝日のあたる家」に繋がっていくのだが、さて、今回はどうなるのか? そんなことを考えながら、この数日。寝込んでいた。でも、まず、元気になるのこと。しばらくは休養をとること。そうしてこそ、未来への可能性が見えてくるはずだ。


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【「原発ホワイトアウト」今頃読んでいます。どんな小説か少し紹介!】 [読書の話]

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【「原発ホワイトアウト」今頃読んでいます。どんな小説か少し紹介!】

現役キャリア官僚のリアル告発ノベルーとして話題になった小説「原発ホワイトアウト」。ベストセラーにもなり、テレビや雑誌でもあちこちで取り上げられた。「朝日のあたる家」を監督した僕なら当然、読んでなければならない本なのに、実は今、読んでいる。あー遅過ぎ!

その理由は発売が2013年の9月。つまり、僕はすでに「朝日」のシナリオを書き上げ、撮影も済ませ。編集して、映画館で公開された頃に発売されたからだ。取材中にはまだ世に出ていなかったのだ。そして、映画公開後は怒濤のような宣伝活動。日本縦断舞台挨拶ツアー。さらに、それとダブって「向日葵の丘」の準備。「朝日」公開終了から数ヶ月で「向日葵」撮影。

そして「向日葵」の全国公開が終わったのは今月。という訳で僕はその本を読む時間が本当になかったのだ。「努力が足りない!」と言われるかもしれないが、この間の行動はこのFacebookにも記録してきたが、監督業だけでなく7人分くらいの仕事をこの4年間続けて来ており、とりあえず、目の前に迫る問題や目標を追いかけるので精一杯だった。そんな訳で、毎度のことだが、過労で倒れてから、ベッドの上で、読めなかった本を読んでいる。

さて、中身だが、なぜ、この本「原発ホワイトアウト」が話題になったかは、マスコミで言われているので知っていた。現役のキャリア官僚が書いた小説だからだ。つまり、物語の形をとってはいるが、たぶん、中身は事実ということなのだろう。実名では書けないので、物語の形を借りて描いているどころ。「へーーーそんなことあったのかあ!」「実はこういうことか?」という驚きがあると思えた。

ただ、心配だったのは作者は官僚であり、プロの作家ではない。以前、ライター時代に現役新聞記者が書いた小説というのを読み、ある雑誌上でインタビューさせて頂いたこともある。こちらも現場をご存知な方。新聞では記事にできない事実を小説に織り交ぜていると思える。が、その方もやはり本来はプロの作家ではないので、文章がもう一息なのだ。やはり、読ませる力が弱い。「ジャッカルの日」のフレデリック・フォーサイスも元ロイターの特派員だが、小説も面白かった。が、それはまれなこと。

「原発ホワイトアウト」もそんなところがあるのでは?と心配していた。読んでみると、確かに、その部分はある。だが、うまい手法を使っているのは、「ジャッカルの日」のように、事実を盛り込むことで、物語を面白くするのではなく。事実を伝えるために、小説的表現をしているのである。つまり、物語としてのエンタテイメントが目的ではなく、原発ムラや政府側、電力会社の事実、或いは思惑、正体を伝えることが目的なのだ。

なるほど、そういうことか! 読んでいくと山本太郎さんや泉田知事をモデルにした登場人物も出て来る。なぜか、古賀茂明さんだけは実名で登場する。そこからも分かるのは、内部事情を告発する上で、実名にするより、物語にすることで様々な障害を取り除いたということなのだろう。作者が官僚なだけに、官僚のパートは面白い。あの人たちはこんなことを考えているのか? なるほど〜だから、あんなこというのね?とか納得できることがかなりある。次回はその辺を具体的に紹介したい。


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