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【「向日葵の丘」常盤貴子さんが演じた多香子はいかにして誕生したか?】 [インサイド・ストーリー]

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【「向日葵の丘」常盤貴子さんが演じた多香子はいかにして誕生したか?】

前回は田中美里さん扮するみどりのモデルについて書いた。今回は常盤貴子さん演じる多香子について説明する。多香子の仕事はシナリオ・ライターだが、なぜ、その職業にしたか? から始めよう。

仕事は脚本家だが、物語にそれはあまり関わって来ない。冒頭のテレビ局で書いた原稿をボツにされるだけだ。新人賞を狙う努力や主演俳優との恋が描かれた物語ではない。では、なぜ、シナリオライターという設定にしたのか? OLとか、看護師さんではなぜ、いけないのか? 「女性のシナリオライターってカッコイイじゃん?」ではいけない。物語というのは、全てに意味があり、それが生きて来なければ設定してはいけない。

「向日葵の丘」のテーマは「幸せって何だろう?」というものだ。例えば多香子がOLだとすると、なぜ、そんな女性が映画館であんな感動的なスピーチをするのか?と違和感を持つ人がでるかもしれない。「いやいや、OLだって幸せに関して考える人がいるはずだ!」と言う人もいるだろう。が、映画を見る多くの人が、ああ、この人ならあんなことを言ってもおかしくないな...と思う設定が必要なのだ。

その点でシナリオライターというのは、物語を書く仕事。幸せや不幸に対峙するストーリーを作る。日頃からそんなことを考えている。そうすると映画館でのスピーチの背景が見えて来る。また、高校時代の部活が映画研究部。その部分を生かし、関連づける意味でも映画関係の仕事というのも分かりやすい。そんなことから多香子をシナリオライターと設定した。

では、シナリオライターという職業に見える女優は誰か? 考えた。これがなかなか難しい。フォトグラファーなら、カメラを持たせればそれなりに見える。ファッション・モデルも奇麗な人ならOK。OLもさほどむずかしくない。だが、脚本家は少々違う。クリエイティブな仕事であり、あれこれ物語を考える。そんなことをやっていそうな女優さんって誰だろう? 

その昔、人気女優のOさんがカメラマンの役を演じたが、戦場で悲惨な光景を撮る人には見えなかった。そんなふうにしたくない。いろいろ考えた。Aさんは年齢的にOKだが、クリエーターに見えない。Bさんも、Cさんも奇麗だが違う。奇麗なOLとか、ファッションモデルなら行けるが脚本家ぽくない。Dさん。Eさん。こちらも知的だが、雑誌編集者とか、新聞記者ならできるが、脚本家という感じではない。

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あれこれ考えて、常盤さんを思い出した。90年代。「愛しているといってくれ」から、彼女のドラマはかなり見ていた。一生懸命さがあり、まっすぐな感じ。無邪気さと健気さがある。そして、多くの女優と違うのは、クリエイティブな感じがある。詩を書いたりしていそうな気がする。好きな映画も「タイタニック」のようないかにも女性が好きな映画ではなく、マイナーなヨーロッパ映画が好きだったりしそうな感じ。

「うん! いいな〜」でも、彼女は第一線で活躍するトップ女優。僕なんかの映画に出てくれるか? 限りなく無理っぽいが、とにかく常盤さんのイメージでシナリオを書くことにした。役名は「貴子」からもらい「多香子」とした。通常、シナリオを書くときは、ここまで明確に俳優をイメージして書くことは少ないが、僕の場合は身近な友人とか、特定の俳優さんをイメージしてキャラクターを作る。

次のステップ。取材。男性の脚本家が女性を主人公を書くと、往々にして女性から見て違和感があるキャラになりがち。男性は憧れで女性キャラを書いてしまうからだ。それが男性主人公の恋人役ならいいが、主人公だと厳しい。1人称なので、憧れだけではいけない。そこで、事前に取材をする。そうして女性のいいところだけではなく、ズルいとこ。姑息なところ。ひがみぽいとこ。いろんなマイナス部分も描くことで、人間的なキャラとなる。

衛星放送でディレクターをしている女性Mさん。30代。いろんなことに興味を持ち、1人でビデオカメラを持ち取材。インタビューから原稿作り。放送まで全てを担当。忙しく飛び回っている。僕が監督した前作「朝日のあたる家」の密着取材をしてくれた方。なかなかの情熱系で、ちょっと抜けているところもあるが、一生懸命。現場を見ていると心配になるが、放送された番組を見ると凄くよく出来ていた。技術とかより「思い」が素晴らしい番組になっていた。


Mさんは脚本家ではなく、テレビディレクターだが、彼女をモデルにして多香子を書こうと考え、取材をお願いした。1日の仕事から、プライベート。実家の話。大学の話。以前は僕が密着取材をされたが、このときは僕が徹底取材。いろいろと聞かせてもらった。どーしても、僕は男性の映画監督なので、女性を主人公にシナリオを書くときには注意が必要。男性の価値観や目線で台詞や行動を書くと、違和感が出る。男性客が見ても気づかなくても、女性が見たら「??」ということになる。だから、徹底してMさんからいろんなことを聞いた。

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次に本物の女性シナリオライターに取材。僕自身がもともとシナリオライターなので、仕事内容はよく分かっているが、女性のライターはどうなのか?を調べなければと考えた。そこで友人で、僕の映画を1作面から応援してくれている脚本家のSさんを取材させてもらった。40代。彼女は何本も映像化されたシナリオを書いているし、シナリオ学校で先生もしている。そして美人! 常盤さんイメージなら、やはりその種の女性をモデルにせねば。Sさんから、女性ならでは苦労等も聞かせてもらい。部屋ではどんな服で仕事をしているか? プロデュサーと会うときはどんな格好か? 日頃は何をしているか?等も聞かせてもらい参考にした。

こうして主人公の多香子は常盤さんのイメージで、2人の女性をモデルにしてキャラクターを作り上げた。ロケハンに行ったときは「ああ、この田舎駅のプラットホームを常盤さんが歩くと素敵だろうなあ」と思いながら、その風景を撮影。その後、シナリオが完成。イメージした常盤さんに出演依頼した。通常は第1候補。第2候補と、3−4人の候補者を決めて、順にアプローチするのだが、執筆中もいろいろ考えたが、常盤さん以上に多香子ができる人は思いつかなかった。物語を書き進めるにつれてその実感が強くなり、結局、他の候補者なしに、常盤さんの事務所のみに依頼した。

人気、実力共にトップの女優。おいそれとは出てもらえないだろう。と思っていたのに、何と!OK。依頼しておいて、驚いた。もし、ダメでも他の候補はいない。それが天下の大女優が出演してくれることになったのである。映画をご覧になった方は、すでにご存知の通り。見事な演技。いや、演技を超えた演技を見せてくれ、多くの観客を号泣させることになる。

さて、モデルとなった女性ディレクターのMさんはというと、マスコミ試写会で「向日葵」見てくれた。自分がモデルというのは不思議な感覚だったらしいが、こう話してくれた。

「私は脚本家ではないし、実家には毎年帰っている。高校時代も映画研究部ではないので、明らかに多香子とは違うのだけど、映画を見ていると、どこかに自分がいて、私自身が忘れていた感情や思いが蘇って来た。監督に話した自分自身がどの箇所とはいえないけど、常盤さんから感じてくるんです」

こんな感じで「向日葵の丘」の主人公・多香子は誕生し、映画の中で故郷に帰り、感動の物語を繰り広げたのである。映画作りって面白いでしょう?


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