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前作を超えること。作家に課せられた地獄の宿命? [映画業界物語]

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 大人気の劇団。「A」「A城(再演)」は数十分でチケットが完売した。その劇団の舞台を久々に見た。

大ヒット作「A」の後の舞台「B」でかなり迷いを感じ、失速したように思えた。批判は簡単。考えてみる。劇団でも作家でも、ある種の目的(作品作りの上で)を持ち、突き進んで行く。だが、それを達成し、頂点を極め、人気も評価も得たあとというのは本当に大変なものだ。

 その後は次なる目標を探し、それに向かってがんばるのだが、あの劇団は「B」以降、今もそれが見つかっていないように思える。

そこで、ここしばらくは

「***」というフィールドで新たなる目的ーを探しているように思える。今回も前半はそれ。それがクライマックスになり大量殺戮があるあたりから、あの劇団らしさを発揮。盛り上がった。

 個人的には久々に堪能。あの頃の興奮を少し思い出したのだが、厳しい言い方をすると、やはり、あの頃には及ばない。実際、あの頃は幕が降りると観客は全員総立ち。カーテンコールを4回くらいやったが、今回は3回。観客は誰も立ち上がらない。終演後も、劇場を出ると以前は多くの客が興奮して携帯で「今、終わった。凄かった!」「最高!」とか友達に連絡していたが、今回は熱く語る人たちが結構いたという程度。

 次の目標が見つからないと、作家は過去の得意技を使い盛り上げる。が、それは最盛期のパワーを持っていはいない。悲しいけれど、勢いがないときに技術だけで戦っても観客を満足させることはできないのだ。


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 実はそんな手法で対応できることさえ凄いことなのだが、

全盛期を知るファンには物足りないものがあった。それは実力が落ちたのではなく、ひとつの目的を果たしてしまったあとに訪れる作家(劇団)の宿命。いつまで経っても全盛期と比較される。だから、次の目的を見つけ、新しいスタイルを探さなければならない。

 スピルバーグもエンタテイメント(「インディ」や「ET」)を極めたあとに、「シンドラー」「カラーパープル」という文芸路線に進んだように、頂点を極めると、同じことをやっても、自分の過去を超えられず、ファンからは「昔はよかった」と言われてしまう。(だから、新しい目的を持ったスピルバーグは「インディ」の新作を撮っても面白くない)

 なので「あの劇団はどうだ?」と思っていた。今回の舞台見て、まだ、それを見つけていないことを感じていた。伝統的なスタイルの中でできる新しい何か?温故知新をしながらも、まだ踏襲しているのみ。それで最後まで行けないので、昔ながらスタイルでクライマックスを描く。実力はあるので、かなりのところまで持って行く。

 でも、長年のファンは何度も見て来たもの。

全盛期のパワーもない。そこそこ満足はするが、過去を知る者は満足できない。けど、プロとして新しい挑戦をして、失敗はできない。そこで確実にできる過去のパターンで、ある程度の満足をしてもらえる舞台にしたのだと思える。


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 かなり悩んでいる。でも、人ごとではなく、僕自身も同じ。

「ストロベリーフィールズ」は初監督作にも関わらず、評判がよかった。だが、二作目がそれと同じレベルのものだと「前作の方がよかった!」と言われる。 前作より120%の出来でないと観客は満足しない。2作目は 「青い青い空」これも評判がよく。「前作より良かった」と言われ、さらにハードルが上がる。

 路線を変えて「朝日のあたる家」ーこれも評価が高い。すると観客は「もっと泣ける作品!」と期待してくる。 けど「朝日」は実話!それより泣ける物語なんてできない!「どーしよう???」と追いつめられた。

 4作目が「向日葵」奇跡的にまた泣ける物語ができた。けど、次どーするの? もう、「向日葵」を超える作品はできないだろ? というところで悩んでいる。僕だけでなく、作品の評判がいいとファンの期待は高まり、同じレベルだと「前作の方が良かった!」といわれる。

 やはり、前作を超えた120点を取らないと「よかった」に ならない。それが作家の宿命。黒澤明もまさにそれ、別のスタイルに挑戦しているのに、一部では死ぬまで「七人の侍」の方がいい!最近はダメと言われた。

 あの劇団は今、そんなところにいると思える。

 以前、蜷川幸雄を厳しく批判したのも同じ構図。あれだけ素晴らしい舞台演出をしていた人が、新しい挑戦せず。過去のパターンで御茶を濁す。だから、新人作家であった僕は許せなかった。けど、僕は今、たった4本の映画で同じ壁にぶつかっている。蜷川さんやあの劇団の悩みがよく分かる。でも、作家はそれを超えて行かねばならない....。



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話題作を次々に撮る後輩監督。でも、彼はハッピーではなかった? [映画業界物語]

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 話題作を続けて撮っている後輩監督がいる。

 有名俳優が出演。ベストセラー原作。大手映画会社の製作。予算も2億、3億というスケール。大手のシネコンで公開。カタギの友人に訊いても、こういう。

 「ああ、あれねえ。テレビでもバンバン予告編やってたから知っているよ。お前も早くああいう大作を撮れるようになれよ!」

 後輩は誰もが羨む環境で仕事をしている。が、本人はこういう。

 「うらやまれることなんて全くないですよ。

キャストは最初から決まっている。僕が**役は***さんがいいと言ってもダメ。原作を選んだのも会社。音楽も、スタッフも皆、会社が決める。僕は撮影の1ヶ月くらい前。全てが決まってから呼ばれて監督してほしいと言われる。あとは撮影現場に行き、カット割りをするだけ。

 内容や方向性。テーマについても一切、意見を言わせてもらえない。言っても聞いてくれない。おまけに、その日になってから、キャストの***さんは今日は来れないので、なしで撮影してくださいと言われる。何それ? 話繋がらないだろ?無理やり人気俳優をキャスティングするからそういうことになる。

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 でも、その中でやらなければならない。スケジュールも決まっていて、その期間内に撮影しなければならない。演出の冒険はできない。オーソドックスに撮ることを強要。クオリティが高くなくても、そこそこのものを撮ればいい。内容よりも予算と期日が大事。これじゃ誰が監督しても同じ。いい加減うんざりする。でも、それなりのギャラをもらうから我慢している。

 誰も個性的な作品なんて期待していない。

上のいうことを逆らわずに聞く監督が求められている。本当に苦痛で爆発しそうになる。クリエイティブはゼロ。言われたことをするだけ。なのに、皆、羨ましがる。こんな仕事。監督でもなんでもない。単なる仕切り係。いつか見ていろと思うから我慢しているけど、本当に息が詰まる。こんなことをするために監督になったんじゃない....」

 彼はそう言っていた。

 僕は本当に撮りたい作品しか撮らない。だから、仕事が少なく、経済的にも大変。けど、あれこれ言われてもいいものは絶対にできない。言われたことをおとなしく出来るようならサラリーマンになっていた。それができず、自分の考える物語を映画にしたいから映画監督の仕事をしている。

 後輩監督の気持ちは痛いほど分かる。

ただ、自分が撮りたいものを撮るのは毎回、宝くじに当たるようなもの。どちらが幸せなのか? 言えることは、僕には後輩の真似はできない。あれこれ言われたら、いつか爆発して、プロデュサーを殴ってクビになり終わるだろう。それを我慢している後輩は偉い。

 けど、後輩のいうとおり、今のままでは映画監督ではない。カット割り係に過ぎない。誰が撮っても同じ。彼の作品で「お!」と思えるものは1本もない。原作を短くして映像化しているだけ。感動も涙もない。ただ、それが映画界のあるひとつの現実でもある。





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