「向日葵の丘」監督日記ーとっとこ3人娘のアフレコ④ [MA]

とっとこ3人娘たちが帰ってから、画面を見ていた。田舎の高校生に扮する3人。元気いっぱい。エリカ役の百川晴香の言葉を思い出す。彼女はスタジオでモニター画面を見ながらこんなことをつぶやいた。
「何か、不思議....」
自分が映画に映っていることが不思議なのか? 彼女の記憶にある撮影中の思い出とは違い、1983年にいる自分が不思議なのか? いろんな思いがダブったのだろう。
そもそも映画というのは不思議なもので、映画の完成度の責任は監督にある。が、その映画自体は参加した人たちす全ての思い出なのだ。メインキャストはもちろん、脇役も、ゲストも、そして市民俳優の人たちにとっても思い出のアルバムなのだ。
その映像は時を超えて残っていく。フィルムにすれば100年先まで見ることができる。昭和元年に公開されたチャップリンの「黄金狂時代」を今も見られるように、100年後の人も「向日葵の丘」を見るかもしれない。
まだ、生まれていない、出演者の子供たちが、あるいは孫が、見ることになる。ただ、物語ではなく、タイムマシーンのように、彼ら、彼女らがその時代を生きていたときの姿を、後の時代にも伝えるのだ。
だから、映画って凄いなあ〜と思う。芳根京子、藤井武美、百川晴香の3人の10代の記録も、この先100年残るのだ。そう話すとエリカはもう一度「不思議だなあ〜」というかもしれない。
カーペンターズの歌ではないが、映像に記録された、そんな「青春の輝き」はきっと100年後も輝き続けるだろう。

「向日葵の丘」監督日記ーとっとこ3人娘のアフレコ③ [MA]

とっとこ3人娘の仕事は続く。歌録りが終わったら順にインタビュー。これは映画のパンフレットに掲載するもの。撮影時の思い出や苦労したこと。楽しかったこと等々をライターさんが訊き、それに答えてもらう。トップバッターは多香子役の芳根京子さん。
僕がいると、話し辛いこともあると思えるので別の場所でインタビュー。その間もMA作業は続く。残る2人はMAルームで待つ。と伝えると2人は「やった〜」少しでも映画が見れるからだ。
そんな形で作業は進行。インタビューを終えたとっとこ娘たちは順に帰っていく。彼女たちはなかなかの人気者で、このあとも別の仕事があるという。
「じゃあ、0号試写のときに!」
「楽しみにしています!」
そういって、キャキャいいながらスタジオをあとにする。彼女たちがいなくなった部屋はまた静寂が訪れる。嵐が去ったあとのよう? でも、あの子たちのそのパワーが若さが映画を本当に面白いものにしてくれた。
今回の「向日葵の丘」最も大きな収穫のひとつが、とっとこの3人と出会えたことだ。あの3人がいたから、すばらしい映画になる。改めてそう感じた。0号試写での彼女たちの反応が楽しみ。

「向日葵の丘」監督日記ーとっとこ3人娘のアフレコ② [MA]

アフレコは無事終了。
なんだかんだで、とっとこ3人娘はカンがよく短時間で終わる。が、難関はこれからだ。劇中の歌を歌ってもらわねばならない。
と、先日、芳根京子さんが主演する「物置のピアノ」のトークショーに行ったとき、本人にも話したら、
「え〜〜〜〜〜!」
といわれてしまったが、主題歌とか挿入歌とかではない。詳しく説明すると映画を見たときに面白くないので、省略。でも、3人で歌を歌ってもらう。
「アイドルユニットのリーダーがいるから、安心だよね?」
というと、エリカ(百川晴香)が「えー歌は苦手です〜」と言う。なんじゃそれ?と思いつつ、まずは音楽家の先生にレッスンをしてもらう。
ま、このシーンの歌は下手でもいいんだけど、と思っていたが、とっとこ娘たちは短時間のレッスンで、かなりうまくなった。
恐るべき、とっとこ娘! スタジオ後ろにある録音ブースに入って、歌を録音する。オケ部分の曲はすでにオリジナルで作ってもらっているので、それを流しながら録音だ。

「向日葵の丘」監督日記ーとっとこ3人娘のアフレコ [MA]

1983年当時の主人公3人を演じる若手3人。芳根京子、藤井武美、百川晴香の3人のアフレコも行った。スタジオではそれまで静かに黙々と作業をしていたが、3人が来たとたんに、女学校の教室というより、小学校の教室のようににぎやかになった。
3人がそれぞれと会うのも久しぶりらしく、同窓会のようでもあった。キャーキャーわーわーすごいことになる。おまけに、なぜか? 3人の服が皆、同じ素材!という気の合うところも見せてくれた。
そんな仲良し3人組。なかなかのプロフェッショナルで、映画の一場面が流れるとモニター画面に食い入る。
が、次の瞬間、わーーーー懐かしいーーー!を連発。まるで思い出のアルバムを見ているようだ。
まだ、撮影から半年しか経っていないのに、もう10年以上も前のことのように騒いでいる。
でも、映画にはそういうところがある。撮影というのは特別で、日常ではないところがあり、クランクアップ後、1ヶ月でも、もう遥か昔に思える。
そして、数ヶ月に共演者やスタッフと再会するだけでも、親友と10年ぶりに会ったくらいの感動がある。映画とは本当に不思議なものだ。
さて、その3人。現場では「とっとこ3人組」と呼ばれていた。ハムスターのように小さく、かわいいからだが、(そう命名すると「ハム太郎」の主題歌を3人で歌っていた)その3人が久々に集まり、まずはアフレコからスタートだ。

向日葵の丘 監督日記 MA作業とは何か?② [MA]
MAでは聞き辛い台詞を調整したり、ボリュームを揃えたりして、劇中の会話を聞きやすくする作業もする。どうしても調整できないものは、その俳優に来てもらいアフレコをしてもらう。
アフレコというのは、すでに撮影した映像を見ながら、唇の動きに合わせて、スタジオ内で台詞を読み、録音すること。それを貼付ければ、聞き辛い台詞もクリアーになる。
アフレコだけでなく、モノローグやナレーション録りというのもやる。この2つ。どう違うかというと、ナレーションは基本的に三人称で物語を解説する役目。最近のドラマでは少ないが「ウルトラQ」の石坂浩二さんとか、「渡る世間は鬼ばかり」の石坂浩二さんとか、あれ!偶然。とにかく、劇中には登場しない人が物語を説明するんおがナレーション。
それに対して、登場する人物が語るのがモノローグ。有名なのは「北の国から」吉岡秀隆演じる純君が「そんなことは知らなかった訳で...」というあれが、モノローグ。アメリカ映画でいうと「おもいでの夏」「スタンドバイミー」で使われていた。
映画ではあまりナレーションは使われないが、モノローグは懐かし物語を語る作品でよく使われる。日本では大林宣彦監督の映画でよく使われる。「さびしんぼう」「なごり雪」「天国にいちばん近い島」
僕の先生でもある大林監督のスタイルに学び、僕の映画は毎回モノローグでスタートする。という訳で、今回はあの方にスタジオに来てもらわねならない。
