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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ その23 テーマ:映画について [撮影ルポ]

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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ その23
~この日の撮影終了も夜11時過ぎに~

 by 永田よしのり(映画文筆家)

 かもめ座での撮影が続く5月3日。
 梶原支配人(津川雅彦)と、高校生・多香子(芳根京子)、みどり(藤井武美)、エリカ(百川晴香)らの出演場面があらかた撮影を終えた頃、現場を見学に来ていた常盤貴子が、夕方6時過ぎに退出して行った。
 さて、いつもは撮影現場のことを中心に紹介しているが、今回は撮影現場に居ることにより聞くことが出来た話や事象もいくつかご紹介してみよう。
 場面転換セット・チェンジや、キャメラ位置の移動などには時間のかかることもある。その間に出演者たちはしばしお茶を飲んだり、差し入れのお菓子をつまんだりして休憩をするわけだが、そうした時間には意外と面白い話を聞くことができたりする。

 例えば、現場を見学にやって来た常盤貴子からはこんな話を聞けた。「太田監督の作品は前にも観てるんだけど、撮影がある前の夜とかにはいただいたDVDを部屋で絶対に見直さないの。だって、泣いて目が腫れて次の日の撮影に影響したら困るでしょう」

 さらに自分がどんな風に本編で写るのかの意識を聞くと「もうそれは安心してるから大丈夫。だって撮影は大林監督の『野のなななのか』でもご一緒した三本木さんのキャメラだもの」という全幅の信頼を語ってくれた。このふたつの話だけでも、本作品「向日葵の丘 1983年・夏」への常盤貴子の期待感を感じることができるのではないだろうか。

 梶原支配人役の津川雅彦は、いつ見ても堂々とした中にその存在感を湛えている。それでも休憩時間には気さくに市民俳優たちとも話をするし、差し入れの草団子を摘まんだりと、リラックスしているようにも見える。こうした大ベテラン俳優の存在というのは、映画の中に1本、芯を与えるものなのだということを現場では実感してしまう。


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 キャスティングのネーミングについてもこんな話を聞けた。太田監督は和歌山県出身ということはファンならばご存じだろうが、今回、百川晴香が演じている高校生・紀三井寺エリカの名字・紀三井寺は、和歌山県紀伊本線に実際にある和歌山市の駅と熊野街道沿いにある仏教寺院の名称(正式名は紀三井寺山金剛宝寺護国院/きみいさん こんごうほうじ ごこくいん)からの命名とのこと。和歌山県人ならば知っている場所だとしても、普通は知らないこと。こんな話も撮影現場で色々な人と会うことで知れることなのではないだろうか。

 かもめ座でのシーンがひとつひとつ終了していくと、そこから美術スタッフによって、そこで使用されていた飾り付けがどんどんはずされていく。シーンセットはどんどんその役目を終えていくことに。そしてその作業をしながらも別の撮影は他の現場で続いていくのだ。

 そんな作業を見ているとつくづく映画の現場というものが、そこに参加しているスタッフたちの情熱とプロフェッショナルな経験で作られていくことを実感する。
 それは例えば大資本の映画で、大量のスタッフがいたとしたらどうだろう? もしかしたら人数が増えることで、責任感に希薄さが生じることもあるかもしれない。
 小さい歯車が少しずれたことで、大きな機械は後に修復ができないことに陥ることもあるかもしれない。

 だが小さな機械ならばすぐに修復できると思うのだ。
 そんな例えが適切かどうか。小人数であってもできることは多分変わらない。むしろ小人数の方が責任感や誇りは勝るような、そんな気がする。
 午後8時を過ぎ、かもめ座ではナイト・シーンになる。

 梶原支配人単独でのダンス・シーンや、記念写真が撮影されていく。ここで監督と助監督で梶原支配人の記念写真に背景が必要か否かで意見が割れる。監督は「背景はむしろいらない。支配人の姿だけで充分」と説明。アングルの背景決めがなかなか決まらない。

 そんな場面でふいに、津川雅彦演じる梶原支配人が「仰げば尊し」を口ずさみ始める。
 以前の撮影で高校生・多香子が涙を流さなければならないシーンで、「頭の中で『仰げば尊し』を歌うんです」と言っていたのを思い出す。その偶然を見た後に、高校生・多香子を演じる芳根京子が独りでかもめ座の外の真っ暗な階段・踊り場に座っているのを見つけた。

 黒髪が風になびいて、その顔を隠しているので表情までは分からない。なぜ、彼女は独りで真っ暗な階段に座っていたのだろう。声はかけられなかったが、その心情はどんなものなのだったのか。




 そして夜9時過ぎ、かもめ座での撮影は終了。
 この日はこれで終了とはいかず、予定されていた最後のシーン、かもめ座の映写室での場面撮影(梶原支配人が高校生・多香子、高校生・みどりに映写室内部で8ミリカメラを手渡す場面)のために、島田市「おおるり」映写室へと移動。




 「おおるり」に移動すると、翌日からの撮影に参加する大人・みどり役の田中美里が撮影現場に陣中見舞いにやって来た。すでに夜10時にもなろうという時間帯。




 「明日からの撮影前に、まだ撮影をしていると聞いたので、現場でご挨拶しようと思って」やって来たのだと言う。
 ここで初めて高校生・みどり(藤井武美)と大人・みどりが対面することに。田中は「何か変な感じだね」と、藤井に笑いかけていたのが印象的だった。
 午後11時半過ぎ。この日の撮影は終了。
 翌日はいよいよ大人・多香子と大人・みどりが中心となるシーンが撮影される。本編撮影もあと数日を残すのみとなってきた(つづく)。


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