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「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場・ルポ/4 ~連日の雨、でも撮影現場には熱気が充満!~ [撮影ルポ]

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ルポ/4 ~連日の雨、でも撮影現場には熱気が充満!~
by 永田よしのり(映画文筆家)

 4月21日、今日も朝から雨模様の天気予報。
 昨日はまだ撮影初日ということもあり、身体も心も緊張感があるのか、1日中張り詰めた気持ちのままで過ごしたのだが、一晩スタッフらと一緒に眠ると「いよいよ始まったのだなあ」という気持ちが新たになってくる。
 そんな日、本日は宿舎近くの今では廃校となって使われていない中学校を借りてのロケとなる。
 現場は宿舎から歩いても行ける距離なので、機材運搬車以外は傘をさして現場へと歩いて向かうスタッフも。
 現場には雨避けの場所もあるものの、機材が濡れては一大事。雨中スタッフは急いで機材を搬入。自分が濡れないことよりも機材が濡れないことの方が大事なのだ。

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 ここでは備品倉庫となっていた部屋を高校の部室として使用。実は長いこと使われていない場所だったので、撮影前の掃除などが急務だった。そこを太田監督作品を応援していた市民応援団らが前乗りして部屋を掃除、撮影に対処できるように片付けをしていたのだ。そうした手伝いに来て来れる私設応援団がいる、というのは太田映画にとって非常に心強いもののひとつだろう。
 映画撮影ではスタジオにセットを建て込み、その現場に行かずに撮影することも多いが、太田映画の場合は現場の空気感を非常に大事にするために、撮影のためにロケハン(ロケーション・ハンティングの略/撮影をする場所を事前にリサーチすること/撮影のイメージに合う場所を探すために何カ月もかかることも)を入念に行う。それは作り物のセットよりも、実際にその場所で息づいているもの、場所を使うことで、より現実感と近親感を(俳優たちの演技にも多分に影響が出ることだろう)生むことにもなる。つまり、そこに存在する〃リアル〃が映画の画面にも表出してくることになるのだ。
 まずはシーン30~31。
 部室を使っての撮影。入れ込みと段取りの打ち合わせから始まる。それと平行して美術スタッフは室内の飾り付けを行っていく。
 1983年当時の映画のポスター(エリカの趣味なのか、「雨に唄えば」や「ウエストサイド物語」などのポスターが貼られていく)雑誌、小物(当時のラジカセ、パンフレット=監督の私物もあるようだ)などを配置。小一時間ほどが費やされ撮影準備が完了。役者たちがやって来て監督らと打ち合わせ。
 多香子とみどりが初めて部室を訪れる場面の撮影が開始される。
 部室前の廊下には機材搬入口があり、そこをスタッフが忙しく出入りする。外は雨とはいえ、こうした場所があるため機材搬入の際に機材が濡れることはないようだ。
 しかしながらそこはコンクリート造りの建物。雨だと底冷えがしてくる。だが、撮影のための照明が点くとその熱量で気温も上がってきて(映画撮影で使う照明機材から発せられる熱は、普段我々が生活に使用している照明器具とは別物で想像以上のものがあるのだ)少し過ごし易くなるのが救いかも。
 照明機材の明かりだけでは肉眼で室内を見るとやや暗く見えたりもするのだが、最近のデジタル撮影機材だと光量が少なくてもしっかりと撮影できる。これらのセッティングが出来てから午前8時40分には撮影が開始された。

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 監督は昨夜からずっと喉の調子が悪く、喉飴が手放せないようだ。夏服のセーラー服だけでは寒いので、待機中は常にウォールコートを着て過ごす芳根、藤井、百川のとっとこ3人娘。
 まずは部室前で通しの芝居。監督は台詞と動きの間にメリハリをつけてと注意し、歩く速度、動きなどの段取りも決めていく。
 カット割りの確認後、部室に入る多香子とみどり、そこで初めてエリカと対面する場面だ。
 二人を撮影するカメラの下側に陣取る監督。撮影場所のポジション取りの都合で、多香子たちが入口のドアーを開けて部室に入るといった一連の動きが一発で撮れないため、部室に入って来る多香子たちの様子、入って来た後の様子という流れで撮影。「入口の雰囲気を見せたいのでフレーム・インしようか」と監督。こうした撮影はモンタージュと(一連の動きを何回かに分けて撮影し、編集で全てが一連で撮影されているように見せる)呼ばれるもので、実際に映画の場面ではドアーを開けて2人が部室に入って来る動きがスムーズに流れていくように編集されているはず。
 多香子は自分がノックするドアーの音を気にしており、違う場所を何回か叩いてノックの音を確認している(本人に聞くと自分のイメージする「コンコン」という音に一番近い位置を探していたのだそうだ)。
 このあたりのカットはほぼ本番1回でOKとなる。
 それはここまでの芝居の流れや感情の流れなどを監督が若い役者たちにしっかりと説明、それを若い役者たちが理解しているゆえのこと。
 部室内部はほぼ4畳ほどの空間。そこに撮影、音声スタッフと監督、役者たちが入るので、かなり移動に制限が。それでも実際の映画画面を観ればそのようには感じないだろう。それは映像のマジック(撮影の仕方による)。
 監督はエリカの動きと台詞に細かく指示を出す。それは映画では初めてエリカが登場する場面なので、ファーストカットのエリカ登場を印象づけるためのもの。
 その間に別の待機場所では多香子とみどりはいつも何かをして遊んでいる(彼女たちなりのリラックス方法なのだろう/時にテレビのハーフタレントの物まねをしたりしていた)。
 休憩時間に外に出ると雨でもウグイスが鳴いていた。寒いので携帯カイロをいただく(非常に助かる!)。
 その後シーン・34での劇中での打ち合わせのシーンを続けて撮影。
 監督からは内容をどうしていくか、ちゃんと映画の内容を知っている感覚で脚本の打ち合わせを3人でするようにと指示が入る。
 部室の机上にはたくさんの映画雑誌や劇場パンフレットが開かれている。そこで3人が色々と意見を出し合っていくのだ。
 やはり8ミリ機材など、当時のことを本当には知らない世代なので、いかに当時の空気感を出せるかがポイントとなる(エリカは映画に詳しくなくてはならないために演出の指導は細かくなる)。
 監督はそこを重点的に演技指導。またそれがしっかりと3人の若い役者たちに伝わっているから、多くのカットテイクを重ねることなくOKとなるのだろう(そして時間の経過を表すために照明の角度や照度も変化させていくのだ)。

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 狭い部室の中ではカメラの切り返し(同じシーンを別の角度から再度撮影すること)などが大変。結果、カメラの後ろ側にはたくさんのスタッフが鮨詰め状態となる。
 現場を整える時間は役者たちは休憩時間となる。
 その時間の間は監督と次のシーンの打ち合わせをしたり、お茶を飲んだり。打ち合わせがない時はそれぞれに携帯電話を操作したりしている(今どきの若い娘たちなのだ)。
 監督も自身のブログやツイッター、フェイスブックに映画の情報を発信している。今はこうした情報ツールがある意味必要不可欠なものとなっている。
 かなり強くなってきている雨の中、山間も霞んでくる。そんな悪天候の中、撮影現場のグラウンドには野性のタヌキが出没。いつもは静かな場所がにぎやかなので、ロケを観に来たのだろうか。  
 そんな中、本日の昼食は歩いて戻れる宿舎にてカレーという情報が。多香子は「今日のお昼のカレーを楽しみに雨の中撮影している感じです」と笑顔。


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 シーン・73、79などの物語後半で登場するシーンなどを撮影して昼食に。
 野菜など具だくさんのカレーが冷えた身体を暖めてくれ、午後からは市内へと移動、旧家を借りての撮影となっていく。

(つづく)


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