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「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポその3 とっとこ3人娘、撮影現場で誕生! [撮影ルポ]

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「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ
その3/とっとこ3人娘、撮影現場で誕生!

 by 永田よしのり(映画文筆家)


 昼食休憩を挟んで午後の撮影がスタート。
 シナリオ・シーン27、多香子(芳根京子・これまでテレビドラマ「リーガル・ハイ」スペシャルや「ハクバノ王子様 純愛適齢期」「花子とアン)などに出演している)と、みどり(藤井武美・「桐島、部活やめるってよ」「悪の経典」などに出演している)が文化祭であることをクラスですることを提案するシーン。
 午前中の練習(?)が功を奏しているからか、一連の動きを確認してからの本番までの流れも午前中よりもスムーズに感じられる。
 もちろん、キャメラの位置確認も(切り返しなど/同じシーンを違う角度や逆方向から撮影すること)繰り返され、その度にキャメラと照明機材は移動。様々なポジションでセッテイングされていく。僕はキャメラの写らない位置を探して撮影の様子をチェック(教室内部ではガラスに写り込むこともあるので、キャメラに注意されない限りは大丈夫なのだ)、手描きでメモをしていく。それがこのルポの基本になるのだ。
 撮影はキャメラ、照明の距離を測り、監督の欲しい構図で画面に切り取っていく。その画面構成自体が太田監督映画の特徴のひとつと言っていいだろう。


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 生徒たちの座り位置も微調整され、教室内部の席を配置。そんな撮影中にも直接撮影現場にいないスタッフたちが多数いる。
 美術の作り物をしていたり、車を回して急遽宿舎から必要になった小道具や荷物を運搬していたり。撮影している場所だけが映画の現場ではないことを知ることが出来る。
 そんな撮影の中で、時々多香子役の芳根京子は、自分の台詞がうまく言えないことで感情を露にする場面も。
 どこがツボに入ったのか、台詞を言いながらどうしても笑ってしまう場面もある。一度笑いだすとなかなか止まらないようだ。一体どこが彼女のツボにハマッたのだろうか?
 そしてシーン50では多香子たちが文化祭での協力を他の生徒たちに頼むシーン。
 ここでは多香子たちに協力しないで帰る生徒たちが、当時流行っていたギャグを言いながら帰ってしまう場面があるのだが、市民俳優の生徒は当然当時のギャグを知らないために、助監督がそのギャグのポーズや言い回しなどをレクチャーすることになる。
 それでもなかなか製作サイドの狙ったカタチが出来ないために、短いやりとりのシーンでも何度もテイクを重ねてしまうことに。これがプロの俳優ならば自分の知らないことでも予習復習をしてくるのだろうが、そこは市民俳優の子供(見る気になれば今の時代ネットでそのギャグないくらでも見ることができるはずなのだ)には無理な要求なのだろうか。
 一連の動きで生徒たちは教室の外で出て行くのだが、どうしても教室の外に出た時点で廊下にたむろしてしまう。普通はそんなことはなくそれぞれが帰宅するはずなのだが、まだシーンの意味を理解するところまでいっていないからか、自分で考えて演技の動きをしていないからか、助監督がシーンの説明や動きを細くして説明しなくてはならない。
 だが芝居のタイミング自体はよくなってきているのは、説明されたことは理解してきていることの証明だろう。


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 次にシーン・72、文化祭である事件が起きるくだりの撮影。
 そこでは尚子先生の心情を表す芝居が入ってくる。
 最初、生徒たちと仲代の芝居の流れのバランスが今ひとつだったが(やはりどうしてもプロの役者とのからみが入ると市民俳優とのバランスにぎこちなさが残ってしまうもの)、何度か繰り返してテストを行ううちにこなれていく。
 そんな芝居の中で役者につけたピンマイクにノイズが入ることが判明。ピンマイクからムーブマイクに変更してキャメラに入らない位置を探して音(台詞)を拾うことに。
 さらに文化祭用のチラシのアップ撮影(俗に言う物撮り)をしてシーン・72は終了。
 今日は撮影初日であり、午前中の撮影に時間をかけたために少々押し気味(予定よりも時間が遅くなること)になっている。予定されているシナリオのページ数を撮影し終えることが出来るのか少し心配になる。しかしながら、生徒役の子供たちにていねいに芝居をつけたことで慣れてきた様子は感じられるので、明日以降は撮影がスピードアップする可能性も。
 ここまでで感じるのは、子供たちの芝居に対する姿勢や心構えが個人によってかなり違うということ。モチベーションも実に様々に感じられる。一言で表現するなら芝居のうまい子、下手な子、予習している子、していない子、一発勝負の撮影本番になるとそれがそれぞれの子供たちに如実に現れて見えてしまうことだ。
 もちろん、芝居に慣れていないこともあるのだが、キャメラの前に立つことの意味を分かっている子といない子ではそこに明らかに温度差が見えてしまうのだ。
 そこを太田監督はもちろん分かっていて市民俳優としてここに出演する生徒役を選出したわけだが、初日の数時間の撮影ではまだまだそれぞれに差が出てしまうのは、多分に心構えの差なのだろう。
 そうして教室内部での本日の撮影は終了。生徒たちだけの集合写真などを撮影して生徒たちは解散。残った別キャストたちの芝居はまた別日での撮影となる。
 
 撮影初日は朝からずっと雨模様。
 教室内部での撮影が主なために天候はさほど影響がないが、夕方以降になると照明を窓の外から室内に向けてセッティングしなければならなくなる。
 シーン・37ではそんな雨模様の合間を縫って、多香子、みどりと尚子先生がベランダで会話するシーンを撮影。場所が狭いのでスタッフはキャメラ含めて7~8人ほどで撮影。夕方くらいからけっこう肌寒く感じる天気なので、半袖セーラー服の多香子たちはけっこう寒いのではないだろうか。なので、撮影の合間ではスタッフが防寒具を羽織らせる。
 ベランダという限定された空間の中で、風景も含めてより効果的な構図を探して指示を出す監督。雨模様の中でどんな仕上がりになっているのか。ここではなぜか〃ピーッ!〃というノイズが入り4回ほどNGが続く一幕も。外の自然音も一緒に収録しているので、車が動く音やバイクの通る音などでもNGになってしまう。
 なかなかうまくタイミングが合わずに、短いシーンではあるが、そこそこに時間がかかってしまった。外ロケとはこういうもの。大規模な撮影などではスタッフが車止めをしたりして、撮影をするのだし(それは以降の撮影で展開されることに)。自然音は仕方のないことかもしれない。
 

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 そしてシーン・41職員室での撮影。実際の職員室を利用しての撮影。照明部は外に出て職員室内部に向けて照明をセッテイングし、光量を調整する。
 雨中なので、照明機材にも雨避けをかけていく。照明の熱で雨粒が蒸発していく様子が見てとれる。
 職員室内部では陰影をあまりつけずに昼間の様子を再現するために四方から照明を当てるようにセッティング(夕方6時を過ぎているため外はかなり暗くなってきている)。
 ここでは尚子先生と多香子、みどり、エリカ(百川春香・青春!トロピカル丸でアイドルタレントとして活動中)との文化祭での活動に関して学年主任の許可を受けるシーンなどをまず撮影。そして市民俳優の方々も他の職員室内にいる教師役で数人が配置。
 監督はそれぞれの役者に立ち位置を確認し、台詞の抑揚などを指示。役者たちは撮影にだいぶん慣れてきたからか、合間合間でずいぶん笑顔や口数が増えてきたように感じられる。多香子やみどり、エリカなどは撮影の合間では本当に普通の女子高生に見えてしまう。いつでも明るく笑い、冗談を言い合い、すでに親しくなったスタッフとも楽しそうに会話をしている。
 そんな中でも照明の照度合わせが細かく設定されていく。
 監督からは尚子先生からのアクションに対して3人娘たちに「ハムスターっぽく喜んでみて!」と指示。
 ハムスターっぽくってどんなリアクションなのだろう?(この後から監督は映画の中の3人の高校生トリオたちを『とっとこ~』と呼ぶようになる。それはかつて東宝の『ゴジラ』映画と同時上映されていた、ハムスターを主人公にした子供向け人気アニメーションを、彼女たちの現場での明るい姿から想起させたからに他ならないだろう/この後「とっとこ3人娘」は、監督が撮影現場で彼女たちを呼ぶ時の呼び名に定着することに!) 
 そんな撮影が続き、本日のラストカットは尚子先生の一人での職員室内でのダンス・シーン。
 これは各出演者それぞれに用意されているダンス・シーン。映画の中でどのように使われるのか。それは映画を観てのお楽しみということに。そうして仲代奈緒の出演シーンは初日に集約されて全て終了。撮影クランク・インの日にクランク・アップという離れ業(?)を演じてしまったことに。
 全ての撮影が終了したのは午後7時過ぎ。
 これから機材の片付けをし、宿舎に1時間ほどかけて戻っての食事。明日も天気予報では雨模様とのこと。翌日も室内での撮影がほとんどなので撮影自体は問題ないのだが、初日、2日目と雨なのはちょっと気分的に晴れ晴れしくない。
 しかしながら、1日目を終えて役者陣もスタッフも動きに淀みなく、特に問題となることはなかった(それでも映画撮影の現場では本当に細かいアクシデントは毎日のように起こるもの。それをいかにこなしていくか、も撮影現場のライヴ感のひとつとして捉えたいもの)。
 宿舎に戻って食事に風呂。
 僕などはメイキング班と共に早々に休んでしまったが、美術部などのスタッフの作業部屋は夜中まで煌々と電気が点いていたようだ。明日からもそれぞれの戦いは続く。まだ本当に始まったばかりなのだ。

(つづく)


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