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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ・その2 [撮影ルポ]

  
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その2/1983年当時流行った聖子ちゃんカットの娘たちがいっぱい!?

by 永田よしのり(映画分筆家)


 4月20日・日曜日。
 いよいよ「向日葵の丘―1983年・夏―」のロケ初日。
 前日から宿泊所に入ったわけだが、夜中になっても美術スタッフらは作り物を続けていた。
 作業部屋には翌日以降で使う小物が山のように(生徒たちの上履き、制服、ペンケースなどの文具、ビデオ、テレビ、ベータビデオデッキ、8ミリ映写機、フィルム缶、レジスター、ベータ・テープなどなど)。はたして何時に寝たのかは確認できていないが、かなりの時間まで作業していたことは間違いない。

 そんな夜を過ごして朝8時に宿舎を出発。
 ロケ車を何台にも分乗して(僕はメイキング・ビデオ、作品スチールの2人を自分の車に乗せて出発)、ロケ現場に向かう。
 雨模様の1日になる予報(深夜0時過ぎから降り始めている)ではあるが、今日の撮影はほとんどが室内なので、まあ心配はないだろう。

 宿舎から小1時間ほどかけてロケ現場に到着。
 今回のロケはとにかく移動の時間がかかる場所ばかり。
 もちろん、僕は初めて来た場所なので、前日に受け取った地図を頼りに車のナビゲーションに入力して出かけることに。

 宿舎からはかなりの間、細いつづら折りの山道が続くので、下手にスピードを出して走るわけにはいかない。それも移動に時間がかかる要因のひとつ。
 中学校を使用してのロケ。

 スタッフは少し早めに到着したので、学校のカギが開くのをしばし待つことに。
 僕も荷物の搬入を手伝う。
 3階の教室を使っての撮影。
 芝居の段取りなどが始まると、途端に慌ただしくなってくる。




 教室内部は5×5の25席の並び。各机には教科書た筆記用具がそろえて置かれている。
 スタッフ間でトランシーバーのやり取りが続く。

 監督はキャメラ位置をどんどん決め、各々生徒たちのポジション決め、それぞれの出演者たちに芝居の中での動きの流れを決めて、キャメラの方向などと共に伝えていく。
 本日のスタッフは約30名。誰もが自分の役割をこなす。
 撮影の地代設定は1983年。

 女子生徒たちは当時流行った聖子ちゃんカットの娘ばかり。男子9名、女子16名合計25名の生徒構成のため余計に女子たちの髪形は目だって見えてくる。

 それぞれの生徒たちの座り位置も決まり、授業開始前の風景の段取り。キャメラと教室内の人間の配置へ動きをスムーズに流れるように段取りが進む。そこではそれぞれの生徒たちの集団の固まりも確認(よく仲の良い生徒で集まった記憶が誰にでもあるだろう。そうしたカタチも教室の中で作っていくことが、生徒たちの集団意識や時代性の中でのひとつの表現になるのだ)。生徒たちは日常会話から劇中のクラスメイトと同じように関係が出来上がっていく。それは自然と雑談から入るのだろう。

 それぞれの生徒が持っている小物(レコード、雑誌など)のキャメラへの写るポジションも確認。
 いよいよファースト・カット、シーン・8の撮影が始まる。



 まずはそれほど緊張感を感じないようなシーンから。
 教室は3階にあり、そのベランダにも教室内部への照明がセットされる。照明は〃時間〃の表現にもなる。ただ撮影のためだけに当てているわけではない。その照明の強さや角度で1日の時間も表現していけるのだ。

 気温16度。照明が点けられると教室内部の気温もぐんぐん上昇していくのが分かる。
 最初にカセットテープの貸し借りのシーンがある。
 現在の子供たちはカセットテープというものを触ったこともないような世代。そこを30年前のカルチャーとしてどう知っていくか、そこから監督は子供たちにひとつづつ当時の音楽メディアがどうだったか説明していく。

 傍から見ていると当時のことを知らない子供たちに、その時代のことを教えながら撮影を進めていかなくてはならないのだから、ひとつひとつの動きを確認する作業が必然必要となる。そこにはやはり当時のことを知らない子供たちを起用する、という大変さがあろう。ましてや生徒たちは一般から選ばれた市民俳優たち。30年前のカルチャーを予習してくるような子供はほとんどいなくて当然なのだろう。1980年代をリアルに生きてきた者からすると、過ごした時代の違いというのは明確に現れてくるもの、そこをどう埋めるか、に監督はまず苦慮しているように思われる。

 撮影はひとつの教室の中で三つほどの生徒の固まりが作られる。それぞれの集団の中でそれぞれの動きをいかに自由度を合わせて見せていくか、そこが撮影のポイントとなる。
 それでも夏前の制服姿の生徒たちがそれぞれに動きだすと教室の中の喧噪が表出してくるから不思議だ。

 日曜日の早朝であっても、近くの講堂では剣道部の朝練習が行われている。スタッフはその練習の声を押さえてもらうようにお願いに走っていた。
 撮影は一連の芝居を受けての何度かチェック。
 監督は芝居の長さを確認し、何人かの男子生徒に芝居の変更を注文。キャメラ位置もどんどん移動しながら撮影は進んでいく。

 最初はやはり緊張ぎみだった生徒たちも撮影が進むにつれて堅さが取れていく。生まれて初めての映画撮影の現場に居ることを彼らは後でどう感じたことだろうか。
 多分実際の映画の画面では分からないことだろうが、撮影ではキャメラのスペースを作るために教室の机を微妙に動かしている。それは例えてみればかつて「ウルトラマン」などの特撮怪獣テレビドラマで、ウルトラマンと怪獣が戦うシーンには都市のど真ん中でも広大な格闘スペースが確保されていたようなものかもしれない(ちょっと違うか?)。

 そうして今日は教室内で展開していく場面を集中的に撮影していくことになる。
 監督は生徒たちにウォークマンの使い方を教えたり、レコードの説明をしたりしている。
 そしてそれぞれに動きを決めてタイミングでカットを割っていく。今日だけでシナリオの12ページ分を撮影する予定になっているのだから、進行状況は常に把握されていく。

 芝居がしやすいように机を少し動かしたり、廊下に人を歩かせたりと、普段の学校の様子を表現することにも神経は使われていく。
 また男子生徒たちの間でのアイドル話などもグラビアを写すと権利関係が発生するために、写真などは写さずに撮影は進む。

 撮影が行われていない隣の教室では、美術スタッフがクラスに張る壁新聞などを作成中。
 太田監督の前作「朝日のあたる家」でも手伝いに来ていた応援団も(このために浜松、湖西、和歌山、東京等からやって来ているのだ)参加して小道具作りを行っていた。

 撮影が行われている島田市の、この学校のそばにはSLが走る大井川鉄道がある。1日に何度かSLが通るためにその汽笛が聞こえてくることがある(それは毎日同じ時間に聞こえるのだ)。地元の人に聞くと日曜日は1日に2回通るのだそう。




 午前中の撮影は見ているとなかなか遅々として進まない。子供たちはやはり初めての撮影で勝手が分からないことと、ひとつひとつの自分たちの動きが画面の中でどう写るかも分からない。そのために時間がかかってしまうのは仕方がないことだろう。

 そこを監督はひとつひとつ指示していき、なぜそう動くのか、という心理面もていねいに説明していくことになる。子供たちの演技に変化が出てくるのは、現場に少しづつ慣れたこともあるが、そうした監督のていねいな指示に納得して演技をすることが出来る(覚える)からだろう。
 昼近くになってクラスの担任・尚子先生(仲代奈緒)の出演シーンがやってくる。
 一連の教室での動きを全部通して撮影してしまうようだ。

 そして、ひとたび仲代が動きだすと、それまでの撮影の時間が早く動きだすかのように感じられる。やはり役者を生業としているプロと、初めての撮影現場にいる子供たちとの差は如実に現れてしまうのは仕方がないところ。そのバランスをどう取るか、監督の演出が全体の構成を作ってから少しづつ構築されていく。

 それがあるゆえに教室の中での土台作りが成され、監督の演技プランも含めひとつひとつのシーンがやがて大きな固まりになっていくことになるのだ。
 仲代の履くサンダルのサイズが合わないで脱げやすいために、足の裏とサンダルの間に両面テープを張ったりするのもスタッフの仕事。
 午前中は同じ教室内で撮影が続くことに。

 途中ひとつの台詞がどうしても言えない男子生徒にテイクを15回ほど重ねるという場面もあった。それはほんの一言の短い台詞なのだが、言えなくなると全く言えなくなる事態に。
 それでも根気よくそのシーンをなんとか終え、午前中の撮影は終了、シーン8だけを集中的に撮影して昼食となった。

 昼食は弁当。生徒たちと一緒に50人以上がひとつのフロアで食事をする。まるで修学旅行か合宿の食事風景のようだ。
 午後からは多香子たちが、自分たちで文化祭のためにあることをしようと進言するシーン27から始めることに。
 午前中の撮影が少し時間がかかったため、昼食時間は30分。すぐに撮影を再開することになった。


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