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30年前の思い出ー夢を追うと失うもの。プロを目指すと心傷付けること。 [思い出物語]

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30年ほど前。僕は横浜に住んでいて自主映画活動をしていた。今はもう製造されていないが8ミリフィルムを使って映画作り。映画研究部のような乗りで撮影をし、自主上映会。音楽でいえばバンド活動のようなもの。プロデビューを目指して、仲間と映画を作っていた。

仲間は専門学校の学生であったり、大学生だったり。映画好きが集まり、スタッフやキャストとして参加してくれた。が、皆、素人なので、いろんなトラブルや事件が続出。それを解決しながら1ヶ月も撮影するのは、なかなか大変だった。

真夏の太陽の下での撮影は過酷。ギャラも出ない、飯や交通費は自前。おまけに僕は当時から「本気」モード。趣味の延長ではなかったので、かなり現場はハード。だから、映画ごっこと解釈「楽しそー」と参加すると大変な目に遭う。だから、核となるメンバーは「将来は映画監督になる!」という仲間で固めた。

だが、撮影が1ヶ月も続くと、パニックになる奴も出て来る。主要メンバーの1人で大学生のA君は遅刻が増えるようになる。現場で取り乱す。何かにつけ、反対意見を出し、撮影の足を引っ張る。いやいや作業をし、注意すると激怒。あるとき、彼の不注意で10本近い撮影済みフィルムをダメにしてしまった。

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製作費は僕がバイトで稼いだわずかな額しかない。リテイクを含め、数万円が無駄になる。学生にとっては大きな打撃だ。そのために、撮影がすでに済んだ友人にも、もう一度来てもらい同じシーンの撮影をせねばならない。何日もの撮影が無駄になった...。

A君は非常に聡明な映画マニアで、自身でも将来は映画の仕事がしたいという強い思いがあった。が、映画を「観る」と「作る」では大違いということを痛感しており、心の中で葛藤があったようだ。ここで投げ出すことは、夢を諦めること。だから、辞められない。が、撮影は辛く、やること、なすことが撮影の邪魔ばかり。

そんなふうにA君のために撮影が何度も中断。スケジュールが遅れる。彼のミスのために、手伝いに来た友人たちが二度も三度も撮影に来なければならない。製作費も足りなくなった。なのにA君はどんどんやる気をなくし頻繁に遅刻。投げやりな態度を取るようになっていた。

そこで不思議な反応が起こる。皆はもう「Aは辞めた方がいい!」というと思っていたのに、多くがこういったのだ。「太田。冷たいぞ。Aにもっと優しくしてやれよ! 友達だろう?」「可哀想じゃないか? 遅刻しても待ってやろうよ」最初、その意味が分からなかった。

僕は趣味で映画をやっているつもりはない。プロを目指す仲間と共に真剣勝負で撮影をしていた。そのことは皆、理解しているはず。なのに一部の友人たちが「みんなで仲良くやろう」といいだしたのだ。「よりよい映画」を作るより「友達」を優先すべきというのだ。

もし、これがサークル活動とか8ミリ映画同好会なら、その通りだ。が、プロを目指すための活動である。何で??? それで分かって来た。多くの友人たちは「プロを目指す!」といいながら、実際は「みんなで楽しくやりたい!」というのが本音だったのだ。決局、A君は撮影を途中で投出し、来なくなる。

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映画は完成。皆、盛り上がった。メンバー「もう1本映画を作ろう!」といいだし、次はA君を庇ったB君が監督をした。が、またトラブルや事件が起きて撮影は難航。8ミリ映画といえども撮影は大変。今度はB君がパニックなり。撮影を投げ出してしまった。クランクアップを迎えることなく終了となる。

その後、誰も映画撮影をすることはなくなり、皆、夢を語ることはなくなり、1人故郷に帰り、2人帰り。仲間は誰もいなくなった。僕は新しい仲間と出会い、自主映画活動を続けた。2年ほどして、A君と再会する。僕の8ミリ上映会に来てくれたのだ。彼は恥ずかしそうに、こういった。

「あのときは太田が許せなかった。けど、時間が経ち、自分が甘かったことに気づいた。あのときの仲間は皆、プロを目指すといいながら、その意味を理解してなかったんだ。結局、映画ごっこで楽しくやりたいというレベル。だから、夢を諦めて故郷に帰っていった。でも、お前はまだがんばっている。本当に真剣だったんだな。本気でプロを目指してたんだな? そう思うとうれしくて、来れる義理じゃないけど来ちまったよ.......」


僕もうれしかった。というのも、あの頃は、やたら批判されていた。「太田は何様だ?」「たかが自主映画だろ?」「手伝ってもらっているという感謝がない!」とか陰で言われていた。が、僕がするべきは、素晴らしい映画を作り、認められて、みんなでプロの世界に殴り込むこと。そう思っていた。プロを目指すということが、共通の目標だと信じていたから。

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そうではなかったこと。後に知った。でも、A君と再会し、そのことを彼が分かってくれたこと。うれしかった。もし、あれが青春ドラマなら、みんなで仲良く最後までがんばることがハッピーエンドだろう。しかし「プロを目指す」といいながら、嘘ではないが、それが単なる憧れだった友人たちもいた。「絶対にプロになる!」という者と「できれば、プロになれるといいな〜」という者では、すれ違いが起こるのは当然なのだ。A君は語る。

「あの頃はお前を恨んだけど、今は分かる。お前は間違ってなかったんだよ。今ごろ、あいつらも気づいていると思うよ。そして太田を応援しているはずさ。そしてお前なら必ずプロになれるよ....」

A君はそういってくれた。が、その後、彼と連絡が取れなくなり。今はどーしているか分からない。けど、きっとどこかで僕の映画を観てくれていると思いたい。そしてスクリーンに向かって、1人でこう呟いているだろう。

「だからいっただろ? お前はプロになれるって。嫌われても、冷たいって批判されても、大事なのは素敵な映画を作ることなんだぜ...」

そんな声が聞こえてきそう。だから、僕は前に進みたい。あのときの仲間の思いを込めて、感動を届ける映画を作るために。

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