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「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その10 [撮影ルポ]

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~主人公・多香子の実家での撮影が始まる
 by 永田よしのり(映画文筆家)

 この日は朝6時過ぎに宿舎を出発。
 今日はロケする場所が1カ所だが、シーン撮影はけっこうある日となる。
 スタッフは宿舎から車で1時間ほどの場所に集合。
 一般家屋をお借りして、そこを大谷家(1983年の)と、料亭の一室という想定で撮影が行われることになる。

 ロケ場所はずっと山を登って来た場所で、周囲はお茶畑ばかりの景色が広がる。
 あぜ道にはアブラナ、ヨモギ、ツユクサなどが生い茂り、昔、僕らが子供の頃には登下校などでよく見ていた風景がある。
 地元の人に聞くと「この辺の川ではアユやヤマメが釣れる」のだそうだ。

 さて、美術スタッフはいつものように、誰よりも早く現場に入り撮影のために室内を装飾している。
 まずは、8畳の和室を料亭のような雰囲気に。
 ここでは、主人公・多香子の父親(並樹史朗/「朝日のあたる家」でも父親役を熱演。日本映画には欠かせないバイプレイヤーとして活躍中)が、学校関係者たちとある打ち合わせをするという場面。

 市民俳優の方も交え、多香子の父親と学校の校長、会長の3人だけの緊迫したシーンが展開されることになる。
 なので、照明もやや暗い雰囲気。光の範囲を控えめに狭めるため黒いアルミで照明器具にカバーをかける。もちろん、夜という設定のシーンなので、窓には暗幕が張られている。

 また、曇った雰囲気を出すために煙草を吸うスタッフが集められ、部屋をくゆらせるために数人で一斉に煙草に火を点けて煙りを吐き出す。みるみる部屋中が紫煙でくゆっていく。

 本当に撮影現場で実際の状況を見ると、美術、録音、照明などのスタッフが、現場でどれだけアイディアを出して映画を作っているか、を知ることができる。本当は毎年選出される映画賞なども、こうした撮影現場を実際に見ている人たちによって選ばれるべきだと思うのだが……。

 卓上にはビール瓶や、つまみなどの料理がセットされる。
 もちろん、演者たちが飲むのは本物のビールではなく、ノンアルコールビールや水だ。

「最近のノンアルコールビールは美味くなったよね」と並樹。見ていると撮影前に緊張して喉が乾くのか、ぐいぐいと飲んでしまっている。

 監督からは「映画を観ている人が、まるで自分が言われているような感覚になるように」と(大人たちの、ここでのある打ち合わせが、後に高校生たちに大変な苦痛を与えることになるため/その緊張感・サスペンスを感じるように)台詞回しへのアドバイスや、キャメラ・アングルのチェックなどが出されていく。
 撮影自体はスムーズに進行。テイクを重ねることなく終了した。
 
 そんな撮影が行われている同時刻、多香子を演じる芳根京子は自分の撮影になるまで、劇中の多香子の部屋(1983年当時の自分の部屋という設定で飾り込みされている部屋)に一人で籠もっていた。
 後で本人に聞くと、その時は「自分(多香子)はなんで映画に興味を持ったのか?」「出番となる場面での父親や母親とのやりとりの気持ちを作っていた」のだそうだ。
 そんな多香子の出番となるのは野外撮影から。
 学校から自転車に乗って帰宅して来るシーン。

 季節的に花粉症がひどいらしく、多香子はティッシュボックスが手放せない状態。特に今日は周囲がほとんど森という状況。自転車の前カゴにティッシュボックスを乗せて「ティッシュお届けに来ましたーっ!」となかば自虐的に、かつお茶目に場を和ませていた。

 そんな芳根京子が演じている多香子、もちろん撮影現場では真剣そのものなのは当たり前だが、こうした息抜き的な側面もところどころで見せてくれる。
 帰宅シーンでは、実は「30年後に大人になった多香子が帰省するシーンとリンクさせる狙いもある」のだと、監督。そのため、アングルなどにも気を配る。

 多香子が帰宅後は、10畳間での母親・美里(烏丸せつ子)との会話のシーンが撮影される。
 ここではシーン内カット数を少なくし、そこにいかにして情報説明をしっかりとし、かつ効果的な画面構成を作れるように監督からは指示が出されていく。
 娘の多香子には感情の機微を表現できるように、また母親からは娘に対する気持ちが見えるようにというアドバイスも。

 室内撮影のために、茶の間の明かりをここでも調整。光量を統一するために部分的に白い布を張ることも。

 多香子が新聞を持つ場面では、ページがどうしてもペラペラと開いてしまうために、両面テープで新聞を固定するといった、映画の画面では絶対に気づかないようなスタッフの技も使われた。

 撮影も5日目。時間軸は前後しているが、今までのシーン撮影とシナリオを読み合わせていくと、物語の流れがかなり自分の中でも掴めてくるのが分かる。
 それはこのルポを続けて読んでくださっている方々もそうなのではないだろうか。

 撮影されたページ数はおよそ45ページ分ほど。全部で136ページのシナリオのほぼ1/3が終了したところだ。
 だが、まだまだ1/3なのだ。
 (つづく)
 

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