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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その9 [撮影ルポ]

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~町の中で市民俳優参加の撮影が続く

by 永田よしのり(映画文筆家)

 役者の芝居というものはテストから本番になるまでに大幅に変わることがある。それは役者が考えていた演技プランと、監督が脚本を書いて考えていた動きとに最初ズレがあるからだ。
 そこには脚本の読み込みとそのシーンの感情の流れに対するその人(劇中の)の歴史までをまだ役者がつかみきれていなかったりする場合などにも起こる。そこを監督は頭から否定するのではなく、少しづつ戻って来るように修正していくことになるのだ。それも演出だ。

 醤油樽がいくつも並んでいる場所では、撮影スタッフ以外の人間は自分の居場所を探すのに苦労する。
 撮影場面は見たいが、キャメラに映り込んではいけない。僕などはよくメモを取ることに夢中になり、キャメラマンに「永田さん少しフレームに入っちゃう」と注意されてしまうことも(困/まあ、今回の撮影では1回だけ注意されてしまったのだが)。

 撮影が続いている合間に、この地域では名物となった大井川鉄道を走るSLの汽笛が何度も聞こえてくる。
 走る時間帯は1日で決まっているため、スタッフはその時間表も把握している。現に撮影の合間には何回も汽笛が聞こえてきていたものだ。
 「将太には印象づけのために鼻をこする癖をつけよう」と、衣装合わせの時に提案され、そのリアクションが加えられた。

 その癖は大人になった将太役(別所哲也)にも引き継がれることになっている(それは映画で確認していただきたいと思う)。
 監督は若い将太がなかなかうまく台詞と動きとのタイミングが取れないことに対して「癖もひとつの芝居として見せること」「ふたつの芝居をしようとするからうまくいかないんだよ」と注意。
 リハーサル、テストを何回も続けてから本番OKとなった。 

 醤油屋での撮影が終了した後は歩いて行ける、これも美術部が外観を作り込んだレンタルレコード屋を撮影に移動。
 歩いて行ける距離のために、僕は次の撮影場所への移動のために車を回す用意があった。

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 劇中ではレンタルレコード店の内部での芝居があるが、その外観はこんなに小さいのか、と思われるほどこじんまりとしたもの。本当に町中にある昔のレンタルレコード店だ。
 ここでの外観撮影の後は、島田駅からほど近くにある場所に移動して、ビデオ店内部の撮影となるのだ。
 そこまでは車で30分ほどの移動距離。

 かつてはレンタルビデオ店として稼動していたものらしく、外観には有名なアクション映画「ランボー2」をモチーフにした看板が残っている(「ランボー2」は1985年公開の映画。実際には映画では使われていないが、当時の匂いがこんな所にも残っているのだ)。

 スタッフらは店内の棚に1983年当時に流通していたレコードを各種並べていく。権利関係があるので、レコードジャケットを写してもいいものとそうでないものとを分けて並べていく注意が必要となる。
 役者たちが入る前に監督はキャメラ位置をスタッフと細かく決めて、切り返しの位置なども考えていく。

 ここではシーン16、28、46とレンタルレコード店での多香子たちと店長とのやりとりが撮影されていくことになる。
 そしてここでは市民俳優の方々が店の客として出入りすることになるために、それら10人ほどの客の中で芝居が進むことになるのだ。 
 撮影スタッフも含めて30人ほどになってしまう店内は〃人いきれ〃ですぐに気温が上がり暑くなっていく。

 そしてそんな客たちと多香子たち、店長たちとの姿が重ならないようなキャメラ位置を決め、芝居の段取りが続けられていくのだ。
 キャメラで撮影された映像だけしか実際の映画の画面では見れないわけだが、実際にはそのキャメラ撮影する場面の外側にはたくさんの情報が溢れているのだ。

 時間の経過と共に店内のレコードも入れ替えられ、時系列を変えていくために店長も何度か着替えを与儀なくされる。
 夕方6時過ぎ。レンタルレコード店での撮影は終了。今日はロケが始まって、初めて一度も雨が降らない1日となった。
 
 夜は翌日からの撮影のため衣装合わせにやって来る、多香子の母親役・烏丸せつ子(現在50代くらいの男性諸氏らには6代目のクラリオン・ガールとして記憶があるだろう。映画では主演の「四季・奈津子」がヒット。最近作品では「樹海のふたり」で客をだますホテルの受付嬢役が印象に残る)の衣装合わせに帯同。
 衣装を合わせながら役どころの確認をしていくことになる。

 30年前の話なので、母親の産まれは1950年代。それほど派手な格好はしないだろうという衣装が選ばれていく。
 ここで何種類かの衣装が決定し、翌日からの撮影に臨むこととなる。この日も宿泊所に戻ったのは夜10時過ぎ。
 翌日は朝6時半出発と、ボードには書かれていた。
 果たしてみんなの睡眠時間は足りているのだろうか?

(つづく)

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