映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その7 [撮影ルポ]
映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その7
by 永田よしのり(映画文筆家)
高校生の多香子(芳根京子)たちと町の人たちとの触れ合いが撮影されていく
午後も書店を使用しての撮影が続く。
多香子たちが撮影する8ミリ映画の撮影シーン。
ここからの撮影では市民俳優の方たちも参加。
書店の鮫島店長(奈佐健臣)を撮影している多香子たちの様子を見ている市民たちという設定。
撮影にはいくつものアイディア出しがなされ、台詞のテンポを監督が細かく指示。鮫島店長を撮影するエリカたちとのタイミングなどひとつひとつきっちりと決めていく。
書店の奥ではみどり(藤井武美)が初めて使う撮影の合図を出す道具(カチンコ)の使い方を助監督からレクチャー中。
このカチンコという道具、撮影開始の時にカチン!と鳴らすものだが、日本では鳴らした後に指を挟み、外国では挟まないなど、使い方にも違いがあるのだと聞いて、みどりは感心することしきり(他にも照明の照度を調整するレフ板の使い方もスタッフから教えられていた)。
鮫島店長が煙草に火を点ける時は火が見えるようにとか、一連の動きが段取り芝居にならないようにと監督からは指示が出される。
スマートな中にも少し惚けた感じを出したいのだという。
そんな撮影のエキストラには小さな子供たちもいたのだが、鮫島店長の動きに全てキョトンとした様子でノーリアクション。
子供たちにしてみれば理由も分からずに親たちに撮影現場に連れて来られたのだろうから仕方のないことかもしれない。改めて子供と動物は撮影に使うのは大変だと思ってしまう。
それでも撮影が終わると子供たちは「バイバ~イ」と、とっとこ3人娘たち(多香子・みどり・エリカらに撮影初日、監督が「ハムスターみたいなリアクションとってみて」とアドバイス。その時の彼女たちの様子を人気アニメのキャラクターたちになぞらえてそう呼ぶように。この頃はその呼び方がすっかり定着しているのだ)に手を振って帰って行く。特にみどりは子供たちと打ち解けていたようだ。
店長を演じた奈佐健臣はこの日で撮影シーンが終了。
1日のそれも数時間だけの撮影で撮了というのも、何か不思議な感じだ(前日に撮影した仲代奈緒さんも1日で撮影終了となったが、出演者が多い映画ではサブ・キャラクターたちはどんどん自分の出演シーンを撮影しては現場を後にしていく/だが、太田映画では登場人物たちみんなが映画の中では主人公なので、誰の印象が薄いというようなことはないのだ)。
最後に書店に走って入って来る多香子たちのシーン撮影。
書店の前の道路を挟んでの撮影のために、うまく車の往来をずらしながら撮影されていく。ここでは車の規制もほとんどすることなく2テイクで撮影は終了した。
そして次は書店から少し離れた場所でシーン25、57、109内の撮影に移る。
ここでは美術スタッフがすでに店仕舞いをしている店舗を利用して1983年当時のカメラ屋に見せるように飾りこんである。
一見すると普通に今も地方の町で営業しているカメラ屋に見えるのだから素晴らしい(聞くと美術スタッフは撮影前に3回来て外観から作り込んだのだそうだ)。この頃、午後3時半を過ぎたあたりからポツポツと雨が落ち始めてくる。
カメラ屋の沖店長役は牧口元美(「マークスの山」「となり町戦争」など多数出演)。
そこに多香子たちが8ミリフィルムのことで相談に来るシーンだ。
カメラ屋の中での撮影のため、店内は狭く撮影スタッフ以外は入って撮影の様子を見ることが少々困難。なので、僕は外から撮影の様子に聞き耳をたてることに。
中では8ミリキャメラによって使うフィルムが違うことの説明などを沖店長が多香子たちにするシーンが撮影されている。当時の8ミリフィルムのことなどを知らない若い人たちも、このシーンで大体は分かるようになっているのだ。
「渡されたフィルムは見て確認するように」と監督からの指示が聞こえる。フィルムの扱い方も教えていた。
途中で監督がキャメラを入れるバッグが欲しい、と提案。それを聞いてスタッフがしばらくしてから見つけて来た。
それを監督は「まるで『大脱走』のチャールズ・ブロンソンのようになんでも調達してくるスタッフだ」と舌を巻いていた。
こうしたスタッフたちの臨機応変さは映画撮影の現場には絶対に必要なもの。
現場では「できません」「ありません」は本当に最後に最後の最終手段でしかないのだ。
一連のカメラ屋のシーン撮影終了後、ここでも沖店長のダンス・シーンが撮影される。
午後6時40分過ぎ。本日の撮影は終了。
後片付けをしたり、メイキング撮影をしたりして、宿泊所に戻ったのは夜9時近く(なにしろ町中から宿泊所に戻るまでに小一時間かかるのだ)。
それから食事、風呂、翌日の準備。
監督は食事をする場所の一角を陣取り、作業をしている。
美術部も別室で作り物をしていた。
1日の撮影が終わったといってものんびりとしているわけにはいかないのだ。
翌朝は少しゆっくりめで、朝9時からのスタートとアナウンス(といってもそれは撮影現場でキャメラが回りだす目安の時間であり、スタッフらはそれよりも早い時間から色々と撮影準備のために現場に入って作業をしているのだ)。
なので、僕も少しだけこの撮影ルポをタイピングする。
夜11時過ぎ。スタッフボードに書かれていることを確認して、僕も自室に引き上げることに。
その時刻でもまだ、太田監督はPCモニターを見ながら作業を続けていたのだった。(つづく)
2015-02-27 09:25
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