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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その6 [撮影ルポ]

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 雨も上がり、初の外ロケに出発! by 映画文筆家 永田よしのり

 撮影初日から2日間雨が降り続きだった天候もようやくこの日は一段落。朝から青空が見える空となった。
 撮影3日目。この日は朝7時半から撮影開始。
 宿泊所の隣にある講堂(体育館)を使用しての撮影。
 文化祭で多香子たちが体育館を下見に来るシーン69だ。
 板張りの体育館に朝7時15分ほどに入ってみると、床にはすでにスタッフたちによってロールシート(学校の講堂で催しが行われる時、イスを並べる時に板張りの床が傷つかないように敷かれるあれである)が敷かれ、約100脚ほどのパイプ椅子が並べられている。スタッフたちは何時からこの作業をしていたのだろうか。現場での準備・用意はその都度変化するし、時間の余裕のありなしなど様々。そうしたスタッフの動きがなければ映画が出来ていかないということは知っておきたいことのひとつだと思う。
 監督、スタッフらは若い3人の導線を現場の中でチェック。それを受けて具体的に動きが確かめられていく。多香子、エリカ、みどりらは監督の指示に従って自分たちの動きと台詞を確認。広い場所を歩きながらの台詞まわしなので、歩く速度や台詞のタイミング~どこまで動いた時に台詞を言うか~どこで椅子に座るか、などが確認されていく。

 本番ではこれらのシーンは一連の流れの中では撮影されるため、正、逆のパターンで撮影することになる。
 またこの日は朝から晴れて太陽の光が差し込んでくるために、光の調整も必要になってくる(曇天の日の方が撮影自体には光の強弱が現れづらく都合が良いこともある)。
 照明部は刻々と変化していく光量をタイミングを計りながらライトの光量を調節している。
 劇中の季節は初秋ではあるが、外からは鴬の鳴き声も時たま聞こえてくる。録音ではそうした外部の音は処理されていくことになろう。
 若い3人が椅子に座る位置にも監督のこだわりがあるようで、座る順番と場所を何度もやり直していた。それはなぜかというとこの場面がまるで3人の卒業式のように見せようという意図があったようだ(文化祭は卒業式にはならないことは分かっていたが、結果的にそうなっていくのがこの後に少しづつ分かってくる。この時はまだ僕には分からなかったが、監督の中のイメージは、3人の関係性の変化なども含めてここでしっかりとつながっていたのだろう)。
 シーン自体はそれほど変化に富んだ撮影を望む場面ではなかったため、時間的には比較的早く進んだように思う。

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 体育館での撮影が終了した後は町へと移動。
 シーン34から。
 ここでは金谷町の裏通りを学校からの下校というシーン。
 あらかじめ協力をお願いしてあった場所に車を駐車し、水路がある裏通りにスタッフらは移動。ロケ場所の裏通りはそれほど古いという感覚ではなく、まさに30年ほど前の雰囲気を残している。
 こうした場所をロケハン(ロケーション・ハンティング=撮影する場所を見つけること)で見つける能力は、いつもながらただただ感心してしまう。
 こうした実際に人が住んでいる、息づいている場所で撮影することによって生み出される画面の様子(空気感)というものが必ずあるのだ。
 撮影3日目にして初の外ロケ。昨日までの雨とは変わって陽差しがけっこう強い。監督は撮影を見学している周囲の家の方々に声をかけられ、挨拶をしながら裏通りを進んで行く。
 進みながら細かい動き(歩き方の早さ、並び方など)をチェック。街路には映画館・かもめ座の立て看板もセッティング。看板に貼るポスターも制約があるために確認。最終的に「戦場のメリークリスマス」と「大いなる西部」に決まる。映画ではどこに看板があるかをぜひチェックを。
 裏通りを歩いていく多香子とみどり。監督からはみどりに「もう少し台詞を大きな声で」と何度かチェックが入っていた。
  
 下校シーンの撮影を終えると、次は近くにある実際の営業している書店を利用してシーン11、43、55の撮影。

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 ここでは若い3人以外で初めて他の俳優が入っての撮影となる。書店の鮫島店長を務める奈佐健臣がここで合流。彼は太田監督の「ストロベリーフィールズ」にも印象的な役で出演している。
 書店内部で撮影に使われる場所の書棚には、もちろん30年前の雑誌などが並べられることに。

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 キャメラフレームに映り込む場所には絶対に現代(撮影時・2014年現在)の雑誌などが映り込むわけにはいかない。
 その範囲もどこからどこまで、とフレームを確認しながら決めていく。
 1983年当時の映画雑誌などが懐かしい。
 そこで鮫島店長と多香子、みどりとの一連のやりとりが撮影されるのだ。
 段取りや芝居の間のチェック。楽しげに立ち読みをする2人とそれを阻止する鮫島店長の怒ったような顔とのギャップに温度差が見えて楽しく感じる場面だ。そこにある台詞には大人たちと高校生との考え方のギャップもしっかりと現れているのだ。
 セッティングされたキャメラは3台。

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 一連の動きの中での俯瞰でのカットに見せ方のこだわりが感じられる。
 この頃から監督は若い3人娘たちを常に「とっとこ」と呼び始めている(その始まりは撮影初日の夜の場面ですでに登場しているので覚えてらっしゃる方も多いことだろう)。
 「とっとこ」とは、あの人気動物アニメ「とっとこハム太郎」のこと。3人でちょこちょこ動き回っていることがそう感じたのだろうか。
 そう呼ばれることを楽しんでいるのか、3人娘たちはそのアニメの主題歌まで唄い出す始末。こうしたちょっとしたことも撮影現場を和ますひとつになっていく。
 立ち読みしている雑誌を鮫島店長が取り上げるタイミングを何パターンかテスト、シーンでのカット変わりも3パターンほど撮影する。
 その後は別シーンで鮫島店長に多香子たちがあることを依頼するシーンの撮影、流れを確認しながら台詞も微調整していく。

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 ここでは動きに意味を持たせる芝居を監督が要求していた。
 そして鮫島店長だけのダンス・シーンが撮影される。
 このダンス・シーンは出演者それぞれにあり(前日も仲代奈緒さん演じる尚子先生が収録しているもの)、実は映画のクライマックスの中で挿入されるシーンなのだ(それがどんな場面なのかは、もう少し先のこのルポで紹介することになるだろう)。
 3人娘らとのやりとりを終えた後はそのダンス・シーンのために書店店長は細見の真っ赤なスーツに衣裳替え。その格好を見て3人娘たちは思わずテレビ・アニメ「ルパンⅢ世」のオープニング主題曲を口ずさみ始める。そこに店長から「ルパンじゃないぞ~」とツッコミが返されていた。
 傍から見ているとこの撮影現場をそこここで和ましているのはやはり若い3人娘たちなのだ。
 古い言い方かもしれないが「箸が転んでも笑う」という、若い娘たちを言い表す言葉がある。まさに若さゆえの元気さ、明るさが彼女たちの中にはある(撮影中の緊張感から解放されている待機時間などを見ていると、仲良しの3人組が遊んでいるようにしか見えないもの)。それがある意味、撮影現場の緊張感を解すことに一役買っているのかもしれない。 
 鮫島店長のダンス・シーンまでで午前中の撮影は終了。
 昼食にはエキストラの方からの差し入れでたこやきも。
 小1時間の昼食休憩もほどほどに、監督は数人のスタッフらと共に、午後からの撮影に備えて撮影現場に戻って行くのだった。
 そして我々メイキング班や他のスタッフも次々に現場に戻る。
 1時間予定されている休憩時間をそのまま休んでいるスタッフなど一人もいない。
 みんな次の撮影シーンのことで頭が一杯なのだ。

(つづく)


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