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「向日葵の岡1983年・夏」撮影現場ルポ その11 [撮影ルポ]

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~高校生の多香子と父親との確執が露に!

by 永田よしのり(映画文筆家)


 昼食を挟んで、午後からは多香子(芳根京子)と、父親(並樹史朗)、母親(烏丸せつ子)の親子3人でのシーンが撮影される。
 まずは仕事から帰宅したお父さんが、テレビを見ている多香子をたしなめるシーン。
 多香子とテレビとの距離や位置関係などを監督は確認する。
 ここではテレビの「洋画劇場」オンエア作品「紳士は金髪がお好き」(マリリン・モンロー主演/1953年/監督・ハワード・ホークス) が始まるのを、多香子がテレビの前で待っているという場面。

 そこに帰宅したお父さんが多香子に対して、映画なんて見てないで勉強しろ、とたしなめる場面だ。
 ここではお父さんが「何がノーマ・ジーンだ」というアドリブも入れている(つまり父親=演じている並樹史朗が)。

 「映画なんか」と言っているわりにマリリン・モンローの本名も知っている、という小ネタなのだ。それが本編で使われているかは、劇場で確認を。
 これまで多香子の撮影シーンでは、仲間たちとの和気あいあいとした場面が主に撮影されてきたが、ここで初めて家族(父親)との確執や感情を爆発させるシーンが展開されることになる。
 そこで自分に反発する娘の顔を見ずに、自分の台詞を言う父親、という感情の現れも表現される。
 お父さん役の並樹は、このシーンは、台詞の間、拍数なども数えて台詞を言うことを考えていたのだと、後で僕に教えてくれた。

 つまり、自分の台詞と感情のコントロールを並樹は考えていたのだ。
 そして多香子はそんな父親との台詞回しを、膝を突き合わせて何度も練習、確認していく。
 そこにあるのは年齢が離れていることなど関係のない、一人一人の役者としての向き合い方が見て取れる。




 そして父親にたしなめれら怒って部屋を出て行く多香子が新聞を投げつけるという、感情的な場面が続く。
 ここでは多香子が監督に「新聞をたたきつけるのって、こういう風がいいですか?」と、確認している。
 撮影が始まってから数日の頃は、多香子を演じる芳根京子から撮影の際のアイディアはまず出てくることはなかった。

 それが撮影が進むにつれて、自分から監督に演出の相談をするようになってきている。
 それは撮影現場に慣れてきたこともあるだろうが、より良いものを模索していこうという姿勢の現れとしてのものなのだろう(つまり多香子という役を演じることに欲が出てきたということや、多香子という役が芳根京子に同化してきているからなのだろう、と僕は考えていた)。
 さらに言えば、ここでお父さんは煙草に火を点けているのだが、多香子が新聞を投げ付ける(畳に叩きつける)ことで、その風圧を受けてお父さんの煙草の煙がゆらめく動き方にも変化がつくという効果もある。

 つまり煙草の煙にも演出としての意味合い(どれだけの強さで多香子が新聞を叩きつけているのか、それは多香子の怒りの度合いでもあるということ)が現れるということだ。
 監督はそんな場面のやりとりを、土間にセッティング(役者たちが演技をする居間に向けて)してあるキャメラをのぞきに、靴も履かずに降りてチェックしに行く。




 そんな本番中、撮影している部屋の外にもスタッフは待機している。
 外にいる人間に対してはスタッフが「本番」を知らせるために人差し指を立ててグルグルと回すという合図がある。
 指が回っている間は本番のキャメラが回っている時間なので、歩き回ったり話したりしないで静かにするようにという合図だ。

 初めてこうした撮影現場に来た人もいるために、そうした合図の説明もされていた。
 また、居間でのシーンの間にも別のスタッフは、次の夕食シーン撮影のために、台所で夕食の用意などもしている。撮影現場では実際に撮影している場所だけにスタッフが働いているのではないことを改めて知らされる。(つづく)


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「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その10 [撮影ルポ]

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~主人公・多香子の実家での撮影が始まる
 by 永田よしのり(映画文筆家)

 この日は朝6時過ぎに宿舎を出発。
 今日はロケする場所が1カ所だが、シーン撮影はけっこうある日となる。
 スタッフは宿舎から車で1時間ほどの場所に集合。
 一般家屋をお借りして、そこを大谷家(1983年の)と、料亭の一室という想定で撮影が行われることになる。

 ロケ場所はずっと山を登って来た場所で、周囲はお茶畑ばかりの景色が広がる。
 あぜ道にはアブラナ、ヨモギ、ツユクサなどが生い茂り、昔、僕らが子供の頃には登下校などでよく見ていた風景がある。
 地元の人に聞くと「この辺の川ではアユやヤマメが釣れる」のだそうだ。

 さて、美術スタッフはいつものように、誰よりも早く現場に入り撮影のために室内を装飾している。
 まずは、8畳の和室を料亭のような雰囲気に。
 ここでは、主人公・多香子の父親(並樹史朗/「朝日のあたる家」でも父親役を熱演。日本映画には欠かせないバイプレイヤーとして活躍中)が、学校関係者たちとある打ち合わせをするという場面。

 市民俳優の方も交え、多香子の父親と学校の校長、会長の3人だけの緊迫したシーンが展開されることになる。
 なので、照明もやや暗い雰囲気。光の範囲を控えめに狭めるため黒いアルミで照明器具にカバーをかける。もちろん、夜という設定のシーンなので、窓には暗幕が張られている。

 また、曇った雰囲気を出すために煙草を吸うスタッフが集められ、部屋をくゆらせるために数人で一斉に煙草に火を点けて煙りを吐き出す。みるみる部屋中が紫煙でくゆっていく。

 本当に撮影現場で実際の状況を見ると、美術、録音、照明などのスタッフが、現場でどれだけアイディアを出して映画を作っているか、を知ることができる。本当は毎年選出される映画賞なども、こうした撮影現場を実際に見ている人たちによって選ばれるべきだと思うのだが……。

 卓上にはビール瓶や、つまみなどの料理がセットされる。
 もちろん、演者たちが飲むのは本物のビールではなく、ノンアルコールビールや水だ。

「最近のノンアルコールビールは美味くなったよね」と並樹。見ていると撮影前に緊張して喉が乾くのか、ぐいぐいと飲んでしまっている。

 監督からは「映画を観ている人が、まるで自分が言われているような感覚になるように」と(大人たちの、ここでのある打ち合わせが、後に高校生たちに大変な苦痛を与えることになるため/その緊張感・サスペンスを感じるように)台詞回しへのアドバイスや、キャメラ・アングルのチェックなどが出されていく。
 撮影自体はスムーズに進行。テイクを重ねることなく終了した。
 
 そんな撮影が行われている同時刻、多香子を演じる芳根京子は自分の撮影になるまで、劇中の多香子の部屋(1983年当時の自分の部屋という設定で飾り込みされている部屋)に一人で籠もっていた。
 後で本人に聞くと、その時は「自分(多香子)はなんで映画に興味を持ったのか?」「出番となる場面での父親や母親とのやりとりの気持ちを作っていた」のだそうだ。
 そんな多香子の出番となるのは野外撮影から。
 学校から自転車に乗って帰宅して来るシーン。

 季節的に花粉症がひどいらしく、多香子はティッシュボックスが手放せない状態。特に今日は周囲がほとんど森という状況。自転車の前カゴにティッシュボックスを乗せて「ティッシュお届けに来ましたーっ!」となかば自虐的に、かつお茶目に場を和ませていた。

 そんな芳根京子が演じている多香子、もちろん撮影現場では真剣そのものなのは当たり前だが、こうした息抜き的な側面もところどころで見せてくれる。
 帰宅シーンでは、実は「30年後に大人になった多香子が帰省するシーンとリンクさせる狙いもある」のだと、監督。そのため、アングルなどにも気を配る。

 多香子が帰宅後は、10畳間での母親・美里(烏丸せつ子)との会話のシーンが撮影される。
 ここではシーン内カット数を少なくし、そこにいかにして情報説明をしっかりとし、かつ効果的な画面構成を作れるように監督からは指示が出されていく。
 娘の多香子には感情の機微を表現できるように、また母親からは娘に対する気持ちが見えるようにというアドバイスも。

 室内撮影のために、茶の間の明かりをここでも調整。光量を統一するために部分的に白い布を張ることも。

 多香子が新聞を持つ場面では、ページがどうしてもペラペラと開いてしまうために、両面テープで新聞を固定するといった、映画の画面では絶対に気づかないようなスタッフの技も使われた。

 撮影も5日目。時間軸は前後しているが、今までのシーン撮影とシナリオを読み合わせていくと、物語の流れがかなり自分の中でも掴めてくるのが分かる。
 それはこのルポを続けて読んでくださっている方々もそうなのではないだろうか。

 撮影されたページ数はおよそ45ページ分ほど。全部で136ページのシナリオのほぼ1/3が終了したところだ。
 だが、まだまだ1/3なのだ。
 (つづく)
 

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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ バッックナンバー。 [撮影ルポ]

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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ
バッックナンバー。

撮影現場ルポその9
町の中で市民俳優参加の撮影が続く。
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-12000830133.html
撮影現場ルポその8はこちら
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-11997903918.html
撮影現場ルポその7はこちら
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-11994967798.html
撮影現場ルポその6はこちら。
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-11992108399.html
撮影現場ルポその5はこちら。
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-11989238035.html
撮影現場ルポその4はこちら。
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-11986224439.html
撮影現場ルポその3はこちら。
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-11983261812.html
撮影現場ルポその2はこちら。
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-11980471586.html
撮影現場ルポその1はこちら。
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-11977667006.html
撮影に同行する前に(序文)はこちら。
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-11974892680.html


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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その9 [撮影ルポ]

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~町の中で市民俳優参加の撮影が続く

by 永田よしのり(映画文筆家)

 役者の芝居というものはテストから本番になるまでに大幅に変わることがある。それは役者が考えていた演技プランと、監督が脚本を書いて考えていた動きとに最初ズレがあるからだ。
 そこには脚本の読み込みとそのシーンの感情の流れに対するその人(劇中の)の歴史までをまだ役者がつかみきれていなかったりする場合などにも起こる。そこを監督は頭から否定するのではなく、少しづつ戻って来るように修正していくことになるのだ。それも演出だ。

 醤油樽がいくつも並んでいる場所では、撮影スタッフ以外の人間は自分の居場所を探すのに苦労する。
 撮影場面は見たいが、キャメラに映り込んではいけない。僕などはよくメモを取ることに夢中になり、キャメラマンに「永田さん少しフレームに入っちゃう」と注意されてしまうことも(困/まあ、今回の撮影では1回だけ注意されてしまったのだが)。

 撮影が続いている合間に、この地域では名物となった大井川鉄道を走るSLの汽笛が何度も聞こえてくる。
 走る時間帯は1日で決まっているため、スタッフはその時間表も把握している。現に撮影の合間には何回も汽笛が聞こえてきていたものだ。
 「将太には印象づけのために鼻をこする癖をつけよう」と、衣装合わせの時に提案され、そのリアクションが加えられた。

 その癖は大人になった将太役(別所哲也)にも引き継がれることになっている(それは映画で確認していただきたいと思う)。
 監督は若い将太がなかなかうまく台詞と動きとのタイミングが取れないことに対して「癖もひとつの芝居として見せること」「ふたつの芝居をしようとするからうまくいかないんだよ」と注意。
 リハーサル、テストを何回も続けてから本番OKとなった。 

 醤油屋での撮影が終了した後は歩いて行ける、これも美術部が外観を作り込んだレンタルレコード屋を撮影に移動。
 歩いて行ける距離のために、僕は次の撮影場所への移動のために車を回す用意があった。

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 劇中ではレンタルレコード店の内部での芝居があるが、その外観はこんなに小さいのか、と思われるほどこじんまりとしたもの。本当に町中にある昔のレンタルレコード店だ。
 ここでの外観撮影の後は、島田駅からほど近くにある場所に移動して、ビデオ店内部の撮影となるのだ。
 そこまでは車で30分ほどの移動距離。

 かつてはレンタルビデオ店として稼動していたものらしく、外観には有名なアクション映画「ランボー2」をモチーフにした看板が残っている(「ランボー2」は1985年公開の映画。実際には映画では使われていないが、当時の匂いがこんな所にも残っているのだ)。

 スタッフらは店内の棚に1983年当時に流通していたレコードを各種並べていく。権利関係があるので、レコードジャケットを写してもいいものとそうでないものとを分けて並べていく注意が必要となる。
 役者たちが入る前に監督はキャメラ位置をスタッフと細かく決めて、切り返しの位置なども考えていく。

 ここではシーン16、28、46とレンタルレコード店での多香子たちと店長とのやりとりが撮影されていくことになる。
 そしてここでは市民俳優の方々が店の客として出入りすることになるために、それら10人ほどの客の中で芝居が進むことになるのだ。 
 撮影スタッフも含めて30人ほどになってしまう店内は〃人いきれ〃ですぐに気温が上がり暑くなっていく。

 そしてそんな客たちと多香子たち、店長たちとの姿が重ならないようなキャメラ位置を決め、芝居の段取りが続けられていくのだ。
 キャメラで撮影された映像だけしか実際の映画の画面では見れないわけだが、実際にはそのキャメラ撮影する場面の外側にはたくさんの情報が溢れているのだ。

 時間の経過と共に店内のレコードも入れ替えられ、時系列を変えていくために店長も何度か着替えを与儀なくされる。
 夕方6時過ぎ。レンタルレコード店での撮影は終了。今日はロケが始まって、初めて一度も雨が降らない1日となった。
 
 夜は翌日からの撮影のため衣装合わせにやって来る、多香子の母親役・烏丸せつ子(現在50代くらいの男性諸氏らには6代目のクラリオン・ガールとして記憶があるだろう。映画では主演の「四季・奈津子」がヒット。最近作品では「樹海のふたり」で客をだますホテルの受付嬢役が印象に残る)の衣装合わせに帯同。
 衣装を合わせながら役どころの確認をしていくことになる。

 30年前の話なので、母親の産まれは1950年代。それほど派手な格好はしないだろうという衣装が選ばれていく。
 ここで何種類かの衣装が決定し、翌日からの撮影に臨むこととなる。この日も宿泊所に戻ったのは夜10時過ぎ。
 翌日は朝6時半出発と、ボードには書かれていた。
 果たしてみんなの睡眠時間は足りているのだろうか?

(つづく)

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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その8 [撮影ルポ]

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地図は必須! 次々に移動していく撮影現場。
by 永田よしのり(映画文筆家)


 この日は朝9時に撮影開始。快晴だ。
 ロケ現場となる家山地区まで移動し、創業明治43年という作り醤油屋(マルエイ醤油川根本店)を借りての撮影となる。
 僕はこの取材の間、車にスチール・キャメラマンとメイキング・ビデオマンの2人を同乗させて撮影現場を移動するようになっている。なので現場にまず2人を降ろし、車を駐車場に入れて撮影現場に歩いて行くのだ。
 現場に着くと、すでに美術部は店の周辺に立て看板などを飾りつけ、1983年当時の様子を再現していた。
 こうした撮影現場では出演者陣が到着、撮影の前にスタッフらは開始時間より早く現場に入り、撮影がスムーズに行われるための用意に余念がない。その入り時間は準備の様子によって様々。早い時は撮影の2~3時間前から現場に入っていることもあるのだ。
 本日はその醤油屋に多香子(芳根京子)たちがやって来るシーン44~45から撮影を始める。
 この醤油屋は、多香子が少し憧れている先輩・将太の実家。演じるのは若手の小池亮介。映画の他にも舞台の芝居などにも出演している。

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 醤油屋の中での撮影の前に、まずは多香子たちが醤油屋へと自転車を押しながらやってくるシーンを撮影。
 もちろん普通の道路での撮影なので、往来する車に気をつけながらの撮影となる。
 スタッフらは車が通るタイミングを確かめながら動いていく。
 場所は曲がった下りの坂道なので、下り側の車は気持ちスピードを落として走って来る。撮影をしている様子を見ながら通り過ぎて行く車も多いので、わき見運転が少々心配だ。
 そんな場所に自転車を押して歩きながら台詞を言う芝居。流れの中で店の脇に自転車を停め、店内へと入るまでを追う。
 監督は一連の動きの中で台詞のタイミングを早くしたり遅くしたりを計算しながら指示を出していく。
 この日は快晴で太陽の光が強いため、キャメラには黒い暗幕をかけてキャメラ・モニターを見やすくしながら撮影が続いていく。
 こうした場面の撮影では、離れた場所(ロング・ショット)での画面作りになるために録音部が手持ちのマイクで役者たちの台詞を拾うことが出来ない(画面の中にマイクが写り込んでしまうからだ)。
 そのために彼女たちには画面には見えない身体の箇所にワイヤレスマイクが仕込まれている。
 その台詞の音量も確認しながら撮影は進められていく。
 しかしながら往来では様々な音が溢れている。
 飛行機が飛ぶ音やウグイスの鳴き声、犬の吠える声、車の往来などなど。それらを同期録音でできるだけ収録しないようにうまくタイミングを計りながら撮影していくことになるのだ。
 この場面はテイク4で終了した。

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 次は屋内での撮影。
 醤油を作っている樽がある場所なので、外から雑菌が入らないように配慮される(スタッフらは頭にエコキャップを被っての撮影となる)。
 醤油を作っている蔵に入るとプ~ンと醤油の匂いが溢れている。長い歴史がこの場所にあることを感じる。おかしいが、まるで自分が醤油を漬けられた煎餅のような気分にもなってくる。
 いくつもの大きな醤油樽を抜けて一番奥で作業している将太のいる所まで行って台詞のやりとりをする場面だ。

 ここではキャメラを1台で俯瞰から撮影するものと、役者に寄ったものを撮影。
 2階から1階への機材の移動などはそれぞれのスタッフで声掛けが必須だ。監督は将太への芝居をつけている。「久しぶりに会うというニュアンスを大事に」「作業の時間経過に気をつけて」などといくつもの指示が出る。(つづく)

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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その7 [撮影ルポ]

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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その7

 by 永田よしのり(映画文筆家)

高校生の多香子(芳根京子)たちと町の人たちとの触れ合いが撮影されていく
 午後も書店を使用しての撮影が続く。
 多香子たちが撮影する8ミリ映画の撮影シーン。
 ここからの撮影では市民俳優の方たちも参加。
 書店の鮫島店長(奈佐健臣)を撮影している多香子たちの様子を見ている市民たちという設定。
 撮影にはいくつものアイディア出しがなされ、台詞のテンポを監督が細かく指示。鮫島店長を撮影するエリカたちとのタイミングなどひとつひとつきっちりと決めていく。
 書店の奥ではみどり(藤井武美)が初めて使う撮影の合図を出す道具(カチンコ)の使い方を助監督からレクチャー中。

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 このカチンコという道具、撮影開始の時にカチン!と鳴らすものだが、日本では鳴らした後に指を挟み、外国では挟まないなど、使い方にも違いがあるのだと聞いて、みどりは感心することしきり(他にも照明の照度を調整するレフ板の使い方もスタッフから教えられていた)。
 鮫島店長が煙草に火を点ける時は火が見えるようにとか、一連の動きが段取り芝居にならないようにと監督からは指示が出される。
 スマートな中にも少し惚けた感じを出したいのだという。
 そんな撮影のエキストラには小さな子供たちもいたのだが、鮫島店長の動きに全てキョトンとした様子でノーリアクション。
 子供たちにしてみれば理由も分からずに親たちに撮影現場に連れて来られたのだろうから仕方のないことかもしれない。改めて子供と動物は撮影に使うのは大変だと思ってしまう。
 それでも撮影が終わると子供たちは「バイバ~イ」と、とっとこ3人娘たち(多香子・みどり・エリカらに撮影初日、監督が「ハムスターみたいなリアクションとってみて」とアドバイス。その時の彼女たちの様子を人気アニメのキャラクターたちになぞらえてそう呼ぶように。この頃はその呼び方がすっかり定着しているのだ)に手を振って帰って行く。特にみどりは子供たちと打ち解けていたようだ。
 店長を演じた奈佐健臣はこの日で撮影シーンが終了。

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 1日のそれも数時間だけの撮影で撮了というのも、何か不思議な感じだ(前日に撮影した仲代奈緒さんも1日で撮影終了となったが、出演者が多い映画ではサブ・キャラクターたちはどんどん自分の出演シーンを撮影しては現場を後にしていく/だが、太田映画では登場人物たちみんなが映画の中では主人公なので、誰の印象が薄いというようなことはないのだ)。
 最後に書店に走って入って来る多香子たちのシーン撮影。
 書店の前の道路を挟んでの撮影のために、うまく車の往来をずらしながら撮影されていく。ここでは車の規制もほとんどすることなく2テイクで撮影は終了した。
 そして次は書店から少し離れた場所でシーン25、57、109内の撮影に移る。


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 ここでは美術スタッフがすでに店仕舞いをしている店舗を利用して1983年当時のカメラ屋に見せるように飾りこんである。
 一見すると普通に今も地方の町で営業しているカメラ屋に見えるのだから素晴らしい(聞くと美術スタッフは撮影前に3回来て外観から作り込んだのだそうだ)。この頃、午後3時半を過ぎたあたりからポツポツと雨が落ち始めてくる。
 カメラ屋の沖店長役は牧口元美(「マークスの山」「となり町戦争」など多数出演)。
 そこに多香子たちが8ミリフィルムのことで相談に来るシーンだ。
 カメラ屋の中での撮影のため、店内は狭く撮影スタッフ以外は入って撮影の様子を見ることが少々困難。なので、僕は外から撮影の様子に聞き耳をたてることに。
 中では8ミリキャメラによって使うフィルムが違うことの説明などを沖店長が多香子たちにするシーンが撮影されている。当時の8ミリフィルムのことなどを知らない若い人たちも、このシーンで大体は分かるようになっているのだ。
 「渡されたフィルムは見て確認するように」と監督からの指示が聞こえる。フィルムの扱い方も教えていた。
 途中で監督がキャメラを入れるバッグが欲しい、と提案。それを聞いてスタッフがしばらくしてから見つけて来た。
 それを監督は「まるで『大脱走』のチャールズ・ブロンソンのようになんでも調達してくるスタッフだ」と舌を巻いていた。
 こうしたスタッフたちの臨機応変さは映画撮影の現場には絶対に必要なもの。
 現場では「できません」「ありません」は本当に最後に最後の最終手段でしかないのだ。
 一連のカメラ屋のシーン撮影終了後、ここでも沖店長のダンス・シーンが撮影される。
  午後6時40分過ぎ。本日の撮影は終了。
 後片付けをしたり、メイキング撮影をしたりして、宿泊所に戻ったのは夜9時近く(なにしろ町中から宿泊所に戻るまでに小一時間かかるのだ)。

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 それから食事、風呂、翌日の準備。
 監督は食事をする場所の一角を陣取り、作業をしている。
 美術部も別室で作り物をしていた。
 1日の撮影が終わったといってものんびりとしているわけにはいかないのだ。
 翌朝は少しゆっくりめで、朝9時からのスタートとアナウンス(といってもそれは撮影現場でキャメラが回りだす目安の時間であり、スタッフらはそれよりも早い時間から色々と撮影準備のために現場に入って作業をしているのだ)。
 なので、僕も少しだけこの撮影ルポをタイピングする。
 夜11時過ぎ。スタッフボードに書かれていることを確認して、僕も自室に引き上げることに。
 その時刻でもまだ、太田監督はPCモニターを見ながら作業を続けていたのだった。(つづく)

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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その6 [撮影ルポ]

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 雨も上がり、初の外ロケに出発! by 映画文筆家 永田よしのり

 撮影初日から2日間雨が降り続きだった天候もようやくこの日は一段落。朝から青空が見える空となった。
 撮影3日目。この日は朝7時半から撮影開始。
 宿泊所の隣にある講堂(体育館)を使用しての撮影。
 文化祭で多香子たちが体育館を下見に来るシーン69だ。
 板張りの体育館に朝7時15分ほどに入ってみると、床にはすでにスタッフたちによってロールシート(学校の講堂で催しが行われる時、イスを並べる時に板張りの床が傷つかないように敷かれるあれである)が敷かれ、約100脚ほどのパイプ椅子が並べられている。スタッフたちは何時からこの作業をしていたのだろうか。現場での準備・用意はその都度変化するし、時間の余裕のありなしなど様々。そうしたスタッフの動きがなければ映画が出来ていかないということは知っておきたいことのひとつだと思う。
 監督、スタッフらは若い3人の導線を現場の中でチェック。それを受けて具体的に動きが確かめられていく。多香子、エリカ、みどりらは監督の指示に従って自分たちの動きと台詞を確認。広い場所を歩きながらの台詞まわしなので、歩く速度や台詞のタイミング~どこまで動いた時に台詞を言うか~どこで椅子に座るか、などが確認されていく。

 本番ではこれらのシーンは一連の流れの中では撮影されるため、正、逆のパターンで撮影することになる。
 またこの日は朝から晴れて太陽の光が差し込んでくるために、光の調整も必要になってくる(曇天の日の方が撮影自体には光の強弱が現れづらく都合が良いこともある)。
 照明部は刻々と変化していく光量をタイミングを計りながらライトの光量を調節している。
 劇中の季節は初秋ではあるが、外からは鴬の鳴き声も時たま聞こえてくる。録音ではそうした外部の音は処理されていくことになろう。
 若い3人が椅子に座る位置にも監督のこだわりがあるようで、座る順番と場所を何度もやり直していた。それはなぜかというとこの場面がまるで3人の卒業式のように見せようという意図があったようだ(文化祭は卒業式にはならないことは分かっていたが、結果的にそうなっていくのがこの後に少しづつ分かってくる。この時はまだ僕には分からなかったが、監督の中のイメージは、3人の関係性の変化なども含めてここでしっかりとつながっていたのだろう)。
 シーン自体はそれほど変化に富んだ撮影を望む場面ではなかったため、時間的には比較的早く進んだように思う。

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 体育館での撮影が終了した後は町へと移動。
 シーン34から。
 ここでは金谷町の裏通りを学校からの下校というシーン。
 あらかじめ協力をお願いしてあった場所に車を駐車し、水路がある裏通りにスタッフらは移動。ロケ場所の裏通りはそれほど古いという感覚ではなく、まさに30年ほど前の雰囲気を残している。
 こうした場所をロケハン(ロケーション・ハンティング=撮影する場所を見つけること)で見つける能力は、いつもながらただただ感心してしまう。
 こうした実際に人が住んでいる、息づいている場所で撮影することによって生み出される画面の様子(空気感)というものが必ずあるのだ。
 撮影3日目にして初の外ロケ。昨日までの雨とは変わって陽差しがけっこう強い。監督は撮影を見学している周囲の家の方々に声をかけられ、挨拶をしながら裏通りを進んで行く。
 進みながら細かい動き(歩き方の早さ、並び方など)をチェック。街路には映画館・かもめ座の立て看板もセッティング。看板に貼るポスターも制約があるために確認。最終的に「戦場のメリークリスマス」と「大いなる西部」に決まる。映画ではどこに看板があるかをぜひチェックを。
 裏通りを歩いていく多香子とみどり。監督からはみどりに「もう少し台詞を大きな声で」と何度かチェックが入っていた。
  
 下校シーンの撮影を終えると、次は近くにある実際の営業している書店を利用してシーン11、43、55の撮影。

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 ここでは若い3人以外で初めて他の俳優が入っての撮影となる。書店の鮫島店長を務める奈佐健臣がここで合流。彼は太田監督の「ストロベリーフィールズ」にも印象的な役で出演している。
 書店内部で撮影に使われる場所の書棚には、もちろん30年前の雑誌などが並べられることに。

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 キャメラフレームに映り込む場所には絶対に現代(撮影時・2014年現在)の雑誌などが映り込むわけにはいかない。
 その範囲もどこからどこまで、とフレームを確認しながら決めていく。
 1983年当時の映画雑誌などが懐かしい。
 そこで鮫島店長と多香子、みどりとの一連のやりとりが撮影されるのだ。
 段取りや芝居の間のチェック。楽しげに立ち読みをする2人とそれを阻止する鮫島店長の怒ったような顔とのギャップに温度差が見えて楽しく感じる場面だ。そこにある台詞には大人たちと高校生との考え方のギャップもしっかりと現れているのだ。
 セッティングされたキャメラは3台。

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 一連の動きの中での俯瞰でのカットに見せ方のこだわりが感じられる。
 この頃から監督は若い3人娘たちを常に「とっとこ」と呼び始めている(その始まりは撮影初日の夜の場面ですでに登場しているので覚えてらっしゃる方も多いことだろう)。
 「とっとこ」とは、あの人気動物アニメ「とっとこハム太郎」のこと。3人でちょこちょこ動き回っていることがそう感じたのだろうか。
 そう呼ばれることを楽しんでいるのか、3人娘たちはそのアニメの主題歌まで唄い出す始末。こうしたちょっとしたことも撮影現場を和ますひとつになっていく。
 立ち読みしている雑誌を鮫島店長が取り上げるタイミングを何パターンかテスト、シーンでのカット変わりも3パターンほど撮影する。
 その後は別シーンで鮫島店長に多香子たちがあることを依頼するシーンの撮影、流れを確認しながら台詞も微調整していく。

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 ここでは動きに意味を持たせる芝居を監督が要求していた。
 そして鮫島店長だけのダンス・シーンが撮影される。
 このダンス・シーンは出演者それぞれにあり(前日も仲代奈緒さん演じる尚子先生が収録しているもの)、実は映画のクライマックスの中で挿入されるシーンなのだ(それがどんな場面なのかは、もう少し先のこのルポで紹介することになるだろう)。
 3人娘らとのやりとりを終えた後はそのダンス・シーンのために書店店長は細見の真っ赤なスーツに衣裳替え。その格好を見て3人娘たちは思わずテレビ・アニメ「ルパンⅢ世」のオープニング主題曲を口ずさみ始める。そこに店長から「ルパンじゃないぞ~」とツッコミが返されていた。
 傍から見ているとこの撮影現場をそこここで和ましているのはやはり若い3人娘たちなのだ。
 古い言い方かもしれないが「箸が転んでも笑う」という、若い娘たちを言い表す言葉がある。まさに若さゆえの元気さ、明るさが彼女たちの中にはある(撮影中の緊張感から解放されている待機時間などを見ていると、仲良しの3人組が遊んでいるようにしか見えないもの)。それがある意味、撮影現場の緊張感を解すことに一役買っているのかもしれない。 
 鮫島店長のダンス・シーンまでで午前中の撮影は終了。
 昼食にはエキストラの方からの差し入れでたこやきも。
 小1時間の昼食休憩もほどほどに、監督は数人のスタッフらと共に、午後からの撮影に備えて撮影現場に戻って行くのだった。
 そして我々メイキング班や他のスタッフも次々に現場に戻る。
 1時間予定されている休憩時間をそのまま休んでいるスタッフなど一人もいない。
 みんな次の撮影シーンのことで頭が一杯なのだ。

(つづく)


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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その5 [撮影ルポ]

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出演場面はないのに藤田朋子さんが撮影現場を訪問!

 4月21日の午後になっても雨は止まず、昼休憩の後、島田市内の旧家をお借りしてのロケに出発。
 ロケ現場となる旧家に到着する頃には、雨はさらに強くなり、傘が手放せない状態に。
 明治天皇が宿泊したという宿がすぐ隣にある現場では、スタッフたちに新しい靴下が配られ、それに履き替えてから室内に上がることに。僕も初めての経験だ。
 ここはエリカの実家という設定で、広い室内の一室を借りての撮影となる。
 午前中の部室撮影とはうって変わっての広さのため、撮影自体は午前中よりも移動などが楽そうだ。
 シーン・32~33~34を主にここでは撮影することに。

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 8ミリビデオの扱い方などをエリカが多香子とみどりにレクチャーする場面から撮影。
 小道具としては1983年当時にも使われていたシングル8という、8ミリフィルム・キャメラが登場する。他にもテープ編集に使うサウンドスプライサー(シングルとスーパー8が兼用のもの)、ロールテープスプライサー(これは当時の富士フィルムのスプライシングテープを使用する)/スプライサーとは撮影した8ミリフィルムを切って張り合わせる時に使用する/編集用の機材)などが使用される。

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 劇中で使用されるビデオ・デッキも今ではめったに見ることのないベータ・ビデオ・デッキ(今はDVDやブルーレイのHDDが主流だが、20世紀まではVHSビデオ・デッキが主流。ビデオ・デッキが発売された頃はVHSとベータという2種類のビデオ・デッキがあり、映像にこだわる人はベータ・ビデオ・デッキを使うという傾向があったのだ。なので、当然映画に詳しいエリカの家にはベータ・ビデオ・デッキがあるというわけ/しかし、今の10代の若者たちはビデオ・デッキも知らない人たちもいるのだろうなあ)、触ったことのない3人娘は使い方をレクチャーされている。
 そんな中、午後3時を過ぎた頃に主人公の一人でもあり、後の大人になったエリカを演じる藤田朋子さんが撮影現場に到着する。
 実際この日の撮影には直接藤田さんの登場シーンはないのだが、自分たちの若い頃を演じている3人娘の芝居を観にやって来たのだ。
 それは彼女たちの(特にエリカ)芝居を観て、後の自分の芝居に反映させるためなのだという。
 普通、ほとんど初めての映画出演のような若い娘たちの芝居をベテラン女優がわざわざ現場に観に来ることはない。
 そうした姿勢を知るだけでも藤田朋子という女優の仕事に対する熱意や姿勢が現れてくるというもの。
 藤田さんは撮影前の3人娘たちと挨拶を交わし、おみやげを手渡している。その反応がまったくの素なので、見ているこちら側も微笑ましく思ってしまう(高校生のエリカ役・百川晴香は藤田さんにもらったアクセサリーをその後ずっと身に付けていたようだ)。
 そして撮影が開始。まずは雨の中、高校生の多香子とみどりがエリカを訪ねて来るシーンから。
 屋敷前の車道にキャメラを据えての撮影。雨なので車止めなどもせずにどんどん撮影を進めていく。
 だが車道に雨が撥ねる音が響くために少々音録りには気を使う。
 そのシーンが終わると、続けて時間軸はずれて、文化祭の後に失意の多香子がみどりの家を一人で訪ねるシーンへと移行。
 映画の撮影現場では時間軸がずれても同じ場所が登場してくる場合は、続けてシーン撮影をしてしまうことはよくあることだ。
 そこで役者たちは自分の感情をコントロールしながら、別シーンを撮影することになるのだ。
 特に登場人物が多くなってくると、同じ場所での違うシーンの撮影が増えることもある。
 そんな時は監督が役者たちにその場面の心情演出を的確に行う必要があるのだ。
 玄関先の撮影が終わると次は室内での撮影。
 エリカだけは自宅ということで私服での撮影となる(多香子とみどりは下校中なので制服なのだ)。庭などの風景もこの時一緒に押さえておく。
 さて、エリカの台詞の中に「IT′S SHOW TIME!」と言う口癖がよく出てくるが、この言い方もバリエーションを監督が指示。それに合わせるように英語の堪能な藤田さんもエリカに英語のニュアンスをアドバイス。
 8ミリフィルムの撮影を廊下で練習するエリカ(エリカ単独の芝居シーンの時は他の2人は別室で待機)、スタッフは彼女が廊下を移動していくのを追うようにケーブルをたぐり、後ろ向きに移動したりしながら撮影を続ける。バックに進む場合はそのスタッフの背中を別のスタッフが触って進行方向や進む早さを確保している。

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 エリカが独りでの芝居シーンでは、彼女の本質が見え隠れするシーンがある。そこには劇中でのエリカが、なぜ映画を独りで観ることを好むようになったのか? などのヒントが隠されている。
 そうしたシーンを見て藤田さんはエリカの過去の心情を理解し、落涙していた。こうした心情心理を理解する能力というものは、ただ現場にのほほんといるだけの人では発揮することはできない。
 自分の撮影シーンがないにも拘わらず藤田さんが、現場に足を運ぶ理由はこうした心情理解にも大きく関係しているのだろう。
 藤田さんを見ていると若い3人の芝居を様々な角度から見ており、その都度、彼女たちの表情や台詞の言い回し、動きや癖などを自分の中にインプットして感情の動きを把握しようとしているように見える。
 この時点からもう藤田さんたち大人のエリカたちがどんな芝居を今後見せてくれるのかに期待が高まってしまう。




 その後もろもろのシーンを撮影。ビデオデッキを扱うシーン(ちょっと面白い画角が見られるので本編でご注目を)では、トレーシングペーパーを使い光量を調節したり(監督からは初めて見るベータビデオが動くことに感動してみせようと注文)、廊下の外から漏れてくる雨音を台詞の時に同調せずに台詞だけを録音したり、現場ならではの作業が見ることが出来る。
 シーン33ではお茶うけが出てきて(劇中で食事をするシーンなどに使われる飲食物/俗に消え物と呼ばれる)、本気で甘味を楽しむ若い3人娘たちを見ていると、そのある意味実に堂々とした姿に感心さえしてしまった。
 時間は夜7時半過ぎ。
 8ミリビデオの編集の仕方をスタッフに教わり、それらを扱うシーンを撮影してこの日の撮影は終了。
 撮影初日から2日続けての雨模様となったが、幸いにもほとんどが室内での撮影。特に雨のために進行が遅れるようなことはなかった。
 藤田さんは都合4時間半ほどの撮影見学のために、この日は現場にやって来て、撮影が終わると帰京して行った。藤田さん自身の本編撮影は5月5日まではないのだ。
 果たして実際の撮影ではどんな姿を見せてくれるのだろうか(当日になって更なるサプライズが待っていたのだが)。
 宿舎に戻ったのは夜の9時過ぎ。
 翌日は朝7時半開始のアナウンス。
 まだまだたったの2日が終わったばかり。

(つづく)



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「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場・ルポ/4 ~連日の雨、でも撮影現場には熱気が充満!~ [撮影ルポ]

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ルポ/4 ~連日の雨、でも撮影現場には熱気が充満!~
by 永田よしのり(映画文筆家)

 4月21日、今日も朝から雨模様の天気予報。
 昨日はまだ撮影初日ということもあり、身体も心も緊張感があるのか、1日中張り詰めた気持ちのままで過ごしたのだが、一晩スタッフらと一緒に眠ると「いよいよ始まったのだなあ」という気持ちが新たになってくる。
 そんな日、本日は宿舎近くの今では廃校となって使われていない中学校を借りてのロケとなる。
 現場は宿舎から歩いても行ける距離なので、機材運搬車以外は傘をさして現場へと歩いて向かうスタッフも。
 現場には雨避けの場所もあるものの、機材が濡れては一大事。雨中スタッフは急いで機材を搬入。自分が濡れないことよりも機材が濡れないことの方が大事なのだ。

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 ここでは備品倉庫となっていた部屋を高校の部室として使用。実は長いこと使われていない場所だったので、撮影前の掃除などが急務だった。そこを太田監督作品を応援していた市民応援団らが前乗りして部屋を掃除、撮影に対処できるように片付けをしていたのだ。そうした手伝いに来て来れる私設応援団がいる、というのは太田映画にとって非常に心強いもののひとつだろう。
 映画撮影ではスタジオにセットを建て込み、その現場に行かずに撮影することも多いが、太田映画の場合は現場の空気感を非常に大事にするために、撮影のためにロケハン(ロケーション・ハンティングの略/撮影をする場所を事前にリサーチすること/撮影のイメージに合う場所を探すために何カ月もかかることも)を入念に行う。それは作り物のセットよりも、実際にその場所で息づいているもの、場所を使うことで、より現実感と近親感を(俳優たちの演技にも多分に影響が出ることだろう)生むことにもなる。つまり、そこに存在する〃リアル〃が映画の画面にも表出してくることになるのだ。
 まずはシーン30~31。
 部室を使っての撮影。入れ込みと段取りの打ち合わせから始まる。それと平行して美術スタッフは室内の飾り付けを行っていく。
 1983年当時の映画のポスター(エリカの趣味なのか、「雨に唄えば」や「ウエストサイド物語」などのポスターが貼られていく)雑誌、小物(当時のラジカセ、パンフレット=監督の私物もあるようだ)などを配置。小一時間ほどが費やされ撮影準備が完了。役者たちがやって来て監督らと打ち合わせ。
 多香子とみどりが初めて部室を訪れる場面の撮影が開始される。
 部室前の廊下には機材搬入口があり、そこをスタッフが忙しく出入りする。外は雨とはいえ、こうした場所があるため機材搬入の際に機材が濡れることはないようだ。
 しかしながらそこはコンクリート造りの建物。雨だと底冷えがしてくる。だが、撮影のための照明が点くとその熱量で気温も上がってきて(映画撮影で使う照明機材から発せられる熱は、普段我々が生活に使用している照明器具とは別物で想像以上のものがあるのだ)少し過ごし易くなるのが救いかも。
 照明機材の明かりだけでは肉眼で室内を見るとやや暗く見えたりもするのだが、最近のデジタル撮影機材だと光量が少なくてもしっかりと撮影できる。これらのセッティングが出来てから午前8時40分には撮影が開始された。

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 監督は昨夜からずっと喉の調子が悪く、喉飴が手放せないようだ。夏服のセーラー服だけでは寒いので、待機中は常にウォールコートを着て過ごす芳根、藤井、百川のとっとこ3人娘。
 まずは部室前で通しの芝居。監督は台詞と動きの間にメリハリをつけてと注意し、歩く速度、動きなどの段取りも決めていく。
 カット割りの確認後、部室に入る多香子とみどり、そこで初めてエリカと対面する場面だ。
 二人を撮影するカメラの下側に陣取る監督。撮影場所のポジション取りの都合で、多香子たちが入口のドアーを開けて部室に入るといった一連の動きが一発で撮れないため、部室に入って来る多香子たちの様子、入って来た後の様子という流れで撮影。「入口の雰囲気を見せたいのでフレーム・インしようか」と監督。こうした撮影はモンタージュと(一連の動きを何回かに分けて撮影し、編集で全てが一連で撮影されているように見せる)呼ばれるもので、実際に映画の場面ではドアーを開けて2人が部室に入って来る動きがスムーズに流れていくように編集されているはず。
 多香子は自分がノックするドアーの音を気にしており、違う場所を何回か叩いてノックの音を確認している(本人に聞くと自分のイメージする「コンコン」という音に一番近い位置を探していたのだそうだ)。
 このあたりのカットはほぼ本番1回でOKとなる。
 それはここまでの芝居の流れや感情の流れなどを監督が若い役者たちにしっかりと説明、それを若い役者たちが理解しているゆえのこと。
 部室内部はほぼ4畳ほどの空間。そこに撮影、音声スタッフと監督、役者たちが入るので、かなり移動に制限が。それでも実際の映画画面を観ればそのようには感じないだろう。それは映像のマジック(撮影の仕方による)。
 監督はエリカの動きと台詞に細かく指示を出す。それは映画では初めてエリカが登場する場面なので、ファーストカットのエリカ登場を印象づけるためのもの。
 その間に別の待機場所では多香子とみどりはいつも何かをして遊んでいる(彼女たちなりのリラックス方法なのだろう/時にテレビのハーフタレントの物まねをしたりしていた)。
 休憩時間に外に出ると雨でもウグイスが鳴いていた。寒いので携帯カイロをいただく(非常に助かる!)。
 その後シーン・34での劇中での打ち合わせのシーンを続けて撮影。
 監督からは内容をどうしていくか、ちゃんと映画の内容を知っている感覚で脚本の打ち合わせを3人でするようにと指示が入る。
 部室の机上にはたくさんの映画雑誌や劇場パンフレットが開かれている。そこで3人が色々と意見を出し合っていくのだ。
 やはり8ミリ機材など、当時のことを本当には知らない世代なので、いかに当時の空気感を出せるかがポイントとなる(エリカは映画に詳しくなくてはならないために演出の指導は細かくなる)。
 監督はそこを重点的に演技指導。またそれがしっかりと3人の若い役者たちに伝わっているから、多くのカットテイクを重ねることなくOKとなるのだろう(そして時間の経過を表すために照明の角度や照度も変化させていくのだ)。

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 狭い部室の中ではカメラの切り返し(同じシーンを別の角度から再度撮影すること)などが大変。結果、カメラの後ろ側にはたくさんのスタッフが鮨詰め状態となる。
 現場を整える時間は役者たちは休憩時間となる。
 その時間の間は監督と次のシーンの打ち合わせをしたり、お茶を飲んだり。打ち合わせがない時はそれぞれに携帯電話を操作したりしている(今どきの若い娘たちなのだ)。
 監督も自身のブログやツイッター、フェイスブックに映画の情報を発信している。今はこうした情報ツールがある意味必要不可欠なものとなっている。
 かなり強くなってきている雨の中、山間も霞んでくる。そんな悪天候の中、撮影現場のグラウンドには野性のタヌキが出没。いつもは静かな場所がにぎやかなので、ロケを観に来たのだろうか。  
 そんな中、本日の昼食は歩いて戻れる宿舎にてカレーという情報が。多香子は「今日のお昼のカレーを楽しみに雨の中撮影している感じです」と笑顔。


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 シーン・73、79などの物語後半で登場するシーンなどを撮影して昼食に。
 野菜など具だくさんのカレーが冷えた身体を暖めてくれ、午後からは市内へと移動、旧家を借りての撮影となっていく。

(つづく)


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「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポその3 とっとこ3人娘、撮影現場で誕生! [撮影ルポ]

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「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ
その3/とっとこ3人娘、撮影現場で誕生!

 by 永田よしのり(映画文筆家)


 昼食休憩を挟んで午後の撮影がスタート。
 シナリオ・シーン27、多香子(芳根京子・これまでテレビドラマ「リーガル・ハイ」スペシャルや「ハクバノ王子様 純愛適齢期」「花子とアン)などに出演している)と、みどり(藤井武美・「桐島、部活やめるってよ」「悪の経典」などに出演している)が文化祭であることをクラスですることを提案するシーン。
 午前中の練習(?)が功を奏しているからか、一連の動きを確認してからの本番までの流れも午前中よりもスムーズに感じられる。
 もちろん、キャメラの位置確認も(切り返しなど/同じシーンを違う角度や逆方向から撮影すること)繰り返され、その度にキャメラと照明機材は移動。様々なポジションでセッテイングされていく。僕はキャメラの写らない位置を探して撮影の様子をチェック(教室内部ではガラスに写り込むこともあるので、キャメラに注意されない限りは大丈夫なのだ)、手描きでメモをしていく。それがこのルポの基本になるのだ。
 撮影はキャメラ、照明の距離を測り、監督の欲しい構図で画面に切り取っていく。その画面構成自体が太田監督映画の特徴のひとつと言っていいだろう。


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 生徒たちの座り位置も微調整され、教室内部の席を配置。そんな撮影中にも直接撮影現場にいないスタッフたちが多数いる。
 美術の作り物をしていたり、車を回して急遽宿舎から必要になった小道具や荷物を運搬していたり。撮影している場所だけが映画の現場ではないことを知ることが出来る。
 そんな撮影の中で、時々多香子役の芳根京子は、自分の台詞がうまく言えないことで感情を露にする場面も。
 どこがツボに入ったのか、台詞を言いながらどうしても笑ってしまう場面もある。一度笑いだすとなかなか止まらないようだ。一体どこが彼女のツボにハマッたのだろうか?
 そしてシーン50では多香子たちが文化祭での協力を他の生徒たちに頼むシーン。
 ここでは多香子たちに協力しないで帰る生徒たちが、当時流行っていたギャグを言いながら帰ってしまう場面があるのだが、市民俳優の生徒は当然当時のギャグを知らないために、助監督がそのギャグのポーズや言い回しなどをレクチャーすることになる。
 それでもなかなか製作サイドの狙ったカタチが出来ないために、短いやりとりのシーンでも何度もテイクを重ねてしまうことに。これがプロの俳優ならば自分の知らないことでも予習復習をしてくるのだろうが、そこは市民俳優の子供(見る気になれば今の時代ネットでそのギャグないくらでも見ることができるはずなのだ)には無理な要求なのだろうか。
 一連の動きで生徒たちは教室の外で出て行くのだが、どうしても教室の外に出た時点で廊下にたむろしてしまう。普通はそんなことはなくそれぞれが帰宅するはずなのだが、まだシーンの意味を理解するところまでいっていないからか、自分で考えて演技の動きをしていないからか、助監督がシーンの説明や動きを細くして説明しなくてはならない。
 だが芝居のタイミング自体はよくなってきているのは、説明されたことは理解してきていることの証明だろう。


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 次にシーン・72、文化祭である事件が起きるくだりの撮影。
 そこでは尚子先生の心情を表す芝居が入ってくる。
 最初、生徒たちと仲代の芝居の流れのバランスが今ひとつだったが(やはりどうしてもプロの役者とのからみが入ると市民俳優とのバランスにぎこちなさが残ってしまうもの)、何度か繰り返してテストを行ううちにこなれていく。
 そんな芝居の中で役者につけたピンマイクにノイズが入ることが判明。ピンマイクからムーブマイクに変更してキャメラに入らない位置を探して音(台詞)を拾うことに。
 さらに文化祭用のチラシのアップ撮影(俗に言う物撮り)をしてシーン・72は終了。
 今日は撮影初日であり、午前中の撮影に時間をかけたために少々押し気味(予定よりも時間が遅くなること)になっている。予定されているシナリオのページ数を撮影し終えることが出来るのか少し心配になる。しかしながら、生徒役の子供たちにていねいに芝居をつけたことで慣れてきた様子は感じられるので、明日以降は撮影がスピードアップする可能性も。
 ここまでで感じるのは、子供たちの芝居に対する姿勢や心構えが個人によってかなり違うということ。モチベーションも実に様々に感じられる。一言で表現するなら芝居のうまい子、下手な子、予習している子、していない子、一発勝負の撮影本番になるとそれがそれぞれの子供たちに如実に現れて見えてしまうことだ。
 もちろん、芝居に慣れていないこともあるのだが、キャメラの前に立つことの意味を分かっている子といない子ではそこに明らかに温度差が見えてしまうのだ。
 そこを太田監督はもちろん分かっていて市民俳優としてここに出演する生徒役を選出したわけだが、初日の数時間の撮影ではまだまだそれぞれに差が出てしまうのは、多分に心構えの差なのだろう。
 そうして教室内部での本日の撮影は終了。生徒たちだけの集合写真などを撮影して生徒たちは解散。残った別キャストたちの芝居はまた別日での撮影となる。
 
 撮影初日は朝からずっと雨模様。
 教室内部での撮影が主なために天候はさほど影響がないが、夕方以降になると照明を窓の外から室内に向けてセッティングしなければならなくなる。
 シーン・37ではそんな雨模様の合間を縫って、多香子、みどりと尚子先生がベランダで会話するシーンを撮影。場所が狭いのでスタッフはキャメラ含めて7~8人ほどで撮影。夕方くらいからけっこう肌寒く感じる天気なので、半袖セーラー服の多香子たちはけっこう寒いのではないだろうか。なので、撮影の合間ではスタッフが防寒具を羽織らせる。
 ベランダという限定された空間の中で、風景も含めてより効果的な構図を探して指示を出す監督。雨模様の中でどんな仕上がりになっているのか。ここではなぜか〃ピーッ!〃というノイズが入り4回ほどNGが続く一幕も。外の自然音も一緒に収録しているので、車が動く音やバイクの通る音などでもNGになってしまう。
 なかなかうまくタイミングが合わずに、短いシーンではあるが、そこそこに時間がかかってしまった。外ロケとはこういうもの。大規模な撮影などではスタッフが車止めをしたりして、撮影をするのだし(それは以降の撮影で展開されることに)。自然音は仕方のないことかもしれない。
 

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 そしてシーン・41職員室での撮影。実際の職員室を利用しての撮影。照明部は外に出て職員室内部に向けて照明をセッテイングし、光量を調整する。
 雨中なので、照明機材にも雨避けをかけていく。照明の熱で雨粒が蒸発していく様子が見てとれる。
 職員室内部では陰影をあまりつけずに昼間の様子を再現するために四方から照明を当てるようにセッティング(夕方6時を過ぎているため外はかなり暗くなってきている)。
 ここでは尚子先生と多香子、みどり、エリカ(百川春香・青春!トロピカル丸でアイドルタレントとして活動中)との文化祭での活動に関して学年主任の許可を受けるシーンなどをまず撮影。そして市民俳優の方々も他の職員室内にいる教師役で数人が配置。
 監督はそれぞれの役者に立ち位置を確認し、台詞の抑揚などを指示。役者たちは撮影にだいぶん慣れてきたからか、合間合間でずいぶん笑顔や口数が増えてきたように感じられる。多香子やみどり、エリカなどは撮影の合間では本当に普通の女子高生に見えてしまう。いつでも明るく笑い、冗談を言い合い、すでに親しくなったスタッフとも楽しそうに会話をしている。
 そんな中でも照明の照度合わせが細かく設定されていく。
 監督からは尚子先生からのアクションに対して3人娘たちに「ハムスターっぽく喜んでみて!」と指示。
 ハムスターっぽくってどんなリアクションなのだろう?(この後から監督は映画の中の3人の高校生トリオたちを『とっとこ~』と呼ぶようになる。それはかつて東宝の『ゴジラ』映画と同時上映されていた、ハムスターを主人公にした子供向け人気アニメーションを、彼女たちの現場での明るい姿から想起させたからに他ならないだろう/この後「とっとこ3人娘」は、監督が撮影現場で彼女たちを呼ぶ時の呼び名に定着することに!) 
 そんな撮影が続き、本日のラストカットは尚子先生の一人での職員室内でのダンス・シーン。
 これは各出演者それぞれに用意されているダンス・シーン。映画の中でどのように使われるのか。それは映画を観てのお楽しみということに。そうして仲代奈緒の出演シーンは初日に集約されて全て終了。撮影クランク・インの日にクランク・アップという離れ業(?)を演じてしまったことに。
 全ての撮影が終了したのは午後7時過ぎ。
 これから機材の片付けをし、宿舎に1時間ほどかけて戻っての食事。明日も天気予報では雨模様とのこと。翌日も室内での撮影がほとんどなので撮影自体は問題ないのだが、初日、2日目と雨なのはちょっと気分的に晴れ晴れしくない。
 しかしながら、1日目を終えて役者陣もスタッフも動きに淀みなく、特に問題となることはなかった(それでも映画撮影の現場では本当に細かいアクシデントは毎日のように起こるもの。それをいかにこなしていくか、も撮影現場のライヴ感のひとつとして捉えたいもの)。
 宿舎に戻って食事に風呂。
 僕などはメイキング班と共に早々に休んでしまったが、美術部などのスタッフの作業部屋は夜中まで煌々と電気が点いていたようだ。明日からもそれぞれの戦いは続く。まだ本当に始まったばかりなのだ。

(つづく)


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