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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ その20 [撮影ルポ]

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~多香子と両親の再会場面は必見!~

by 永田よしのり(映画文筆家)

 島田の河川敷撮影を終えた後は、そこから車で十数分の家山地区へと移動。
 ここでは大人・多香子(常盤貴子)が帰郷して、当時の思い出の場所(レンタルレコード屋、鯛焼きの桜屋、家山駅)などを巡って歩くシーンが撮影されていく。
 レンタルレコード屋も鯛焼きの桜屋も現在では閉店しており、その閉店した様子を大人の多香子が外から寂しげに見る、という場面だ。
 これも台詞のある芝居ではないので、それほど入念なテストは繰り返されずにどんどん撮影が進められていく。
 時間もすでに昼過ぎ。撮影を見物にやって来る人たちの数も多くなってくる。
 もちろん、撮影を中断させるようなことのないように、スタッフたちが見物客に、その場所にいることに対する注意などは撮影事前に声をかけていく。
 そんな撮影の合間には常盤も、見物客の人たちと気さくに会話を交わしている。現地でのお茶情報などを仕入れたり、差し入れの鯛焼きを食べたりと、リラックスして撮影と、撮影以外の現地の人たちとの交流も楽しんでいるように見える。
 
 レンタルレコード屋と鯛焼き屋・桜屋での撮影を終えると、歩いて数分の家山駅へと移動。
 ここでの撮影は午後3時半までという制限があるために、時間内で予定している撮影を終えなければならない。




 まずは高校生・多香子(芳根京子)とみどり(藤井武美)の下校場面。数人の市民俳優の方々と一緒に、駅に入って来る電車とのタイミングを合わせて、その電車から降りて来たようにうまくシーンを繋げて撮影していく。
 監督は市民俳優たちに「(映画を観る観客に)夏を意識させたいので、汗をふいたり、扇子を使ったりしながら歩いてください」とお願いをしていた。
 その後は大人・多香子(常盤貴子)が、帰郷して来るシーンを同じ場所で撮影。
 時間軸だけが違うという場面を、同じ場所で撮影することで、映画を観ている観客は、ストーリーの中の時間経過を知り、かつ登場人物たちの時間経過ともリンクすることが出来るように、映像は紡がれていっているのだ。
 そんな撮影も無事に時間内で終了。
 この後は車で1時間ほど移動して、山間部の伊久美地区へ。これまでの町なかでの移動しつつの撮影とは一変、ここではひとつの場所でじっくり、多香子の実家での撮影となる。




 実家に帰宅する大人・多香子(常盤)が、父親(並樹史朗)、母親(烏丸せつ子)と久しぶりに対面するシーンが撮影される。
 それを数日前にお借りした民家で再び撮影するのだ。
 伊久美地区のロケ現場に到着したのは午後3時40分過ぎ。陽が暮れるまでの数時間を、まずは多香子が自宅まで歩いて帰る道すがらの様子の撮影から始めていく。
 この周りは、上空を頻繁に航空機が飛び交う。なぜか、を地元の人に聞いてみると「空港への通り道になっているから、国際線がけっこう飛ぶ。そのためこの周りは〃飛行機銀座〃と呼ばれている」というのだそうだ。
 外ロケの場合は以前にも書いたが、周囲の音というのはけっこう影響する。なので、飛行機が飛び去ったらそのタイミングを見計らってすぐに撮影、という状態が続く。




 多香子の実家までの道程を撮り終えた後は、玄関での父親(並樹史朗)とのシーン。
 ここでは玄関を入る時に、一度後ずさりしてから勢いをつけて玄関に入って来よう、という監督からの多香子の心理描写演出が追加された。
 さらに監督から「このシーンは一気に感情を爆発させたい」ということで、カット割りと引きの画面でのライティングがスタッフたちとの間で入念に打ち合わせされていく。
 父親と再会する前に大人・多香子の帰宅に立ち会う、家に手伝いに来ていた近所の女性役で市民俳優の女性2人が参加。
 監督と入念にリハーサル。まずは市民俳優の女性2人と大人・多香子とのシーンを一気に撮影していくことに。
 監督からは2人の市民俳優に、演技の流れが再度細かく指導される。
 撮影は何度かのテストの後に台詞のタイミングなど、シーンの流れを決めてからの本番。
 こうした撮影に参加するのが初めてだという市民俳優女性陣の1人は、撮影にプレッシャーがあったのだろう、監督の「OK」の声に安心したのか、本番後に泣きだしてしまったのがとても印象的だった。
 
 一息入れてから父親との再会シーン。
  父親役の並樹は、監督と大人・多香子(常盤)に、こんな芝居をするつもりなのだが、どうだろうか? といった話し合いをテストから相談している。
 いくつかの監督からの訂正を加えた後に、テスト、そして本番へと続いていく。
 この場面は側で見ているとかなりの迫力があり、並樹史朗という名バイプレイヤーの力を、まざまざと見せつけられるシーンになっている。
 その父親とのやり取りの中で多香子の目にも、みるみる涙が溢れていく。
 「良かった! OK!」と、監督。
 並樹は監督に握手を求める。その場面を見に来ていた高校生・多香子(芳根京子)とみどり(藤井武美)も、その場面を見て涙ぐんでいる。
 ここは映画の中での見どころのひとつとなっているであろう。
 続いて、母親(烏丸)との別室での再会シーン。
 布団が敷かれて、そこで横になっている母親と多香子とのやりとり。
 ここでの撮影はある意味、女優同士の見せ場のひとつでもあろう。
 夜8時近く。
 この日の撮影は終了。
 宿舎に戻り、ひと心地ついた頃、高校生・多香子を演じている芳根京子とみどりの藤井武美の2人は、宿舎の玄関脇で花火を始めていた。
 そこに数人の撮影スタッフも参加。「今年初めての花火!」と、盛り上がる2人。1日中、目一杯の撮影が続いている毎日でも、若手2人は元気だ。
 明日は午前10時から撮影スタートの予定。
 食堂のホワイトボードにはそう書かれていた。(つづく)


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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ その18 [撮影ルポ]

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~いよいよ常盤貴子が撮影現場に!~

by  永田よしのり(映画文筆家)


 5月2日。巷ではゴールデン・ウィークの真っ只中。
 世間では休日モード、テレビのニュースなどもどこそこの高速道路は渋滞が何十キロとか、観光地の人手が記録だとか、海外に出かけて行く人が前年比何%とかを伝えている。
 しかし映画撮影は、そんな世間のお休みモードとはまったく縁もないように進んでいく。
 そして、このルポではいよいよドラマや映画で多数出演作品のある常盤貴子が登場することに。
 ルポを読まれている方にここでひとつ説明しておくと、映画「向日葵の丘 1983年・夏」には多香子という主人公がおり、その多香子を3人の女性が時代を経て演じている。つまり、便宜上ルポでは常盤貴子演じる多香子を大人・多香子。芳根京子が演じる多香子を高校生・多香子。少女時代を演じる市民俳優の女の子を子供・多香子と表記していきたいと思う。

 読んでいる方には、描かれる場面での演者が誰なのかをそれで判別していただきたいと思う。
 さて、常盤さんの撮影は、僕が一時帰京していた4月30日から始まっており、実質的には撮影2日目となる。

 挨拶しながら、撮影のことを聞いてみると、本人は撮影が始まる前日・29日からロケ地入りしており、島田市内を一人であちこち散策したのだそうだ。

 それは今回撮影される場所の空気感を自分の中に取り込むのと同時に、自分が役のうえで暮らしてきた場所を、自分の目で見て知っておきたかったから。

 さらに自分の演じる大人・多香子の、高校生時代を演じている芳根京子の撮影場面も見学している。
 それにより高校生・多香子の特徴なども、自分の演じる大人・多香子に投影させていくのだそうだ(このあたりのお話は、劇場用パンフレットのインタビューページに詳しく語られているので、興味を持たれた方はぜひパンフレットを読んでいただきたい)。こうした役を演じるうえでの積み重ねが、映画の中の多香子にリアリティを持たせていくのだろう。

 この日は早朝6時半に宿泊所を出発。雲ひとつない晴天。今日は雨の心配はなさそうだ。

 まずは金谷から大井川鉄道が通る新金谷駅に向かう。そこで電車から降りて来る大人・多香子の姿を撮影することから始まる。

 僕らも含めて撮影スタッフは朝7時15分には駅前に集合、スタンバイ。ここは夏にはアニメ「きかんしゃトーマス」の実物が走るイベントも開催されている。ゴールデン・ウィーク中も鉄道イベントがあるため、一般客も多数駅を利用する。なので早朝から午前8時45分頃までの時間限定での駅前撮影となった。

 駅前撮影のために作業は迅速に。

 キャメラはスタッフ車の上に設置され、俯瞰で役者たちを撮影する形に。通行人としての市民俳優たちもスタンバイ。

 この駅は高校生・多香子たちも利用していた駅のため、多香子(芳根京子)、みどり(藤井武美)らが乗降する場面も撮影される。カットとしては人物たちが通り過ぎるだけのシーンなのだが、場所を描写するには重要なシーン。観光バスも近くを発着するために、のんびりと撮影していると時間がどんどん過ぎてしまう。

 まず撮影された高校生・多香子と高校生・みどりの駅から出て来るシーンは、一発でOKとなる。見ていると多香子(芳根京子)は、アドリヴなども少し入れられるようになってきている。撮影に慣れたこともあるのだろうが、顔つきも撮影当初の頃に比べると余裕があるように見えるし、少し大人の顔つきになってきたような気がする。

 そんな撮影はスタッフ同士のワイヤレスシーバーで、一般の人の往来や車の行き来を確認して伝えながら、撮影のタイミングが計られている。

 そしていよいよ大人・多香子役・常盤貴子の出番。
 今日の衣装は白で統一されていて、常盤の透明感を際立たせるように見える。
 駅前を通り過ぎるシーン撮影。午前8時35分。早くも陽差しが強くなりつつある。歩いて来て立ち止まる場所にスタッフがバミ(位置を決める、示すためにその場所にガムテープなどを貼ること)をする。もちろん本番では剥がされるのだが、テストの時には必要なものだ。

 ベージュのカバンを脇に抱えた常盤が駅前を歩くシーンは、すんなりと終了。8時45分。ほぼ約束された時間通りに終わることが出来た。監督と常盤は撮影がひとつ終了したところで雑談も含めてコミュニケーションを取っている。

 聞いていると、どうも本編の撮影以外の話で盛り上がっているようだ。
 気持ちが追い詰められていたりする時はそんな話は出来ないだろうから、常盤自身も撮影には不安を感じていないのだろう。

 新金谷駅前での撮影を終了して、スタッフはテキパキと次の撮影現場・河川敷へと移動。
 そこでは多香子の子供時代のある日のシーンが撮影されることに(つづく)。
 

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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ その17 [撮影ルポ]

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~撮影も中盤を過ぎ、スタッフ・キャストともすっかり一体に~
BY 永田よしのり(映画文筆家)

 学校での撮影が終了した後、撮影スタッフは家山地区に移動。
 そこで作り酒屋の蔵をお借りして、多香子たちが8ミリ映画を撮影しているシーン(用務員さん(飯島大介)が8ミリ映画中の芝居をしている場面となる)や、用務員さんの一人での場面、ダンスなどが撮影された。

 なにぶんスペースに限りがある蔵の中なので、僕は撮影の邪魔にならないように、蔵の外から中の様子をのぞくようにしていた。蔵の中に入らないスタッフたちも外から中の様子をのぞいている。
 夜も更けてくると、かなり気温も下がって寒くなってきているため、昼間と同じ薄着ではけっこう冷える。。 

 蔵での撮影が終わると、今度は和室を借りて、みどりが8ミリ映画撮影のための準備をしているシーンなども単独で撮影されていた。こうした細かい場面も、1本の映画で編集によってしっかりと繋がっていくのだ。

 4月26日は、結局撮影が終了したのは夜中0時近く。
 撮影1週間を過ぎて、初めてきれいな夜空の中にたくさんの星を見た夜だった。
 撮影初日から雨が降り、天候はずっとガスがかかったように曇った毎日が続いていた。
 前日などは突然の雷雨で、急激に気温も下がり、ヒョウまで降ったのだ(そのためにお茶の新芽はずいぶん落ちてしまったのだと現地の人たちから聞いた)。

 そんな連日の寒さが続く夜の撮影は、撮影休憩場所にある熱いお茶がとてもありがたい。
 撮影スタッフが用意しているお茶がなくなれば、現地の応援団の人々がすぐに熱いお茶を用意してくれる。

 本当にありがたいこと。
 そんな人たちにも支えられて映画の撮影は続いていくのだ。
 この日の撮影を終えて、宿舎に戻ったのは夜中1時半も過ぎた頃。
 それでも監督やスタッフは、その時間から翌日の準備に余念がない。
 僕はこの日の撮影が終わってから、夜中2時過ぎに、他の原稿書きと取材の予定があるために一時帰宅。

 一人で車を運転して自宅に戻ることに。
 ちなみに自宅に着いたのは、朝の6時過ぎだった。
 次に撮影現場に戻るのは5月になってからの予定。
 それまでに他の仕事をちゃんと片付けていかなければならない。

 2本の取材を都内で行い、急ぎの原稿を何本か書き(毎年この時期はゴールデン・ウィーク進行というものが媒体ではあり、締め切りなどは前倒しになる。そのために平常よりも忙しくなるのだ/そのため、ゴールデ・ウィークが明けるとしばらく暇になるのだ)、再び撮影現場の島田に自分の車を運転して戻ったのは、5月1日の夜10時過ぎ。

 宿舎は当然、煌々と明かりが点いており、たくさんのスタッフらが食堂で作業をしていた。
 僕の顔を見ると監督は「おかえりなさい」と笑顔で迎えてくれた。ほんの数日だけ、撮影現場から離れただけなのに、この宿舎が懐かしく思えた。

 翌日は朝6時半に宿舎を出発する予定ということで、僕が現場にいなかった間のことを少しだけ聞く。
 4月30日には撮休(撮影がお休みとなる日)があり、その日は中打ち(全部が終了した時には打上げという慰労会があるわけだが、今回は長い撮影の合間にレクリエーション的にバーベキューをしたりして、これまでの撮影の労をねぎらう会を催したのだそうだ)で、スタッフと出演者陣はその距離が、それまで以上にぐっと近づけたのだそうだ。

 一体どんな盛り上がりをしたのだろうか。その場所に他の仕事のためにいられなかったことを悔やむが、仕方がない。
 翌日からは、いよいよ、大人の多香子(常盤貴子)たちの撮影現場の様子を見ることになる。

(つづく)



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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ その16 [撮影ルポ]

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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ その16
~映画の神様が舞い降りた瞬間!~

 多香子、みどり、エリカら3人が、自分たちの撮影している8ミリ映画の中で、ミュージカル映画「雨に唄えば」のシーンを演じてみせる場面。
 高校の中庭で、彼女たち3人の脇にセッテイングされたのはけっこうな高さのある脚立。そこに同級生・ヒデキ役の市民俳優が上り、ホースでシャワーのように雨を降らせるのだ。
 ホースから水を出すタイミングなどを何回か練習した後に本番となる。
 傘を手に唄い、踊りだす3人娘。
 そこに上から雨のように水をかけるヒデキ。
 いい感じで歌とダンスステップが続いていた時、ふいにヒデキの持つホースの手元が壊れるアクシデント。
 本編撮影キャメラはまだ回っている。
 そこでヒデキはシャワータイプのアタッチメントを急遽捨て、自分の手でホースの口を細くし、水をかけ続けるという機転を見せた。
 これにはちょっと驚いた。
 映画の撮影現場が初めての高校市民俳優が、自分の力でアクシデントを乗り切ろうと努力してみせたのだ。
 普通は、こうした予定していなかったアクシデントが急に降りかかった場合、どうしていいか分からずに動きを放棄してしまうか、周囲のスタッフに助けを求めるだろう。
 それをせずに、自分が撮影を止めてしまうことを懸念して、自分の機転でその場で出来ることをしっかりとやってみせたのだ。



 そのハプニング的な動きも本編キャメラはしっかりと押さえている。これは映画内映画の生のアクシデント。実際に高校生たちが8ミリ映画を撮影する時には起こり得ることでもあろう。
 そこをしっかりとアクシデントをアクシデントとせずに、その映画の中での、生のリアクションとして撮影されたのだ。
 経験上、こういう思いがけないアクシデントをしっかりとその場で対応できた時、アクシデントがサプライズに変わった時は、〃いい映画〃になることが多い、と思う。
 その確信には確かな根拠があるわけではないが、そんなイメージを持つことが出来た瞬間だった。
 まさに、ここで〃映画の神様〃が舞い降りた瞬間ではないだろうか。
 このシーンは実際に本編ではどのように使われたか、はぜひ映画館で確認していただきたい。
  
 昼食を挟み、午後からは学校の用務員(飯島大介)さんと、多香子たちの下校時の廊下でのやりとりからスタート。
 ここでは監督から「普通に学校から帰る感じでみんなバラバラと教室から出て来て」と具体的に指示。
 廊下を走るという設定の多香子たちには「走り出してから用務員さんに怒られるから、そこで急ブレーキをかけるような動きで」とアドバイス。
 それら一連の大人数での動きを、キャメラに映らない場所から助監督がタイミングの合図を出す。
 助監督の合図によって、25人ほどの高校生たちが一斉に動き出す。それに合わせるように廊下へと走りだす多香子たち。学園もののドラマではよく見られるような青春の1ページが、ここでも切り取られた。

 そんな明るいシーンが撮影された後、同じ教室では卒業式・卒業証書を受け取るシーンの撮影となる。
 それまでずっと楽しげにしていた心持ちとは一転、真逆の精神状態での表現が要求される場面だ。
 それは、午前中から行われていたのは、秋の文化祭前のシーンで、午後は文化祭で起きたある事件のために、多香子とみどりの心が離れてしまっている、という場面に撮影内容が変わるからだ。
 多香子役の芳根京子と、みどり役の藤井武美にこの時の心境を後で聞いてみると、やはりそれぞれに「ずっと仲が良かった2人が言葉も交わさなくなるのは辛かった」「自分の中では最初、気持ちを無理やり切り替えた。でも、途中からは相手を見ないようにしていたら、自然と悲しくなってしまった」と語っていた。
 やはり、気持ちの切り替えが一番の課題だったようだ。




 そうしたことを考慮してか、この場面の撮影はじっくりと行われていたように思う。
 監督と多香子役の芳根京子は、何度もヒソヒソと話し合いを繰り返しながら、この撮影に臨んでいたのが印象的だった。そうした場面は最初の頃の撮影では見ることのなかった様子だったからだ。
 映画の撮影は、全てが物語の順番・流れ通りに進むわけではない。時には同じ場所で全く違う心象のシーンが撮影されることもある。それは同じ現場で、移動時間を節約してしまうため。そういう時の俳優の気持ちの切り替えは、やはり見ていて大変なのではないだろうか。だが、そこをしっかりと乗り越えてみせることも、俳優たちにとっては非常に自分の力の見せどころ出もある。
 すっかり陽が暮れた午後7時過ぎ。
 教室での撮影は終了した。
 だが、この日はまだ撮影するシーンが残っている。
 そのためスタッフは機材の片付けを急ぎ、次の撮影現場へと移動を始めるのだった。(つづく)



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「向日葵の丘」撮影ルポ、好評連載中! [撮影ルポ]

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「向日葵の丘」撮影ルポ、好評連載中!

毎週、金曜日の0時頃に更新されます。その日の午後にはこのFacebookと監督日記でも紹介しますが、

いち早く読みたい!という方はこちらへ=>http://ameblo.jp/blues-yoshi/


バックナンバーはこちら=>
撮影現場ルポその14はこちら。
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-12015236168.html
撮影現場ルポその13はこちら。
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撮影現場ルポその6はこちら。
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撮影現場ルポその1はこちら。
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撮影に同行する前に(序文)はこちら。
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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ その15 [撮影ルポ]

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~多香子、みどり、エリカが「雨に唄えば」のシーンを再現~

by 永田よしのり(映画文筆家)

 2014年4月26日、土曜日。

 この日は撮影初日以来の教室でのシーンなど、学校での撮影の1日。それと共に、校舎周辺情景などの細かいカットも撮影。それらは映画の中でカット変わりなどに使われることになる。

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 まずは卒業式のシーン撮影。市民俳優も多数参加しての撮影となる。卒業式の案内が書かれた入口、校舎、中庭の様子、用務員役の飯島大介(「戦場のメリークリスマス」「カムイ外伝」など出演映画多数)がリヤカーを引いて入る様子、高校生たちのダンス・シーンなどを次々に撮影していく。

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 シナリオ中のページ数にすれば2~3ページ分、短いカットが撮影されていくのだが、台詞のある芝居がないために、撮影はどんどん進んでいく。

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 それにしてもどうしても気になってしまうのが、高校生役の市民俳優たちの撮影現場での対応のあり方。

 撮影現場に臨んでくる姿勢とでもいうのか、性格の違いだろうか、しっかりその日の撮影内容を把握して、予習復習してくる子とそうでない子の差がハッキリと現れている。

 特に何をやっても、対応できない子はいつまでも変わらない。1983年当時のギャグを演じる場面なども、そのギャグがどういうものなのかは全く知らない様子(今ではネットでなんでも一応確認できる時代なのだが、検索して見た様子がないのは明らか)。

 それが撮影を中断させる、ということも考えてはいないのだろう。そうかと思えば、1983年当時のヒット曲や、流行したものをちゃんとリサーチして覚えてきている子もいる。

 個人の資質と共に、親の躾なども透けて見えてきてしまうような気がする。映画としてずっと残る、ということをどう意識しているのだろうか。まあ、遊び感覚で撮影現場にやって来ているのかもしれないが、そのままの姿が映るのは、素人の高校生がいるということでは正しいのかもしれないが。

 これもある意味のドキュメンタリーなのかもしれない。

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 そんな撮影が続く中、午前中最後のシーンは、多香子、みどり、エリカたち3人が傘を持って、黄色いレインコートを着て、映画「雨に唄えば」のシーンを唄い、踊るというミュージカル・シーン。そこには、撮影を手伝ってくれている、鯛焼き屋のウメさん(岡本ぷく)たちがお弁当を作って持ってきてくれる、という場面でもあるので、

現場の手伝いに来てくれている人たちが実際にさまざまな料理(おむすび、煮物、サンドウイッチ、漬物、肉ジャガ、卵焼き、串だんご、さつまあげ、フルーツまで!)を作って参加してくれている。そしてこのお弁当はスタッフたちの昼食にもなりえるという、まさに一挙両得!

 3人娘たちは山のようなお弁当の量に「今、食べたい!」と、興奮気味。まだ午前10時半なのだが、もうお腹が減ってきているのか?

 そんな市民応援団たち2~30人が参加しての撮影が学校の中庭で始まる。

 本番前に多香子、みどり、エリカら3人は入念に踊りの振り付けや歌詞などを練習。監督からは「とにかく笑顔で!」とアドバイスが飛ぶ。いかに楽しくできるか、がこのシーンのポイントとなる。

 3人が持っているのは黄色の水玉のビニール傘、それにアウトドアグッズを良く知っている人ならお馴染みのメーカー・ロゴス黄色いレインコートに肌色の長靴という姿。

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 3人娘はステップの順番や、歌などを本番前に何回もチェック。

 この場面は多香子たちの撮影している8ミリ映画撮影のシーン。なので、その撮影の様子全体を撮影する本編キャメラは、俯瞰で押さえるためにやや高い位置にセッティング。

 3人娘たちを狙う本編キャメラの撮影範囲に入りそうなものは全てスタッフが片付けている。

 そして、脚立に上がった高校生・ヒデキがホースでシャワーのように、雨降らしをする用意(その場面は実際の本編キャメラに収められる)をして、リハーサルを何度か行い、本番となった。

 ここで、映画の神様が舞い降りた、としか思えない場面が訪れることに。(つづく)




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「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ その14 [撮影ルポ]

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~撮影開始以来初の夜中までの撮影~
by 永田よしのり(映画文筆家)

 お昼近くなってくると、店内に充満する、もつ煮込みや静岡おでんの匂いが、自分の腹具合と共に気になってくる(笑)。
 食堂などの場所での撮影はいつもこうした誘惑があるのだ(笑)。
 多香子たちが食事をするシーンでは、それらの消え物(劇中で使用される飲食物/食べたら画面から消えてしまうためにそう呼ばれる)が座敷のテーブルにたくさん並べられる。湯気が消えないうちにこれも2台のキャメラで撮影。


 監督からは芝居の流れを手順細かく説明、それでいて決められた段取り芝居にならないようにと、指示が何度も入っていく。
 座敷に座るウメさんには監督から「膝に負担をかけないように」との配慮で座布団が2枚渡され敷かれている。本当に細かいところまで監督が注意を向けていることがよく分かる。
 昼食を挟んで午後からも同じ桜屋内部での撮影が続く。
 午後は夜のシーン想定の撮影となるためにスタッフが窓に暗幕をかけていき、照明もナイトシーン用にセッティング。

 ここからは多香子たちが、桜屋で自分たちが撮影した8ミリフィルムをテスト上映する場面が撮影されていく。
 キャメラはカウンターに設置され、画角を決められる。
 照明スタッフは夜の店内ということで、キャメラがレンズを向ける方向での照明の色具合に違い(明るさや色合い)が出ていないかを注意。
 店内が少し暑くなってきたために扇風機がセットされると、その扇風機にもこだわりたくなるスタッフたち。

 「扇風機にヒモをつけて風を目で感じられるようにしよう」と、用意し始める。本当に撮影をよりよくしようという熱意が現場をよりよく変えていくのだ。
 天気予報では夕方からひと雨来るという。
 機材が店の外には山のようにあるのが少し心配。そう思っているとスタッフは雨が降っても機材が濡れない場所にすでに機材を移動していた。
 店内では8ミリフィルム上映のために、壁に白い布がかけられ、映画を写すための用意がされていく。
 役者たちはこの布の前で、店内で上映会が行われているというシーンの芝居を進めていくことになるのだ。

 そんな撮影が続く中、突然大きな雷鳴が店内に響いた。
 その音の大きさに、女優陣はちょっと怖がる。
 雷が通り過ぎるまで撮影は一次中断。
 午後4時半過ぎには外はかなりの土砂降りとなっていく。
 店の屋根を雨が叩く音が録音に影響しないか心配したが、幸いなことに中止になるほど大きく雨音が響かなかったので、撮影は様子を見ながら続行されることに。

 本日の撮影はシーンの数こそ少ないが、印象的なシーンが続く。なので丁寧に演出が重ねられ、テストが続いていく。そのためにいつもより時間がかかっているように感じられた。
 その後も店内に酔客を入れての撮影、夕食休憩を挟んでからも撮影が続いた。
 いつの間にか、これまでの撮影で一番遅い時間となっていく。

 夜9時には雨もすっかり上がったので、外の機材を撤収し始めるスタッフの姿も。
 予定していた撮影がすべて終了したのは日付が変わる直前の午後11時半過ぎ。
 さすがにスタッフらにも少し疲労の色が見える……かと思っていたら、それから帰舎に小一時間ほどかかる宿に戻ってからもスタッフはそれぞれに翌日の準備に余念がない。

 皆が自分の仕事にプライドを持ち、プロの仕事を真っ当している。スタッフからしたら「当たり前」のことなのかもしれないが、現場でずっと立って撮影を見ているだけの僕でもかなりしんどく感じた1日だったため、よけいにそれを感じるのだった。(つづく)

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「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その13 [撮影ルポ]

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「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ/その13
~鯛焼き屋にたくさんの登場人物たちが集合

by 永田よしのり(映画文筆家)

 朝から家山地区にある鯛焼き屋・桜屋をお借りしての撮影が始められる。
 この鯛焼き屋も実際に営業している地元では有名なお店。
 駅からもほど近い場所のため、時々SLの汽笛も聞こえてくる。
 そこを入口から「桜屋」の看板などを美術スタッフが飾付け、劇中の登場人物たちが集う場所として撮影するのだ。

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 この日は登場人物たちが今までの撮影で一番集まるものに。高校生の多香子たちがよく出入りしていた鯛焼き屋という設定だ。 
 多香子(芳子京子)、みどり(藤井武美)、エリカ(百川晴香)のとっとこ3人娘(彼女たちが人気アニメのキャラクターのように見えたことから、撮影初日監督によって命名された高校生トリオの呼び名)はもちろん、桜屋のおばあちゃん・ウメさん(岡本ぷく)、その娘・桜子(斎藤とも子)など、これまでの撮影シーンの中でも一番たくさんの俳優たちが一同に集まる場面だ。
 その他にも市民俳優の方々も参加するため、店内はスタッフも入れるとなかなかに満杯状態。
 現場はこれまでよりも和気あいあいとした雰囲気(中でもムードメーカー的な役割を担うのは最年長の岡本ぷくさんだ)。
 店内ではそれぞれの座り位置などが決められ、監督が台本に沿った撮影説明、段取り、テストなどを指示していく。
 撮影本番前に監督からそれぞれのキャスト紹介、スタッフからの拍手を俳優陣が受けてから本番が開始される。
 多香子たちが座る店内の座敷席には、ブラウン管の旧式のテレビも設置。それを多香子たちは「初めて見たー」「古ーい」と当たり前のような感想を発して盛り上がっている。
 監督からは「舞台のステージのような感覚で芝居をしてみよう」と提案。一連の台詞や動きがまずはワンカットで追われていく。

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 そこでの芝居をキャメラは数通りの角度から撮影(切り返しという撮影手法/芝居を見ながら登場人物を紹介していく)。
 さらにワン・シーンを複数のキャメラで撮影、これで一気にカット割りを考えることができる。
 途中「それぞれの台詞がかぶらないように注意して、あと台詞をもう少しゆっくりと」と、監督から注文が入る。
 登場人物が多い場面のために、どうしても一気に喋ると台詞が聞き取りづらくなる場面も出てしまうのだろう。そこを監督は注意しているのだ。
 そんな撮影の合間、スタッフが撮影準備を整えている時間には俳優陣が雑談したり、台詞合わせなどをしているのだが、世代を越えた俳優たちが集まって盛り上がっている姿を見ると、なにか長い付き合いのある近所の人たちが集まって歓談しているかのように楽しげで、とても映画の撮影をしているとは思えなくなってるのが不思議だ。
 
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 多香子たちが鯛焼きを食べるシーンでは、監督から「小道具にラムネがあるといいよね」と提案。入手できるかどうかすぐにスタッフが地元のフィルムサポートに交渉。
 幸いなことに地元の商工会議所で1ケース確保できることが確認。午後からの撮影で使用できることになった。本当にこのスタッフは、様々な提案や要求に即時対応するフレキシブルさを備えている。
 現場で対応できることはすかさず対応していく。プロの集団なのだ。(つづく)


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永田よりのりさんの連載「向日葵の丘」撮影ルポ。バックナンバー! [撮影ルポ]


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【小玉虫シスターズからお知らせです】

映画文筆家永田よしのりさんのブログ。
今年の夏に公開される『向日葵の丘1983年・夏』の撮影現場ルポが毎週金曜日に更新されます。私たちは毎回楽しみにしています。永田さんルポを読むと、まるで自分たちが撮影現場にいるような気分になれて、公開への期待が段々と高まります。
太田隆文監督の映画を見て育った私たちは永田よしのりさんのブログでワクワク感を膨らませています。
太田隆文監督の最新作を現場ルポした永田よしのりさんのブログよろしくお願いしまーす。\(^-^)/

【新着】
撮影現場ルポその12~多香子とお母さんの別れのシーンは映画の山場のひとつ~
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-12009532954.html

撮影現場ルポその11はこちら。
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撮影現場ルポその1はこちら。
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-11977667006.html

撮影に同行する前に(序文)はこちら。
http://ameblo.jp/blues-yoshi/entry-11974892680.html


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「向日葵の丘 1983年・夏 」撮影現場ルポ/その12 ~多香子とお母さんの別れのシーンは、映画の山場のひとつ!~ [撮影ルポ]

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~多香子とお母さんの別れのシーンは、映画の山場のひとつ!~

by 永田よしのり(映画文筆家)

 親子3人でのシーンが終了すると、次は多香子が、自分の部屋に一人でいるシーンが撮影される。

 そこでは時間の経過と共にシーン替わりを計算しての数シーンが撮影された。
 狭い部屋の中には11人ものスタッフが。
 限られた空間の中では、撮影本編に関係のない者はジャマになってはいけない。
 なので、僕はベランダに出て中の様子のぞき込みながらを確認。
 そろそろ夕方に近い時間。

 春とはいえ、山合いでの撮影、だんだんと足元も冷えてきている。
 多香子が一人、部屋で悩んでいる姿などをいくつかのテイクに分けて撮影。
  別の部屋ではスタッフが、部屋に張った暗幕や使用機材の片付けなどを手分けして進めている。

 この日も撮影終了時間は夜になりそうなのは確実。手の空いて入るスタッフは、進行を読みながら平行して片付けもしているのだ。
 そしていよいよこの日最後となる場面の撮影になる。
 多香子が家を出て行くシーンだ。
 時間的にも夕暮れが近づいてきており、自然光で撮影するのがギリギリの時間帯。

 着替えをした多香子が、荷物を持って玄関から出て来るシーン。
 多香子が玄関から出る→母親・美里がフレーム・インして呼び止める→母娘との会話→多香子が一人で歩いて行く、というシーン。

 夕方なのでキャメラの撮影感度を変更する指示が出る。
 このシーンでは多香子(芳根京子)が、お母さん(烏丸せつ子)との段取り芝居をする段階でもう涙が流れていた。

 実は、この母親との別れの場面では、自分の感情を高ぶらせるために「聞いたら泣けちゃう」という「仰げば尊し」を直前までイヤーフォンで聞いていたのだと、後で芳根京子は教えてくれた。

 お母さんと多香子の別れの場面では、2人の感情の高まりをキャメラを意識させないで撮るために、あまり2人に近寄らずに撮影している。これも演出技法だ。
 監督からは「最初から泣かないように」と言われるが、どうしても気持ちが高ぶってしまい涙目になってしまう芳根。

 さらに外は薄暗くなってきているので、人の気配に感知して玄関口に設置してあるセンサー・ライトが点灯してしまったりもして、集中が途切れる場面も(なので、途中からはセンサー・ライトの電源を切って撮影を続けた)。

 そんな中でも感情を押さえながら演技に集中し、気持ちを持っていけるように、リハーサルの間中、烏丸がさりげなく芳根に接していく。
 玄関前でお母さんと多香子が別れる時のやりとり、このシーンは自分の母親のことを思い出して、実際に映画を観る観客も涙することだろう。

 お母さんとの別れを済ませ、家からどんどん多香子が一人で歩いて行く場面では、スタッフ、手持ちのキャメラがかなりの距離を一緒に歩いて撮影していく。
 一体どこまで行くのだろうか、と思われる長い距離を撮影していた。
 撮影を終えて戻って来た多香子の目は泣き腫らして真っ赤だった。

 歩いている間中、ずっと泣いていたのではないだろうか(このシーンも撮影のジャマにならないように、僕は一緒について行かず、遠くから見ていたのだ)。
 ここでは家を出る娘を見送るお母さんの娘を思う気持ちも、しっかりと描かれている。

 そしてそのお母さんの気持ちを受けながらも家を出て行くことを選択した多香子の姿が印象に残る場面。
 多香子を演じる芳子京子は、この日の撮影で感情をかなり大きく変化させるという経験をした。
 この日の撮影を芳根京子が体験したことで、この後の多香子の姿にどう反映されていくのか、そこも今後の撮影の注目点となっていくのではないだろうか。

 なぜ、そう思うかを説明すると、この映画はほぼ脚本に書かれた通りの順番で撮影されている(順撮りという)。そのためにこの日のシーンを撮影した後にも、多香子の出演シーンはまだまだたくさんあり、感情をコントロールしなければならない場面も今後たくさん残っているからだ。
 そこにこれまでの撮影までと(この日までは、わりと楽しい高校生活などの日常シーンの撮影が続いていた)どんな変化が見られるか、そこが楽しみという意味だ。
 
 すっかり陽が落ちて夜になった頃、撮影は終了。
 宿舎に戻ると、この日は撮影のなかったみどり(藤井武美)とエリカ(百川晴香)が夕食作りの手伝いをしていた(昼間は翌日からの自分たちの撮影準備に当てていたそうだ)。
 彼女たちが作った、だし巻の卵焼きや煮物などが食卓を飾り、スタッフたちの労をねぎらうこととなった。
 もちろん、スタッフみんな、出てきた料理を残すことなくきれいに食べてしまったことは言うまでもない。(つづく)

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