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収入が安定した仕事なんてもうない。厳しくても自分がやりたい仕事をやるべき! [映画業界物語]

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 少し前になるが、20歳くらいの映画監督を志望する男の子と話した。映画が大好きで、将来は監督になりたくて、今は映画の専門学校に通っている。でも、将来が不安だという。そんな彼はこう訊いて来た。

 「映画監督業の収入は安定していますか?」

 へ?? それが第一の質問? 通常なら「どうすれば映画監督になれますか?」なのに「収入は安定していますか?」なのだ。そこで彼のバックグランドがだいたい見えてしまったのだけど、さてどう話そうかと考えた。

 まず、映画監督になるのは大変なことだ。実力だけでもダメ。運だけでもダメ。僕は本当にラッキーで今、映画監督の仕事をしているが、今後は分からない。高校時代に「監督になる!」と決めてから、23年ほどかかって映画監督業をスタートさせた。その厳しさはよく分かっている。なのに「どうすれば監督になれるか?」ではなく、「収入は安定しているか?」を訊く若者がいた。

 たぶん、彼は映画がとても好きなのだろう。将来は映画の仕事がしたい。できれば監督になり、いろんな映画を作りたい。でも、それで食って行けるのだろうか? 収入がなくなり飢え死にすることはないか? 貧しい生活を強いられることはないか? 欲しいものも変えない生活にはならないか? 結婚して嫁を養うことはできるのだろうか? というごく普通の不安を感じた。だから質問したのだ。

 映画業界に詳しい方はここまで段階で憤り。「何じゃそいつは!」と激怒していることだろう。けど、少し我慢して読んでほしい。彼が映画監督を志望しているから、イラつくのであり、別の角度から考えてみよう。

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 もし、彼がこう考えたらどうだろう? 「絵描きになりたい! でも、絵を売って生活していくのは大変だろうなあ」ーこれは誰でも考えることだ。次はどうか? 「俳優になりたい! でも、芸能界は競争が激しい。とても俺なんて仕事もらえないよなあ」これも誰しも考えることである。就職活動をする前に、**会社がいいか? それとも**商事か? いやいや、***製薬か?と、どこが給料がよくて、待遇がよくて、休暇が長いか? 将来性はどうか?と考える。彼はそれと同じなんだ。

 映画が好きだから、映画監督の仕事をしたい。でも、生活は安定しているのか? 心配だなあ。不安定なようなら別の仕事にしよう。という就活学生と同じことを考えているのだ。では、その答えを書こう。もし、安定性を求めるなら、映画監督だけでなく、俳優、ミュージシャン、画家。漫画家、アーティスト、クリエーターになってはいけない。これらは実力の世界であるだけでなく、運も大きく左右する非常に不安定な業界で、食って行くことはとても困難。

 これは昔からそうであり、一般の人でも知っていること。わざわざ業界の人に聞かなくても現実である。なので、まず、そんなことを僕に訊くこと自体に驚かされた。映画の専門学校に通っているというから、当然、それは覚悟した上で勉強しているのだと思ったのだが、その段で「安定していますか?」と訊くのはどういうこと?とさえ思えた。

 そもそも、映画監督だけでなく、カメラマンも、照明も、演出部も、美術部も、制作部も皆、安定していない仕事だ。今月は仕事があったが、来月はない!ということもある。脚本家なら最初5年は無収入を覚悟すべき。タダでいいといっても仕事はもらない。他のパートも仕事を覚えるまでは、無給ということが多い。

 「えーーーそんな酷い」

 と思うかもしれないが、仕事ができないのに給与がもらえるのはサラリーマンだけだ。戦後の会社は新入社員を育てるために、最初数年は仕事ができなくても給与を支給して育てるというシステムを採用した。が、それは会社だけであり、板前になるのも、修行中は無給。飯を食わせてくれるだけというのが通常。技術のいる仕事というのは、皆、同じ。会社員だけが違う方法論を採用しているだけ。

 なのに、最近はサラリーマンを基本として、技術がない若い人が「1時間働いたから***円ほしい」と主張する。が、それはバイトであり、新入社員の発想であって、映画の現場でお手伝いしたからと、その種の賃金は出ない。その考え方は間違っている。正解はこうだ。映画の技術を学ぶために高い授業料を払って専門学校に通う。それを現場で学べるのは非常に貴重な体験。それも授業料を払わなくていい=なのに、その上、ギャラを寄越せというのはどういうことか? もう分かったと思う。


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 現場でタダ働きするのではなく、授業料なしで技術を学び、貴重な体験をすることができるということ。それを「1時間働いたらから***円ほしい」がいかに勘違いな発想であるか? 分かってもらえたと思う。さらに言えば、今回の彼である。「映画監督の収入は安定していますか?」というが、その質問自体が大いなる勘違いなのだ。

 例えば、インディアナ・ジョーンズのような冒険家にこう訊くだろうか? 「私は冒険家になりたい。でも、冒険中に怪我したり、死亡したりすることはないですか? 安全は保証されていますか?」もう、愚問であることを理解してもらただろう。冒険家という仕事は、危険に満ちている。いつ死ぬか?分からない職業。映画監督も同じ。いつ食えなくなるか?分からない。それどころか、仕事がもらえるか?どうかすら分からない危険な職業なのだ。

 もし、安全を確保した上で冒険がしたいなら、ディズニーランドのジャングルクルーズの添乗員とかになるしかない。といって彼を責めている訳ではない。彼のようなタイプの若者は今、とても多い。全てを会社員を貴重に考える。先に上げたように就職活動の発想で考える。

 給与はいいか? 有給は取れるか?

 将来性はどうか? 

 さらにバイト感覚。自身の能力はさて置き、1時間働いたから1000円は欲しい。それは誰でもできる仕事であり、何の技術もない者が調理場に立っても何の料理もできない。それと同じで撮影現場でも技術のない者は役に立たず、そんな人間に賃金はでない。

 全ての間違いは会社員を基調に考えること。それほど日本という国はサラリーマン養成教育になっているということ。だから、僕はその子を強く責める気にはならなかった。彼のいる環境。家庭。学校が同じ会社員基調の考え方なのだ。そこで育ち、生活している彼はその価値観からしか、物事を考えられない。だから、「映画は好き。監督になりたいが、生活が安定しないなら、考えよう」とという発想を持ってしまうのだ。そこでこう伝えた。

「映画の仕事は不安定。それが嫌なら会社員になった方がいい。でも、今の時代。会社員になるのもむずかしい。派遣社員は大変。給料安いし。期限が来たら仕事がなくなる。正社員になっても、いつリストラされるか? 分からない。会社が倒産するかもしれない。そう考えると今の時代。生活の安定を求めるなら公務員になるしかないよ」

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 若い彼は「そうですか。。。」といい、悩みながら去って行った。たぶん、映画は好きだ。映画の仕事をしたい。でも、安定しない生活は嫌だ。と思ったのだろう。でも、先にも伝えたように、今の時代。安定しているのは公務員くらいなもの。そんな時代に最初から安定を求めてどうするのか? いや、公務員だって、近い将来、大リストラの嵐が吹き荒れる可能性はある。彼らの高い給与が国家予算を大いに圧迫しているのだ。国民からの批判は大きい。財政赤字の中。彼らが永遠に安泰ということはないだろう。

 僕の20歳頃は大学を出てそれなりの会社の会社員になれば、生涯安泰という時代だった。が、今は違う。なのに若い彼はそれを感じていない。僕が20歳の頃。1980年代の価値観を今も持ち続けている。若い人は時代を感じるビビットな感性があるのに、それが分からないのはなぜか?

 たぶん、彼の両親が僕と同世代で、古い価値観を息子に教育しているのだろう。僕と同世代。50代はもう時代を感じる力を失い、感性のアンテナは錆び付いている歳である。だから過去の価値観を振りかざす。僕も時代について行くのに必死。苦労している。

 そんな親たちに説教されて、堅実に生きねば....と彼は思っているのだろう。でも、時代は大きく変わっている。僕はこう思う。どーせ、どんな職業についても収入は不安定だ。公務員でさえ、どーなるか?分からない。だったら、本当に好きな仕事を選ぶべきだ。食えるか? 食えないか?ではなく、どうすれば食えるか?を真剣に考えることだ。

 また「収入が不安定」を気にするということは、その職業を選べば確実に安定するという思いがある訳だ。その発想が間違っている。どの業界でも収入が少ない人と、多い人がいる。映画の世界でも大金持ちになっている人が少ないがいる。会社員でもギリギリの給与で生活している人が数多くいる。間違ってはいけない。職業を選ぶことで安定する、しないではない。会社なら選んだ会社である程度決まるが、今の時代は、自分が選んだ仕事で、いかに収入を上げるか?なのだ。

 与えられたことだけしていれば収入は少ない。いや、その前に仕事をもらえない。でも、考えて、努力して、動けば、それなりの収入が得られる。今、日本はそんな時代になっているのだ。そして考えてほしい。いつリストラされるか分からない仕事をして、好きでない職業に就くのと、収入は安定しないが、好きな仕事をするのと、どちらが1度きりの人生で楽しいか? 彼にはそんなことを伝えた。






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