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【感動作を監督しようとすると貧しく。そこそこの映画を撮れば生活が安定する?】 [映画業界物語]

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【感動作を監督しようとすると貧しく。そこそこの映画を撮れば生活が安定する?】

少し前になるが、あるプロデュサーから新作映画の相談を受けた。ストーリーを聞き、イメージするキャスティングを聞き、制作母体について説明された。かなり大規模。有名俳優もたくさん出演。製作委員会方式のメジャー映画。製作費は*億円。題材はスタンダードだが、切り口が新鮮。

 まだ、実現するか?

 どうかは分からないが、その企画を進めていて、その監督候補に「太田君はどう?」と言われた。彼は何年も前から僕の演出力を評価してくれており、前々から「一緒に映画を作ろう!」といってくれているのだが、なかなかタイミングが合わない。そして「向日葵」が間もなく公開終了になるのを知り、声をかけてくれたのだ。

もちろん、その映画はまだ正式にスタートしていない。これから製作費を集め、俳優たちに交渉。進めて行くので、中止になるかもしれない。が、その監督候補にどうか?といってくれたのだ。本当に嬉しい話だし、ありがたい話だ。が、お断りした。「えーーーもったいない!」と友人にも言われたが、その枠組みと企画を見て、僕では貢献できない思えた。簡単にいうと、感動作を作ることのできない枠組みだからだ。

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 まず、スポンサー。大手が入りそうだ。

 何より製作委員会方式。つまり、多くの企業が出資して1本の映画を作るというやり方。この場合、それぞれの企業がいろんなことを主張する。「我が社のCMに出ている**子を出してほしい」「社長と懇意にしているタレントの***をゲストで出せ」「音楽は若者に人気の****にしてほしい」「ロケ地は我が社の工場のある***市で!」金を出す会社は必ず口も出す。

 俳優候補も決まっている。

 大手事務所に所属。そこはいろんな口出しをすることで有名なところ。シナリオや演出にまであれこれいってくる。「主題歌を主演俳優に歌わせろ」とも言うだろう。ま、大作映画となると、企業も事務所もいろいろ主張するのが当然なのだが、その調整役が結果、監督がすることになる。「人気俳優***さんの見せ場を作りますから」「音楽はA社のCMを担当している。**さんにするので、ロケ地はB社さんのお膝元で!」とか、全ての出資者の顔が立つように考えねばならない。

また、内容、物語についても、映画の脚本を読んだこともない人たちの意見を取り入れなければならない。正反対のことをいってくる人もいる。10人いれば、10人が違う意見をいう。それを取り入れないとヘソを曲げ「だったら、出資しない!」とか言い出したりする。しかし、その手の意見のほとんどは趣味嗜好による「感想」にしか過ぎない。「完成した映画がどうなるのか?」を正確に予想して、よりよくなるための提案ではない。

では、関係者全てが納得するシナリオにするにはどうすればいいのか? それは無難でよくあるパターンの物語にすること。誰も賞賛はしないが、文句は出ないストーリーにすることなのだ。逆にいえばシナリオ段階で一般の人たち=カタギのビジネスマンが賞賛する物語が映画になったときに、感動大作になることはまずない。むしろ、全員が反対したシナリオの方が可能性がある。


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 考えてほしい。

 新しい料理を決めるのに、そのレンストランに出資した料理人ではない、ビジネスマンたちが、好みの味やスタイルを様々に主張して、それを取り入れてシェフが料理を作って、美味しいものができる訳がない。それと同じ理由で製作委員会方式の映画のクオリティは低くなってしまう。

そんなスタイルの映画にはどんな監督が相応しいのか? 自己主張をせず、協調性があり、我慢強く、温厚で、こだわりがなく、それでいて、それなりの作品を作る力量のあるタイプでないといけないのだ。これで分かってもらえたと思うが、僕と真逆のタイプである。僕は作家性が強く、自分が作りたいものを作る。人のいうことを聞かない。協調性がない。ワガママで、こだわりがある。その代わり、必ず、いいものを作る(?)というタイプだ。

候補に上げてくれたことは光栄だが、もし、その映画を監督したら、数日で問題を起こし、クビになるか? 自分から降りるかだ。何より、出資者たちは感動大作を作ろうとは思っていない。表面的にはそういうが、「どうすれば感動作になるか?」が仕事の方々ではない。なので「いかに自社にプラスになるか?」「社長や関係者が喜ぶか?」あとは「ヒットさせて儲かるか?」が重要なのである。つまり、この企画で大事なのは、感動作を作るより、各社が揉めずに撮影を終え、公開させることが、何よりの優先事項となる。

 「感動作が出来た!」というより

 「皆が不満なく、仲良くやること」が大事なのだ。「いい映画が出来たけど、A社とB社が途中で降りちゃったなあ」では困る。むしろ「ま、作品はそこそこだけど、無事完成したし、皆、そこそも満足してくれたので良かったなあ」ということが大切なのである。その目的からすると、僕のような監督は不協和音を起こす、とんでもないヤツでしかない。

だから、せっかくの好意だが、それを受けることはそのプロデュサーに迷惑をかけることなので、お断りした。ここで、もうひとつ分かること。そのタイプの映画を受けて、そこそこのものが作れる監督こそ、定期的に仕事がもらえて、評価されるということ。候補者の推薦を頼まれたので、何人か上げたが、名前を上げながら「あ、みんな手堅く仕事している人ばかりだ!」と感じた。


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んーーー、「違うな」「これはダメだ」と思っても我慢して監督することが仕事としては大事なんだなあ〜と、改めて感じた。が、それが出来れば苦労しない。僕のモットーは「観客が感動する映画」作りであり「出資企業からの要望を調整して、映画を作ること」ではない。

 それではそこそこの作品しかできない。

 そこそこが出来たら大成功であり、ほとんどが、どーしようもない作品になるだろう。誰もが大手企業の大作を見て「何で、ここまで詰まらないの?」と思ったことがあるはず。今年もそんな大作が何本もあったが、その理由は多くの人が口を出すからだ。

映画を始めとする「作品」というのは、みんなで仲良く作るものではない。強い思いを持つ1人のクリエーターを支持して、多くの人の力を注ぐことが、素晴らしい作品を作る唯一の方法なのだ。それが製作委員会方式ではできない。あれこれ口うるさい俳優事務所が参加すると、うまくいかないことが多い。そんな訳で、本当に申し訳ないが候補段階で辞退させてもらった。同時に、だからいつまで経っても、僕は生活が安定しないことも感じた。

 素敵な映画を作りたいなら、

 厳しい生活で大変な思いをするということ。生活を安定させたいなら「思い」のない映画も作らねばならないということ。はははは、やっぱ無理だよなあ〜。


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