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映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ その25 [撮影ルポ]

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~田中美里の病室での芝居に涙~

by 永田よしのり(映画文筆家)

 午前中からずっと病院の廊下などで撮影していたシーンを終え、昼食休憩を挟み、田中美里演じる大人・みどりの入院している病室での大人・多香子との再会シーンが撮影される。

  そのシーンは、島田病院の別棟4階にある、一般病棟とは別の棟にある病室を借りての撮影だ。
 部屋番号は4506号室(ちなみに相部屋であり、そこには相田雅子という女性のネームプレートが掲げられていた)。

 まずは廊下から別所哲也演じる大人・将太と、常盤貴子演じる大人・多香子が大人・みどりの病室にと入って来るシーン。

 ここでの将太の「みどり、多香子さんが来てくれたよ」の台詞では、監督は将太に「台詞を言う時のヴォリュームを少し落として」と指示。

 台詞の言い方による感情表現を押さえることにより、この場所が病室であるということや、周囲の入院患者への配慮なども見てとれるようになる。

 さらには、将太がみどりと多香子に対しても、今どんな心情なのかを、さりげなく演技の中で見せてくれているのだろうと思う。

 廊下の奥(もちろんキャメラに写り込まない場所)には、病院の看護士たちも撮影の見学にやって来ている。

 僕には聞こえていたが、常盤貴子を見ての看護女性士たちの「常盤さん、顔小さ~いっ!」という、あまりに素直な感想にちょっと笑ってしまう。一般の人たちが女優さんたちを目の当たりにすると、そういう感想が出るものなのだなあ、と改めて思う。

 しかし、実際に映画を観ている観客からすると、この場面もそうだが、実際に画面にはここでは3人しか写っていなくとも、その周囲には30人以上の人間がいるとは絶対に思わないのではないだろうか。

 実際に俳優たちが台詞を言う時にも、画面に写らない場所には、音声録音部のマイクが差し延ばされており、俳優たちの頭の50センチ上とか、極端な場合などは2メートルほど上空にかざされていることもある。

 マイクをつけたムーブスタンドの重量は、片手で持てるほど軽いものではなく、そこそこに重いものなので、録音部スタッフの腕力はかなりのものではないだろうか。映画撮影はやはり体力勝負な部分も多分にあるのだ。

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 病室から将太が出て行き、大人・みどりと大人・多香子の2人だけのシーンとなる。

 ここではみどりが、この日再会した多香子が古里にいなかった時間の経過の中での思いでを吐露する場面。

 台詞は台本にして7ページもある、ある意味この映画の見せどころのひとつ。

 なので、監督と大人・みどり、みどりの話を聞く大人・多香子は撮影前に打ち合わせ確認していく。

 前日にこのシーンの撮影についてそれぞれに話を聞いてみると、監督は「悲しいけれど、人の死というのは色んなことを教えてくれるもの。だから、僕はこのシーンは〃思い〃を持った人に演じて欲しいと思っていた。人生という時間は必ず進んでいくのだということも含めて」

 田中は「死ぬことの準備が出来るという意味も持つ病室でのシーン。そこでまだ自分が生きていることを知るわけで、自分の生き死にをも教えてくれる場面になればいいなと思う。そしてそこで私と常盤さんとの化学反応が生まれれば絶対に、いいシーンになると思ってます」

 と語っていた。

 そんな田中はこの日の撮影のために、「病院に入院しているんだから髪が長いのは変かもしれない」と、髪をショートカットにして臨んでいる。

 本番前にテストが行われる。なにしろ7ページもの台詞があるシーンだ。それを一気に撮ってしまう。当然何回かに分けて撮影するのかと思っていたら、カットなし、感情のあふれるままに1カットで撮影するのだと監督。

 その長い台詞、大人・多香子とのやりとり全てが身体に入っている田中は流石プロフェッショナル!と言うしかないだろう(当たり前なのだろうが、そんなことにもいちいち感心してしまうのだ)。

 テストでの芝居の流れを見ているだけで、引き込まれてしまう。
 感心すると共に、役者の演じることの表現に感動する。

 カット割りが必要なシーンであるはずなのだが、実際にはどんなカット割りになるのか?
 本番の芝居中に見ていて泣けてしまう可能性が多々あったので、僕はテストが終わると隣の空き部屋に移動、壁越しに音だけを聞いて、芝居を想像することにした。

 このシーンがどんな場面に仕上がっているか、はぜひ映画館で確認していただきたい。(つづく) 


 8月22日(土)東京先行ロードショー。品川プリンスシネマ


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