映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ その20 [撮影ルポ]
~多香子と両親の再会場面は必見!~
by 永田よしのり(映画文筆家)
島田の河川敷撮影を終えた後は、そこから車で十数分の家山地区へと移動。
ここでは大人・多香子(常盤貴子)が帰郷して、当時の思い出の場所(レンタルレコード屋、鯛焼きの桜屋、家山駅)などを巡って歩くシーンが撮影されていく。
レンタルレコード屋も鯛焼きの桜屋も現在では閉店しており、その閉店した様子を大人の多香子が外から寂しげに見る、という場面だ。
これも台詞のある芝居ではないので、それほど入念なテストは繰り返されずにどんどん撮影が進められていく。
時間もすでに昼過ぎ。撮影を見物にやって来る人たちの数も多くなってくる。
もちろん、撮影を中断させるようなことのないように、スタッフたちが見物客に、その場所にいることに対する注意などは撮影事前に声をかけていく。
そんな撮影の合間には常盤も、見物客の人たちと気さくに会話を交わしている。現地でのお茶情報などを仕入れたり、差し入れの鯛焼きを食べたりと、リラックスして撮影と、撮影以外の現地の人たちとの交流も楽しんでいるように見える。
レンタルレコード屋と鯛焼き屋・桜屋での撮影を終えると、歩いて数分の家山駅へと移動。
ここでの撮影は午後3時半までという制限があるために、時間内で予定している撮影を終えなければならない。
まずは高校生・多香子(芳根京子)とみどり(藤井武美)の下校場面。数人の市民俳優の方々と一緒に、駅に入って来る電車とのタイミングを合わせて、その電車から降りて来たようにうまくシーンを繋げて撮影していく。
監督は市民俳優たちに「(映画を観る観客に)夏を意識させたいので、汗をふいたり、扇子を使ったりしながら歩いてください」とお願いをしていた。
その後は大人・多香子(常盤貴子)が、帰郷して来るシーンを同じ場所で撮影。
時間軸だけが違うという場面を、同じ場所で撮影することで、映画を観ている観客は、ストーリーの中の時間経過を知り、かつ登場人物たちの時間経過ともリンクすることが出来るように、映像は紡がれていっているのだ。
そんな撮影も無事に時間内で終了。
この後は車で1時間ほど移動して、山間部の伊久美地区へ。これまでの町なかでの移動しつつの撮影とは一変、ここではひとつの場所でじっくり、多香子の実家での撮影となる。
実家に帰宅する大人・多香子(常盤)が、父親(並樹史朗)、母親(烏丸せつ子)と久しぶりに対面するシーンが撮影される。
それを数日前にお借りした民家で再び撮影するのだ。
伊久美地区のロケ現場に到着したのは午後3時40分過ぎ。陽が暮れるまでの数時間を、まずは多香子が自宅まで歩いて帰る道すがらの様子の撮影から始めていく。
この周りは、上空を頻繁に航空機が飛び交う。なぜか、を地元の人に聞いてみると「空港への通り道になっているから、国際線がけっこう飛ぶ。そのためこの周りは〃飛行機銀座〃と呼ばれている」というのだそうだ。
外ロケの場合は以前にも書いたが、周囲の音というのはけっこう影響する。なので、飛行機が飛び去ったらそのタイミングを見計らってすぐに撮影、という状態が続く。
多香子の実家までの道程を撮り終えた後は、玄関での父親(並樹史朗)とのシーン。
ここでは玄関を入る時に、一度後ずさりしてから勢いをつけて玄関に入って来よう、という監督からの多香子の心理描写演出が追加された。
さらに監督から「このシーンは一気に感情を爆発させたい」ということで、カット割りと引きの画面でのライティングがスタッフたちとの間で入念に打ち合わせされていく。
父親と再会する前に大人・多香子の帰宅に立ち会う、家に手伝いに来ていた近所の女性役で市民俳優の女性2人が参加。
監督と入念にリハーサル。まずは市民俳優の女性2人と大人・多香子とのシーンを一気に撮影していくことに。
監督からは2人の市民俳優に、演技の流れが再度細かく指導される。
撮影は何度かのテストの後に台詞のタイミングなど、シーンの流れを決めてからの本番。
こうした撮影に参加するのが初めてだという市民俳優女性陣の1人は、撮影にプレッシャーがあったのだろう、監督の「OK」の声に安心したのか、本番後に泣きだしてしまったのがとても印象的だった。
一息入れてから父親との再会シーン。
父親役の並樹は、監督と大人・多香子(常盤)に、こんな芝居をするつもりなのだが、どうだろうか? といった話し合いをテストから相談している。
いくつかの監督からの訂正を加えた後に、テスト、そして本番へと続いていく。
この場面は側で見ているとかなりの迫力があり、並樹史朗という名バイプレイヤーの力を、まざまざと見せつけられるシーンになっている。
その父親とのやり取りの中で多香子の目にも、みるみる涙が溢れていく。
「良かった! OK!」と、監督。
並樹は監督に握手を求める。その場面を見に来ていた高校生・多香子(芳根京子)とみどり(藤井武美)も、その場面を見て涙ぐんでいる。
ここは映画の中での見どころのひとつとなっているであろう。
続いて、母親(烏丸)との別室での再会シーン。
布団が敷かれて、そこで横になっている母親と多香子とのやりとり。
ここでの撮影はある意味、女優同士の見せ場のひとつでもあろう。
夜8時近く。
この日の撮影は終了。
宿舎に戻り、ひと心地ついた頃、高校生・多香子を演じている芳根京子とみどりの藤井武美の2人は、宿舎の玄関脇で花火を始めていた。
そこに数人の撮影スタッフも参加。「今年初めての花火!」と、盛り上がる2人。1日中、目一杯の撮影が続いている毎日でも、若手2人は元気だ。
明日は午前10時から撮影スタートの予定。
食堂のホワイトボードにはそう書かれていた。(つづく)
2015-05-31 15:34
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