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町おこしのための地域映画が成功しない理由?①キャスティング [町おこし映画の問題点]

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地方自治体や町のグループが中心となり、映画ロケを誘致して町のアピールをしよう!という取り組みが各地で続いている。僕も地方を舞台に映画を撮り続けているので、ときどき相談されるが「それではダメ。必ず失敗する」ということが多い。彼らは映画で町をアピール、観光客を呼んだり、町の魅力を全国に伝えたいというのに、それには繋がらない努力ばかりしているからだ。

要因はいくつもあるが、そんな中から今回はキャスティングについて説明する。ある町で映画を作りたいという相談を5年ほど前に受けた。マイナーな田舎の市なので、大手映画会社は見向きもしてくれない。だったら、自分たちで映画を作ろう!と考えた。そこの関係者と縁があったので、相談にのった。

市役所の大会議室に、町の顔役、実力者、観光課の職員、商工会議所の代表、町では最大手の工場の社長、婦人会の幹部等、30人近くが集まった。彼らの希望は先に上げたように、映画による町おこし、全国へのアピールだ。そこで具体的な希望を聞いた。ある年配男性が答える。

「やっぱり映画なんだから、スターを呼びたい。高倉健がいいなあ」
「だったら、女優は吉永小百合だ」
「そーだなー、きれいどころをズラッと並べた映画にしようぜ」

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この段階で不安になった。で、質問した。今回の製作費をどのくらいに考えているのか? だが、誰も答えない。もちろん、彼らはプロではない。予算と言われても困るだろう。そこで説明した。

例えば、健さんが出てくれるような映画を作るのなら、3億円以上の予算が必要。きれいどころがズラーなら5億円以上を考えてほしい。と、すると、先の年配男性が、

「そんな金どこにあるんだよ! バカなこと言ってんじゃないよ」

その言葉を聞き、映画をどう作るか?ではなく、映画作りの基本から説明していかねばならないことを感じた。「映画を作りたい」といい、相談に乗ってほしいといわれ、僕は自腹で東京から電車で1日近くもかかる田舎町まで来ているのに、彼らは映画作りにのことをほとんど勉強していないことが分かった。

そこでまず、高倉健さんのギャラだけでも膨大な額。それで別の映画が1本作れる額であること。もし、本当に健さんに出てほしいのなら、それだけの予算をどう捻出するか?を考えるのがスタート。でも、3億円以上の製作費を用意できないのであれば、町で捻出できる額で映画を製作。その範囲で呼べる俳優を選ぶべきということ。

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そう説明すると、場内はざわついた。「映画ってそんな金がかかるの?」「健さん呼べないんなら意味ないな」「吉永小百合のギャラも高いのかしら」そんな声が聞こえた。もう、先の言葉「そんな金どこにある」で分かったが、彼らには映画作りということに全くリアリティがないのだ。もちろん、カタギの方なので当然なのだが、この場は真面目に「町おこしのために映画を作る」ことが議題。

にも関わらず、そんな言葉が出るということは、「健さん。うちらの町の映画に出てくれたらうれしいなー」という夢を語っただけということなのだ。それが小学生の発言なら分かるが、町の実力者の1人で、町のアピールのための大事な会議で、夢を語り。「そんな金どこにある」なんて答えをするというのは、どういうことか?

その方は決して不真面目ではなく、真剣に映画による町おこしを考えて参加しているのだと思うが、そんな答えをするのは、映画製作にあまりにもリアリティがなく。現実問題として考えることができないということなのだ。そして、映画雑誌をいくつか読めば、分かる映画界の情報を仕入れることもなく、この会に参加したのだ。

まず、そこに大きな問題を感じる。もし、これが映画ではなく、化学工場誘致であれば、その工場は何を作り、どんな排出物を出し、公害はどうか? そして、どのくらいの収益を町に落とすか? 等。工場と製品について勉強するはずだ。ではないと、あとあと大変なことになる。


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にも関わらず、その人は映画についてまるで勉強もせず。自分の夢を語り。「そんな金どこにある?」と言い出す。他の人たちの発言を聞いても近いものが多い。つまり、この町の人たちは「映画ロケは町おこしになる」と聞いて「そりゃいいやー」と盛り上がり。ほとんど勉強もせずに、顔役が集まり、実業家たちがそこで単なる希望を語ったということなのだ。

しかし、そのあとに出た発言も驚くべきもの。僕の映画ではロケ地出身の俳優さんに出演してもらう。そのことで地元も盛り上がり、その俳優さんも張り切ってくれるからだ。その話をすると、別の男性がこう言う。

「いいねー。だったら、出演者は全員、この町出身の俳優にしよう!」
「そりゃ、いいわー。そうしよう!」

場内は盛り上がった。が、僕は頭を抱えた。事前にその町出身の俳優を調べていたが、名の通った人は2人だけ。無名の俳優を調べても、その町出身の俳優は何人いるのか? 質問した。

「そんなことは知らねーよー。でも、この町で撮るならこの町出身の俳優にしなきゃー」

頭が痛くなった。だったら、地元の劇団か何かを使って映画を撮った方がいいかも? 何より、キャスティングというのは、その役に合った俳優を選ぶことが大事。その前に「この町出身」という規定を作ってどーする? 例え、出身俳優を何十人も集めても、役に合っていない俳優をキャスティグすることになる。それはもうクオリティの高い映画はできないということ。

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何より、俳優が全員、その町出身ということは、映画のプラスにはならない。「へーーそれは凄い」と思う映画ファンはいないだろう。喜ぶのは地元の人だけ。しかし、どこの町で相談を受けても同じ発想の人は結構多いのだ。つまり、映画を使って町をアピールするというテーマから外れ、自分たちが楽しい、盛り上がれることをしたい。

健さんを出演させたい。きれいどころをズラー。地元出身俳優ばかりで。これらは皆、地元の人がそれだと面白いなー。撮影も楽しみだ。という思いから出た発言だ。町をアピールすることは置き去り。「この町に健さん来ればいいな」「地元出身者ばかりだと、皆、知った顔がいて盛り上がる」そういう発想。

3時間を超えて、映画作りとは何か? 地元をアピールするとはどういうことか? 映画はなぜ金がかかるか? どう回収するか? 等を説明したが、集まった方々は「よく分からんなあ〜」という顔。町の財政が切迫し、何かしなければという危機感はお持ちであり、だから、映画で町おこしを考えているはずなのに、そこはやはりリアリティがないようだ。

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結局、その町で映画製作は行われなかった。そして、この記事を読んだ多くの人は「その連中がバカなんだよ」と思うかもしれない。或は「そんな奴、田舎でもいないだろう?」というかもしれない。が、これが地方の現実。その町の実業界では実力者でも、映画に関してはリアリティが持てず。夢を語ることしかできない。こんな方々と僕は数多く、出会った。

けど、これは彼らだけの問題ではない。俳優志望、映画監督志望、或は作家希望の若者も同じ。華やかな芸能界を夢見て、アイドルと仕事出来たら楽しーだろうな。女優さんと仲良くなれるかも!そんな憧れを抱き、専門学校や演劇学校に通う。

が、実際に俳優や監督がどんな現実の中で仕事をしているのか? その厳しい環境を知る者は少ない。それを調べたり、知ろうとする若者も少ない。やがて、卒業。でも、仕事はない。具体的な方法論を持たず、憧れているだけでは目的は達成できない。そんな若者たちと、その町の顔役たちは同じなのだ。

もし、真剣に映画を作り、町おこしをし、全国にアピールするなら、他の事業と同じように、その分野を勉強し、理解し、夢を語るのではなく、現実の中で何ができるか?をまず把握することだ。その町の存亡のための戦い。その手段が「映画作り」というだけのこと。その映画を「夢」で語ってはいけない。


 続き=>http://aozoraeiga.blog.so-net.ne.jp/2015-05-12



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