映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ その16 [撮影ルポ]
映画「向日葵の丘 1983年・夏」撮影現場ルポ その16
~映画の神様が舞い降りた瞬間!~
多香子、みどり、エリカら3人が、自分たちの撮影している8ミリ映画の中で、ミュージカル映画「雨に唄えば」のシーンを演じてみせる場面。
高校の中庭で、彼女たち3人の脇にセッテイングされたのはけっこうな高さのある脚立。そこに同級生・ヒデキ役の市民俳優が上り、ホースでシャワーのように雨を降らせるのだ。
ホースから水を出すタイミングなどを何回か練習した後に本番となる。
傘を手に唄い、踊りだす3人娘。
そこに上から雨のように水をかけるヒデキ。
いい感じで歌とダンスステップが続いていた時、ふいにヒデキの持つホースの手元が壊れるアクシデント。
本編撮影キャメラはまだ回っている。
そこでヒデキはシャワータイプのアタッチメントを急遽捨て、自分の手でホースの口を細くし、水をかけ続けるという機転を見せた。
これにはちょっと驚いた。
映画の撮影現場が初めての高校市民俳優が、自分の力でアクシデントを乗り切ろうと努力してみせたのだ。
普通は、こうした予定していなかったアクシデントが急に降りかかった場合、どうしていいか分からずに動きを放棄してしまうか、周囲のスタッフに助けを求めるだろう。
それをせずに、自分が撮影を止めてしまうことを懸念して、自分の機転でその場で出来ることをしっかりとやってみせたのだ。
そのハプニング的な動きも本編キャメラはしっかりと押さえている。これは映画内映画の生のアクシデント。実際に高校生たちが8ミリ映画を撮影する時には起こり得ることでもあろう。
そこをしっかりとアクシデントをアクシデントとせずに、その映画の中での、生のリアクションとして撮影されたのだ。
経験上、こういう思いがけないアクシデントをしっかりとその場で対応できた時、アクシデントがサプライズに変わった時は、〃いい映画〃になることが多い、と思う。
その確信には確かな根拠があるわけではないが、そんなイメージを持つことが出来た瞬間だった。
まさに、ここで〃映画の神様〃が舞い降りた瞬間ではないだろうか。
このシーンは実際に本編ではどのように使われたか、はぜひ映画館で確認していただきたい。
昼食を挟み、午後からは学校の用務員(飯島大介)さんと、多香子たちの下校時の廊下でのやりとりからスタート。
ここでは監督から「普通に学校から帰る感じでみんなバラバラと教室から出て来て」と具体的に指示。
廊下を走るという設定の多香子たちには「走り出してから用務員さんに怒られるから、そこで急ブレーキをかけるような動きで」とアドバイス。
それら一連の大人数での動きを、キャメラに映らない場所から助監督がタイミングの合図を出す。
助監督の合図によって、25人ほどの高校生たちが一斉に動き出す。それに合わせるように廊下へと走りだす多香子たち。学園もののドラマではよく見られるような青春の1ページが、ここでも切り取られた。
そんな明るいシーンが撮影された後、同じ教室では卒業式・卒業証書を受け取るシーンの撮影となる。
それまでずっと楽しげにしていた心持ちとは一転、真逆の精神状態での表現が要求される場面だ。
それは、午前中から行われていたのは、秋の文化祭前のシーンで、午後は文化祭で起きたある事件のために、多香子とみどりの心が離れてしまっている、という場面に撮影内容が変わるからだ。
多香子役の芳根京子と、みどり役の藤井武美にこの時の心境を後で聞いてみると、やはりそれぞれに「ずっと仲が良かった2人が言葉も交わさなくなるのは辛かった」「自分の中では最初、気持ちを無理やり切り替えた。でも、途中からは相手を見ないようにしていたら、自然と悲しくなってしまった」と語っていた。
やはり、気持ちの切り替えが一番の課題だったようだ。
そうしたことを考慮してか、この場面の撮影はじっくりと行われていたように思う。
監督と多香子役の芳根京子は、何度もヒソヒソと話し合いを繰り返しながら、この撮影に臨んでいたのが印象的だった。そうした場面は最初の頃の撮影では見ることのなかった様子だったからだ。
映画の撮影は、全てが物語の順番・流れ通りに進むわけではない。時には同じ場所で全く違う心象のシーンが撮影されることもある。それは同じ現場で、移動時間を節約してしまうため。そういう時の俳優の気持ちの切り替えは、やはり見ていて大変なのではないだろうか。だが、そこをしっかりと乗り越えてみせることも、俳優たちにとっては非常に自分の力の見せどころ出もある。
すっかり陽が暮れた午後7時過ぎ。
教室での撮影は終了した。
だが、この日はまだ撮影するシーンが残っている。
そのためスタッフは機材の片付けを急ぎ、次の撮影現場へと移動を始めるのだった。(つづく)
2015-05-01 09:51
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