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「向日葵の丘 1983年・夏 」撮影現場ルポ/その12 ~多香子とお母さんの別れのシーンは、映画の山場のひとつ!~ [撮影ルポ]

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~多香子とお母さんの別れのシーンは、映画の山場のひとつ!~

by 永田よしのり(映画文筆家)

 親子3人でのシーンが終了すると、次は多香子が、自分の部屋に一人でいるシーンが撮影される。

 そこでは時間の経過と共にシーン替わりを計算しての数シーンが撮影された。
 狭い部屋の中には11人ものスタッフが。
 限られた空間の中では、撮影本編に関係のない者はジャマになってはいけない。
 なので、僕はベランダに出て中の様子のぞき込みながらを確認。
 そろそろ夕方に近い時間。

 春とはいえ、山合いでの撮影、だんだんと足元も冷えてきている。
 多香子が一人、部屋で悩んでいる姿などをいくつかのテイクに分けて撮影。
  別の部屋ではスタッフが、部屋に張った暗幕や使用機材の片付けなどを手分けして進めている。

 この日も撮影終了時間は夜になりそうなのは確実。手の空いて入るスタッフは、進行を読みながら平行して片付けもしているのだ。
 そしていよいよこの日最後となる場面の撮影になる。
 多香子が家を出て行くシーンだ。
 時間的にも夕暮れが近づいてきており、自然光で撮影するのがギリギリの時間帯。

 着替えをした多香子が、荷物を持って玄関から出て来るシーン。
 多香子が玄関から出る→母親・美里がフレーム・インして呼び止める→母娘との会話→多香子が一人で歩いて行く、というシーン。

 夕方なのでキャメラの撮影感度を変更する指示が出る。
 このシーンでは多香子(芳根京子)が、お母さん(烏丸せつ子)との段取り芝居をする段階でもう涙が流れていた。

 実は、この母親との別れの場面では、自分の感情を高ぶらせるために「聞いたら泣けちゃう」という「仰げば尊し」を直前までイヤーフォンで聞いていたのだと、後で芳根京子は教えてくれた。

 お母さんと多香子の別れの場面では、2人の感情の高まりをキャメラを意識させないで撮るために、あまり2人に近寄らずに撮影している。これも演出技法だ。
 監督からは「最初から泣かないように」と言われるが、どうしても気持ちが高ぶってしまい涙目になってしまう芳根。

 さらに外は薄暗くなってきているので、人の気配に感知して玄関口に設置してあるセンサー・ライトが点灯してしまったりもして、集中が途切れる場面も(なので、途中からはセンサー・ライトの電源を切って撮影を続けた)。

 そんな中でも感情を押さえながら演技に集中し、気持ちを持っていけるように、リハーサルの間中、烏丸がさりげなく芳根に接していく。
 玄関前でお母さんと多香子が別れる時のやりとり、このシーンは自分の母親のことを思い出して、実際に映画を観る観客も涙することだろう。

 お母さんとの別れを済ませ、家からどんどん多香子が一人で歩いて行く場面では、スタッフ、手持ちのキャメラがかなりの距離を一緒に歩いて撮影していく。
 一体どこまで行くのだろうか、と思われる長い距離を撮影していた。
 撮影を終えて戻って来た多香子の目は泣き腫らして真っ赤だった。

 歩いている間中、ずっと泣いていたのではないだろうか(このシーンも撮影のジャマにならないように、僕は一緒について行かず、遠くから見ていたのだ)。
 ここでは家を出る娘を見送るお母さんの娘を思う気持ちも、しっかりと描かれている。

 そしてそのお母さんの気持ちを受けながらも家を出て行くことを選択した多香子の姿が印象に残る場面。
 多香子を演じる芳子京子は、この日の撮影で感情をかなり大きく変化させるという経験をした。
 この日の撮影を芳根京子が体験したことで、この後の多香子の姿にどう反映されていくのか、そこも今後の撮影の注目点となっていくのではないだろうか。

 なぜ、そう思うかを説明すると、この映画はほぼ脚本に書かれた通りの順番で撮影されている(順撮りという)。そのためにこの日のシーンを撮影した後にも、多香子の出演シーンはまだまだたくさんあり、感情をコントロールしなければならない場面も今後たくさん残っているからだ。
 そこにこれまでの撮影までと(この日までは、わりと楽しい高校生活などの日常シーンの撮影が続いていた)どんな変化が見られるか、そこが楽しみという意味だ。
 
 すっかり陽が落ちて夜になった頃、撮影は終了。
 宿舎に戻ると、この日は撮影のなかったみどり(藤井武美)とエリカ(百川晴香)が夕食作りの手伝いをしていた(昼間は翌日からの自分たちの撮影準備に当てていたそうだ)。
 彼女たちが作った、だし巻の卵焼きや煮物などが食卓を飾り、スタッフたちの労をねぎらうこととなった。
 もちろん、スタッフみんな、出てきた料理を残すことなくきれいに食べてしまったことは言うまでもない。(つづく)

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