「向日葵の岡1983年・夏」撮影現場ルポ その11 [撮影ルポ]
~高校生の多香子と父親との確執が露に!
by 永田よしのり(映画文筆家)
昼食を挟んで、午後からは多香子(芳根京子)と、父親(並樹史朗)、母親(烏丸せつ子)の親子3人でのシーンが撮影される。
まずは仕事から帰宅したお父さんが、テレビを見ている多香子をたしなめるシーン。
多香子とテレビとの距離や位置関係などを監督は確認する。
ここではテレビの「洋画劇場」オンエア作品「紳士は金髪がお好き」(マリリン・モンロー主演/1953年/監督・ハワード・ホークス) が始まるのを、多香子がテレビの前で待っているという場面。
そこに帰宅したお父さんが多香子に対して、映画なんて見てないで勉強しろ、とたしなめる場面だ。
ここではお父さんが「何がノーマ・ジーンだ」というアドリブも入れている(つまり父親=演じている並樹史朗が)。
「映画なんか」と言っているわりにマリリン・モンローの本名も知っている、という小ネタなのだ。それが本編で使われているかは、劇場で確認を。
これまで多香子の撮影シーンでは、仲間たちとの和気あいあいとした場面が主に撮影されてきたが、ここで初めて家族(父親)との確執や感情を爆発させるシーンが展開されることになる。
そこで自分に反発する娘の顔を見ずに、自分の台詞を言う父親、という感情の現れも表現される。
お父さん役の並樹は、このシーンは、台詞の間、拍数なども数えて台詞を言うことを考えていたのだと、後で僕に教えてくれた。
つまり、自分の台詞と感情のコントロールを並樹は考えていたのだ。
そして多香子はそんな父親との台詞回しを、膝を突き合わせて何度も練習、確認していく。
そこにあるのは年齢が離れていることなど関係のない、一人一人の役者としての向き合い方が見て取れる。
そして父親にたしなめれら怒って部屋を出て行く多香子が新聞を投げつけるという、感情的な場面が続く。
ここでは多香子が監督に「新聞をたたきつけるのって、こういう風がいいですか?」と、確認している。
撮影が始まってから数日の頃は、多香子を演じる芳根京子から撮影の際のアイディアはまず出てくることはなかった。
それが撮影が進むにつれて、自分から監督に演出の相談をするようになってきている。
それは撮影現場に慣れてきたこともあるだろうが、より良いものを模索していこうという姿勢の現れとしてのものなのだろう(つまり多香子という役を演じることに欲が出てきたということや、多香子という役が芳根京子に同化してきているからなのだろう、と僕は考えていた)。
さらに言えば、ここでお父さんは煙草に火を点けているのだが、多香子が新聞を投げ付ける(畳に叩きつける)ことで、その風圧を受けてお父さんの煙草の煙がゆらめく動き方にも変化がつくという効果もある。
つまり煙草の煙にも演出としての意味合い(どれだけの強さで多香子が新聞を叩きつけているのか、それは多香子の怒りの度合いでもあるということ)が現れるということだ。
監督はそんな場面のやりとりを、土間にセッティング(役者たちが演技をする居間に向けて)してあるキャメラをのぞきに、靴も履かずに降りてチェックしに行く。
そんな本番中、撮影している部屋の外にもスタッフは待機している。
外にいる人間に対してはスタッフが「本番」を知らせるために人差し指を立ててグルグルと回すという合図がある。
指が回っている間は本番のキャメラが回っている時間なので、歩き回ったり話したりしないで静かにするようにという合図だ。
初めてこうした撮影現場に来た人もいるために、そうした合図の説明もされていた。
また、居間でのシーンの間にも別のスタッフは、次の夕食シーン撮影のために、台所で夕食の用意などもしている。撮影現場では実際に撮影している場所だけにスタッフが働いているのではないことを改めて知らされる。(つづく)
2015-03-27 04:35
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