映画は主演俳優の人気だけではヒットしない。 それにまだ気づかない業界の人々

　飲み会でばったりと出会った知り合い。彼は年配のプロデュサー。こんな話を聞かせてくれた。

「いやー、＊＊子主演の映画。昨年の秋に公開したんだけど、惨敗だったよ。全然、客が入らなかった。あいつも人気あると思っていたけど、意外に駄目だね〜」

　その映画。僕も試写で見ていた。が、Pのいうことは間違っている。＊＊子の人気の問題ではない。今時、どんな人気があるアイドルでも、ただ映画に出ただけでは客は来ない。２０年前からそうだ。

　裕次郎、勝新の時代ではない。いや、人気俳優やアイドルが出演して映画がヒットしたのは８０年代のたのきん、までだろう。広末涼子が全盛のときに出演した映画でもヒットしていないものは多い。それからでも、もう１０年以上が経つ。そんな時代に「主演女優の人気がなかったので、客が来なかった」というのは、どういう感覚なのか？

　今どきの観客。人気者が出ているだけでは映画館まで来ない。アイドルがCDを出しただけでは売れない。昔は、人気アイドルがCMに出て、映画に出て、ドラマに出て、レコードを出せば、ファンは全てを受け止めた。が、今はファンであるからとCDを買ったり、映画館へ行ったりはしない。

　その手の映画で客が入るのは、初日だけ。なぜなら舞台挨拶があるから。ファンは＊＊＊ちゃんを見にくるのだ。が、映画には興味がないので、翌日から映画館はガラガラ。本当によくある話で、１０年前からの現実。

今の客。歌はそれなりに聴けるものでなければCDは買い求めないし、映画は映画として楽しめなければ誰が出ていても見に来ない。人気俳優が出ているというのは、話題性のひとつにしかならず、集客には直接結びつかない。つまり、その映画がヒットしなかったのは主演女優の責任ではなく、映画が詰まらなかったから。責任は監督にある。

　彼にそう話したら「監督も駄目だけど、やっぱ主演女優だよ」というので、さらに呆れて、何も言う気がなくなった。昔から顔見知りではあるが、彼とは絶対に仕事はしないと改めて決める...。

　その映画の監督も知り合いなので、話を聞いた。ら、そのPはあれこれ注文が多く、主演女優は＊＊＊子さん。脇役は＊＊＊事務所から選ぶ。＊＊＊と＊＊＊（＜＝商品名。つまりタイアップ）は必ず画面に出してほしい。撮影は１週間（あり得ない！通常は３週間）で終わること。そして、信じられないほど製作費が安い。映画学校の実習か？という額。

　超低予算で、時間もなく。縛りも多い撮影。いいものができるはずがない。そんな条件で請け負った監督も監督だが、その条件で映画館で公開する作品はできないだろう。つまり、興行の失敗は主演の＊＊＊子さんではなく、監督であり、もっと言えば、そんな過酷な条件しか揃えられなかったP自身である。

　それを「＊＊＊子の人気が今ひとつだから駄目」という結論を出すところは、もう呆れるしかない。だが、そんなタイプのプロデュサーはとても多い。同じように興行失敗の責任を主演俳優に負わせる人たちを何度も見て来た。

　「＊＊＊君。駄目だったね。もう落ち目だだね。あいつじゃ客はもう来ないよ」

　なんていうが、１００歩譲って人気があれば客は来るとしても、その俳優を選んだのはPなのだ。彼の責任。人気が落ちていることに気づかないPが悪いのだ。さらにいえば、俳優人気で客を呼ぼうという発想自体が時代遅れ。

つまり、主演の問題ではなく、そのPが諸悪の根源。だが、彼らはひとつだけ特技がある。責任を誰かになすり付けること。そして上に取り入ることは抜群にうまい。そんなタイプのPと何度もぶつかり。「二度と仕事しない！」宣言をして、僕はどんどん仕事を減らした。

しかし、映画作りで一番大切なのは、作品そのものが面白いということ。その上で人気俳優が出ていること。現代の客は俳優人気だけでは映画館まで来てくれない。だから、物語が大事。そこをおろそかにして、映画作りをしても、お客は来てくれない。それに気づかないPと仕事をしても、本当にいいものはできない。

　そして何より、どこの業界でもそうだが、過去の価値観にいつまでも縛られている人は、まわりに迷惑をかけるだけで、現代を生き延びることはできない。やがて淘汰されていくはずだ。