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向日葵の丘ー監督日記 映画監督は冷静ではいけない? 感情的でないと駄目? [編集]

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「監督〜ちゃんと冷静に仕事してくださいよ〜」とメールをくれたスタッフがいる。このFBで「毎日、泣きながら編集している」と書いたのを読んだようだ。彼が思うのは「監督たるもの感情に流されず、冷静に客観的に編集をするべきだ!」という意見なのだろう。

基本的には合っている。「この女優さん。好きだから長めにカット使っちゃおう〜」と、不必要に個人的な趣味で編集するのは駄目。このカット撮るのに撮影部さん苦労したのに、全く使わないと申し訳ないから残そう」とかいうのも駄目。だが、映画というのは、そもそも感情に訴えかけるもの。それを客観的に冷静になって作業しているだけではいけない。

そもそも、監督というのは観客の代表であり、一番最初に俳優の演技を見て、映像になったものも見る。そこでどう感じるか? 感動するのか? 笑うのか? 泣くのか? それが重要なのだ。どう感じたか?で演出や撮影方法が決まる。

逆に言えば、感動的な演技を見て、冷静に客観的に捉えるというのは、その芝居に感動できないということ。それは冷静なのではなく、感動できる感性がないのではないのだろう。だから、観客の代表であり、最初の観客である監督はある意味で冷静で客観的ではいけない。観客と同じ感性の目を持ってなければならない。

黒澤明監督の「静かなる決闘」の撮影中。主演の三船敏郎の演技にカメラマンは感動したという。あまりの感動に手が震えるので、カメラが揺れてはいけないと、手を離して撮影を続けた。そのとき「黒澤監督はどんな表情で見ているのか?」と思い、振り向くと、ボロボロと涙を流しながら三船の芝居を見ていたという。

また、「男はつらいよ」シリーズの撮影。本番中に渥美清さんのアドリブでスタッフまで笑ってしまい、NGが出ることがよくある。俳優でない人の笑い声が録音されるのはまずい。で、そんなとき大笑いして一番NGを出すのが山田洋次監督。それらのエピソードを聞くと、冷静で客観的というより、監督業は一番、感受性が強く、一番笑って、一番泣くタイプの人ではないか?と思える。

なのに、昔から映画界では「監督は冷静沈着。客観的に芝居を見なければ駄目だ」という人が多い。確かに、現場で取り乱したり、泣き崩れたりするのはマズい。でも、やはり、巨匠たちのエピソードを聞いていると「冷静」「客観的」より「感情的」な人が多い、少なくても編集作業ではその資質が必要だと思える。

自分で監督した作品は何度も映画館へ行き、どこで客が笑い、どこで泣くか? どこでどんなリアクションをするか必ず確認する。東京だけではなく、行ける限り全国の映画館へ行く。そこで客席には座らず、壁ぎわに立ち。スクリーンと客席を交互に見ながら、客の反応を確かめる。

客層も、若い人、学生、子供、男性、女性、お年寄りといろんな人を見る。面白いことに、どの県でも、どこ劇場でも、皆、同じシーンで笑い、同じシーンで泣く。これは国内だけでなく海外で上映しても同じ。そして、それら泣けるシーンと笑えるシーンは、皆、編集時に僕自身が泣き、笑った場面である。

つまり、自分が泣けないものは観客も泣けない。自分が笑える芝居はお客さんも笑うということ。自分は泣けないのに、或いは笑えないのに「観客を泣かそう」「笑わそう」と考えて、編集すると駄目。それが分かってから、編集しているときに、泣けるか?どうか? がかなり大事なポイントだと考える。で、今回、何シーンで泣けたかな? 果たして劇場ではどうか? 楽しみである。

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